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常識と価値観の違い
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近所のファミレスで食事をした後、家に帰って少しすると、希望は絵本を読みながら眠ってしまった。
逸樹は希望を昼寝布団に寝かせ、そのあどけない寝顔を眺めながら紫恵のことを考えていた。
公園で香織に尋ねられた時、紫恵のことを誰よりも愛していると答えた。
後になって、部下相手に何を言っているんだとかなり恥ずかしい気もしたが、紫恵を想う気持ちに嘘はない。
もう二度と、自分のせいで紫恵を泣かせたり悲しませたりしたくない。
紫恵にはいつもすぐそばで笑っていて欲しい。
子供がいようがいまいが、この先の長い人生を共にしたいと心から思う相手はただ一人、紫恵しかいない。
紫恵が不安を拭えないなら、安心できるまで何度でも愛してると言って抱きしめようと逸樹は思った。
その頃紫恵は、高校時代から仲の良かった友人たちと集まっていた。
レストランで食事をして、食後のコーヒーを飲みながら近況を報告し合う。
綾乃は結婚4年目の専業主婦で、夫はふたつ歳下、2歳の男の子ともうすぐ1歳になる女の子の育児に奔走中。
春菜は大手文具メーカーに勤める独身OLで、自他ともに認める恋多き女。
そして紫恵の一番の親友の圭はインテリアデザイナーで、同じ仕事をしている彼氏と同棲中。
高校時代はたいした差はなかったが、30歳にもなると、それぞれの置かれている環境はさまざまだ。
「そういえば、4人そろうの久しぶりじゃない?」
「ここ何年かずっと綾乃が妊娠、出産、育児でバタバタしてたからね」
「そうだったね。今日は旦那さんが子供たち見てるの?」
「旦那一人じゃあの子達の子守りは無理だから実家に預けてる。両親と妹が面倒見てくれてるから、今日は安心してゆっくりできるわ」
毎日の怒濤の育児から解放されて、綾乃は清々しい顔をしている。
「旦那さんは?」
「さあ?うるさい嫁も子供たちもいないことだし、一人で思いっきり羽伸ばしてるんじゃない?」
綾乃がなにげなく言った言葉に、紫恵はまた今朝の逸樹との喧嘩を思い出して肩を落とした。
逸樹は今頃どうしているだろう?
逸樹もうるさい紫恵がいなくてせいせいするなんて思っているんだろうか?
「羽伸ばしてるって、パチンコとか?」
春菜が尋ねると、綾乃は眉をひそめて小さく息を吐き出した。
「どうせ職場の若い女とイチャイチャしてるんでしょ」
綾乃があまりにさらりと言うので、紫恵は思わず耳を疑った。
「……え?それって……」
「職場の後輩と浮気してんの、うちの旦那」
「綾乃……それ知ってるのに何も言わないの?」
「所詮遊びでしょ?たまに相手変わるみたいだし」
「ええっ?!」
紫恵も春菜も圭も、それには思わず絶句した。
何人も浮気相手がいるという綾乃の夫の神経も疑うが、それを知っていても平気な顔をしている綾乃も信じられない。
「綾乃はなんとも思わないの?」
「思わなくはないよ。けどほら……うちでできないことを外に求めてるんじゃない?」
「……どういうこと?」
「上の子産んでから旦那に触られるのもイヤになって、ずっとしてないから」
「え?」
「でもやっぱり二人目が欲しいって思って、気持ち悪いの我慢して排卵日に狙いを定めて子作りしたら1回で妊娠した」
「1回で?!すごすぎ……」
自分はあんなに頑張ってもダメだったのに、子供が欲しいと思えばすぐに妊娠して子供を産めるなんて、世の中には羨ましい体質の人もいるものだと紫恵はため息をついた。
「それって……結婚してる意味ある?離婚とか考えない?」
「私も旦那も子供のことはかわいいから、お互いに離婚する気はないよ。一緒に生活してる分には全然イヤじゃないし」
「旦那さんが他の人と浮気してても平気?」
「家族だけど、もう男と女ではないって言うか。ずっとしてないけど私はしたくないからそれでいいし、旦那はしたくても私とはできないから外で発散してる」
「えーっ……。なにそれ……」
「そんなことって実際にあるんだね……」
もし逸樹の子供を産むことができたとしても、逸樹が他の女と浮気していたら、とても正気じゃいられないだろうと紫恵は思う。
『好きにすればいい』なんてつい言ってしまったけれど、やっぱり自分だけの逸樹でいて欲しい。
ずっと逸樹だけを愛したいし、逸樹にも自分だけを愛して欲しい。
それが紫恵の本音だ。
綾乃夫妻には綾乃夫妻なりの事情があって、この状態に納得した上で結婚生活を続けているのだと思うが、紫恵にはやっぱりその気持ちが理解できなかった。
「私は…やっぱりイヤだな……」
紫恵が思わず呟いた。
「何が?」
綾乃には紫恵の気持ちがわからないようだ。
逸樹は希望を昼寝布団に寝かせ、そのあどけない寝顔を眺めながら紫恵のことを考えていた。
公園で香織に尋ねられた時、紫恵のことを誰よりも愛していると答えた。
後になって、部下相手に何を言っているんだとかなり恥ずかしい気もしたが、紫恵を想う気持ちに嘘はない。
もう二度と、自分のせいで紫恵を泣かせたり悲しませたりしたくない。
紫恵にはいつもすぐそばで笑っていて欲しい。
子供がいようがいまいが、この先の長い人生を共にしたいと心から思う相手はただ一人、紫恵しかいない。
紫恵が不安を拭えないなら、安心できるまで何度でも愛してると言って抱きしめようと逸樹は思った。
その頃紫恵は、高校時代から仲の良かった友人たちと集まっていた。
レストランで食事をして、食後のコーヒーを飲みながら近況を報告し合う。
綾乃は結婚4年目の専業主婦で、夫はふたつ歳下、2歳の男の子ともうすぐ1歳になる女の子の育児に奔走中。
春菜は大手文具メーカーに勤める独身OLで、自他ともに認める恋多き女。
そして紫恵の一番の親友の圭はインテリアデザイナーで、同じ仕事をしている彼氏と同棲中。
高校時代はたいした差はなかったが、30歳にもなると、それぞれの置かれている環境はさまざまだ。
「そういえば、4人そろうの久しぶりじゃない?」
「ここ何年かずっと綾乃が妊娠、出産、育児でバタバタしてたからね」
「そうだったね。今日は旦那さんが子供たち見てるの?」
「旦那一人じゃあの子達の子守りは無理だから実家に預けてる。両親と妹が面倒見てくれてるから、今日は安心してゆっくりできるわ」
毎日の怒濤の育児から解放されて、綾乃は清々しい顔をしている。
「旦那さんは?」
「さあ?うるさい嫁も子供たちもいないことだし、一人で思いっきり羽伸ばしてるんじゃない?」
綾乃がなにげなく言った言葉に、紫恵はまた今朝の逸樹との喧嘩を思い出して肩を落とした。
逸樹は今頃どうしているだろう?
逸樹もうるさい紫恵がいなくてせいせいするなんて思っているんだろうか?
「羽伸ばしてるって、パチンコとか?」
春菜が尋ねると、綾乃は眉をひそめて小さく息を吐き出した。
「どうせ職場の若い女とイチャイチャしてるんでしょ」
綾乃があまりにさらりと言うので、紫恵は思わず耳を疑った。
「……え?それって……」
「職場の後輩と浮気してんの、うちの旦那」
「綾乃……それ知ってるのに何も言わないの?」
「所詮遊びでしょ?たまに相手変わるみたいだし」
「ええっ?!」
紫恵も春菜も圭も、それには思わず絶句した。
何人も浮気相手がいるという綾乃の夫の神経も疑うが、それを知っていても平気な顔をしている綾乃も信じられない。
「綾乃はなんとも思わないの?」
「思わなくはないよ。けどほら……うちでできないことを外に求めてるんじゃない?」
「……どういうこと?」
「上の子産んでから旦那に触られるのもイヤになって、ずっとしてないから」
「え?」
「でもやっぱり二人目が欲しいって思って、気持ち悪いの我慢して排卵日に狙いを定めて子作りしたら1回で妊娠した」
「1回で?!すごすぎ……」
自分はあんなに頑張ってもダメだったのに、子供が欲しいと思えばすぐに妊娠して子供を産めるなんて、世の中には羨ましい体質の人もいるものだと紫恵はため息をついた。
「それって……結婚してる意味ある?離婚とか考えない?」
「私も旦那も子供のことはかわいいから、お互いに離婚する気はないよ。一緒に生活してる分には全然イヤじゃないし」
「旦那さんが他の人と浮気してても平気?」
「家族だけど、もう男と女ではないって言うか。ずっとしてないけど私はしたくないからそれでいいし、旦那はしたくても私とはできないから外で発散してる」
「えーっ……。なにそれ……」
「そんなことって実際にあるんだね……」
もし逸樹の子供を産むことができたとしても、逸樹が他の女と浮気していたら、とても正気じゃいられないだろうと紫恵は思う。
『好きにすればいい』なんてつい言ってしまったけれど、やっぱり自分だけの逸樹でいて欲しい。
ずっと逸樹だけを愛したいし、逸樹にも自分だけを愛して欲しい。
それが紫恵の本音だ。
綾乃夫妻には綾乃夫妻なりの事情があって、この状態に納得した上で結婚生活を続けているのだと思うが、紫恵にはやっぱりその気持ちが理解できなかった。
「私は…やっぱりイヤだな……」
紫恵が思わず呟いた。
「何が?」
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