愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─

櫻井音衣

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あきらめの悪い臆病な男の本気の恋

それからの俺は志織に恋い焦がれながらも告白する勇気はなく、何年もの間長い片想いをしていた。
笑って他愛ない会話をして、ふざけながらできるだけ自然にスキンシップを取り、少しでもいいところを見せたくて人一倍仕事を頑張った。
志織に好かれたいという気持ちはこれまでの愛されたい欲求とはまったく異なり、俺自身が志織を好きだから志織からも好かれたいという単純なものだった。
志織をもっと知りたい。
もっと俺を知って欲しい。
志織に触れたい。
思いきり抱きしめたい。
そして誰よりも志織を愛したいし、俺だけを愛して欲しい。
そんな気持ちを募らせながら、何も言えないまま3年以上の月日が流れたある日、志織が異動になったのを機に、思いきって告白しようと食事に誘った。
俺が好きだと言ったらどんな反応をするのか、もしかしたらあっさり断られるのかもと思ってなかなか本題を切り出せずにいると、志織の方から「歳下の彼氏ができた」と嬉しそうに報告され、想いを告げる前に玉砕してしまった。

それでも俺は志織をあきらめきれず、『部署は変わっても気にかけてくれるいい先輩』を演じ続けているうちに、俺は課長に、志織は商品管理部生産管理課の主任に昇進した。
付かず離れずの距離を保ち、関わりを絶やさないようにして、なんとか振り向いて欲しいと願いながら志織を想い続けている間に30歳を過ぎ、俺の将来を心配した父から度々縁談を持ち掛けられるようになった。
なんとか話をはぐらかして縁談を断り続けていたものの、父が玲司の母親のゆうこさんと再婚してからは、さらに結婚を急かされるようになってしまった。
どの縁談にも首を縦に振らない俺にとうとうしびれを切らした父は、「俺の勧める相手との縁談がそんなに気に入らないのなら、さっさと自分で相手を見つけてこい」と言い放った。
人一倍……いや、人の数倍はせっかちな父にしては、ここまでよく我慢したものだと思う。
だから余計にそろそろ本腰を入れて将来を考えなければ、無理にでも父の選んだ相手と結婚することになってしまうだろう。
しかし俺は相変わらず女性が苦手だし、どうしても志織のことがあきらめられずにいた。
志織が俺の奥さんになってくれないかな。
もし本当にそうなれば、あんな男よりもずっと大事にするし、一生愛し続けるのに。
告白する勇気もなくてずっと片想いを続けているくせに、そんな妄想ばかりが膨らむ。

ちょうどそんなことを思っていた矢先、同じ会社に入社してから志織と同じ部署にいた玲司が俺と同じ部署に配属された。
志岐と玲司は相変わらず俺を兄のように慕ってくれて、同じバレーボールサークルでも一緒に活動している。
バレーサークルの飲み会で父から結婚を急かされていると話して、一回りほども歳下の女の子から「婚約者に立候補する」などと言われ熱烈なアプローチをされてまいっていた俺は、仕事を終えて志岐と玲司と一緒に食事をしているときに、いとこということもあって気がゆるんだのか、結婚に関する悩みを吐露してしまった。

その後、志織が酒の席で俺と玲司に男心がわからないと相談を持ち掛けて来たり、志岐と木村のこじれた恋の修羅場に遭遇したりした。
そして玲司が突然、志織を俺の偽婚約者に仕立て上げる作戦を持ち掛けた。
俺は志織に対して、こんなことに巻き込むのは申し訳ないからと断りながらも、心のどこかでは、もしかしたらこれは最後のチャンスなのではないかと考えていた。
かなり強引な玲司にうまく丸め込まれる形で、志織に婚約者になってもらうことに成功した俺は、このチャンスを逃すまいと、志織に振り向いてもらうため必死でアプローチした。
しかしだんだん距離が近付いてきたと思った矢先に、かつて俺を捨てて上司と結婚した芽衣子が現れ、すれ違いから志織に二度目の失恋をした。

その後、気持ちが通じあっても俺の家の後継者問題で志織が怯んでしまい、俺は志織に去られるのが怖くて、自ら身を引くふりをして逃げ出してしまった。
今度こそ志織をあきらめようとしたけれど、一度味わってしまった志織との幸せな時間を忘れられるはずもなく、事故に遭って命の危険を感じたときに、何があっても志織だけは絶対に離したくないと強く思った。
それは志織も同じだったらしい。
奇しくも事故に遭った志織も、俺と会えなくなってその気持ちが強くなったようで、再会できたときにはお互いの気持ちを素直に伝え合うことができた。

それからはめまぐるしいほどの早さで話が進み、あんなに悩んで躊躇していたのが嘘のように、俺と志織はあっという間に結婚した。
いつか子どもができたら、志織と二人で目一杯の愛情を注いで、まっすぐに人を愛し、愛される子に育てたいと思う。



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