愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─

櫻井音衣

文字の大きさ
15 / 25

彼女の素顔 3

「潤くん、あれって潤くんの……」
「うん……でももういいんだ、本音も本性も知れたし」
「大丈夫……?顔色悪いよ」
「ごめん英梨さん、もう帰ろう」

俺と英梨さんがそのまま店を立ち去ろうとしたとき、金髪の男に肩を抱かれて席を立ちこちらに向かって歩いてきた吉野と目が合った。
吉野は俺の姿に気が付くと、大きく目を見開き慌てふためく。

「どうした茉央?早く行こうぜ」

さっきまで話のネタにしていた『御曹司』が俺だと知らない金髪の男は、俺の目の前で吉野を抱き寄せた。

「お似合いだな、吉野」
「あっ……違うの三島くん、これはその……小さい頃から仲のいい友達で……」

吉野は金髪の男の手を振り払って必死で取り繕おうとしている。
この状況でどれだけ言い訳したって無駄だってわからないのかな。
何も言わずに別れてやろうと思っていたけれど、俺も吉野の本音を聞いたことだし、吉野にも俺の本音を聞かせてやるのがスジってもんだろう。

「いまさら言い訳しても無駄だ、全部聞こえてたから。 俺は吉野がしつこいからしかたなく付き合ってやってたけど、吉野のことなんか全然好きじゃないから触りたくもなかっただけ。無理してやんなくて良かったわ。今からその男と行くんだろ?好きなだけやってもらえよ。じゃあな」

俺が店を出て足早に歩いていると、英梨さんが小走りに俺のあとを追いかけて来る。

「潤くん、待って!」

俺を好きだと思ってた女にかげであんなこと言われているところに一緒に居合わせたなんてカッコ悪くて、こんな情けない顔を見られたくなくて、英梨さんの声が聞こえているのに俺はペースを落とすことなく歩き続ける。

「潤くん!」

追いかけてきた英梨さんは俺の腕をつかんだ。

「ごめん、さすがにちょっとカッとなってて……ひとりになって頭冷やしたいんだ。俺は先に帰ってるから、英梨さんはゆっくり帰ってきていいよ」

無理に作り笑いを浮かべてそう言うと、英梨さんは何も言わずにうなずいて手を離した。
本当は英梨さんも俺のことをつまらない男だと思っているから、何も言えなかったのかも知れない。


家に帰るといつもはリビングで一息つくけど、今日はそのまままっすぐ自分の部屋に入った。
エアコンをつけて鞄を床に置き、制服のネクタイを外してベッドに倒れ込む。
昨日の吉野の言葉は全部嘘だったんだと思うと、吉野を傷付けないように精一杯気を遣っていたことがバカらしく思えた。
俺は誰と付き合ってもうまくいったことがないから、好きになってくれた相手に本気で恋をして、彼女を大事にしたいと素直に言える太一が、正直言うと心底うらやましい。
やっぱり実の母親からも愛されなかった俺を本気で好きになってくれる人なんて、いないのかも知れない。
そして愛されることを知らない俺自身も、きっと誰も愛せない。
俺のそういうところが、誰にとってもつまらないんだと思う。
そんな俺に一番嫌気がさしているのは、ほかでもない俺自身だ。
とにかく今はどうしようもなく虚しくて、砂漠みたいにカラカラに渇いた心に、誰でもいいから愛情という名の水を注いで、いっぱいに満たして欲しいと思ってしまう。
俺を好きだと言ってくれるなら、相手は吉野でも他の誰でも良かったんだ。
だから本当のことなんか知りたくなかった。
嘘でもいいから、誰か俺のことを好きだと言って安心させて。
そうすれば俺は明日からも、自分の足で立って歩くことができるはずだから。


感想 0

あなたにおすすめの小説

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜

紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。 しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。 私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。 近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。 泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。 私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。

【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。

山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。 姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。 そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。