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女の幸せ
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春菜はその人を自分の前に突き出した。
「紹介するわ。この人ね、今私が付き合ってる人」
「春菜の彼氏?」
突然何事かと綾乃は困惑気味だ。
「鈴木玲音。綾乃は初めて会うでしょ」
「えっ……ちょっと待って、何それ?どういうこと?!」
春菜の彼氏と、ついさっき聞いたばかりの圭の別れた彼氏が同じ名前であることに、綾乃は混乱している。
「会ったこと一度もなかったし、まさか圭の彼氏だとは思わなかったけどね。玲音も私と圭が友達なんて知らなかったんだろうけど?」
玲音は突然のことに身動きもできず絶句している。
「玲音さぁ……2か月前、私と付き合い出した時に、もう彼女とは別れたって言ったよね?」
春菜は冷たい笑みを浮かべながら、玲音のシャツの胸元を掴んだ。
「実際は圭と別れたの半月前なんだってね?それに彼女に浮気癖があるとか?彼女の束縛がひどくて、別れたくても別れられなかったとかも言ってたよね?」
「それは……」
圭のいないところで、玲音は春菜に、長年付き合ってきた彼女を捨てる自分を正当化するための嘘をついていた。
それを圭の前で春菜に暴露された玲音は、冷や汗を浮かべて顔をひきつらせている。
「浮気癖があったのはアンタの方でしょ?圭がそんなことするはずないじゃん!圭をほったらかしにしたくせに、ずっと縛り付けて動けなくしてたのもアンタじゃないの!!」
春菜は玲音の胸ぐらを掴んで、玲音の頬を平手で思いきり殴った。
「何が圭のためよ……。アンタは自分のために圭を捨てたんでしょ……?圭はアンタが好きだったのに……!アンタのこと、ずっと本気で好きだったのに……!!圭に謝れ!土下座して謝れ!!」
拳を握りしめて、玲音の胸を何度も強く叩く春菜の目から、涙がこぼれ落ちた。
圭はたまらず駆け寄り、春菜の腕を掴んでそれを止める。
「春菜……もうやめて……。私のことはいいから……玲音を責めないで……」
「圭……」
玲音は、嘘をついて自分を捨てた男をかばう圭に驚いている。
「圭はお人好し過ぎる……。だからこんな男に騙されんのよ……」
春菜は拳を握りしめ、うつむいて唇を噛んだ。
「私はね……嘘つかれるのが嫌いなの。平気で嘘つく人間は許せない。私の大事な友達を傷付ける人間は、もっと許せない」
春菜は涙で濡れた頬を手の甲で拭って、冷たい目で玲音を見た。
「もう顔も見たくない。今すぐ消えて。二度と私の前に現れないで」
「……わかった」
玲音は力なく肩を落として春菜に背を向けた。
そして一瞬立ち止まり、振り返って圭の方を見た。
「圭……ごめんな」
圭は何も言わなかった。
玲音が部屋を出て行くと、春菜は圭を抱きしめて泣いた。
「圭のバカ!!なんであんなやつかばうの?!文句のひとつも言ってやれば良かったのに!!」
「春菜、もういいんだって……。でも、私の分まで怒ってくれてありがと」
圭は春菜の背中をさすりながら微笑んだ。
「私は玲音を好きになったことは後悔してないよ。一緒にいられてホントに幸せだった時もあったから」
「圭のお人好しバカ……」
「お人好しはまだいいとして……バカは余計でしょ……?」
圭が笑うと、春菜は圭に頭を下げた。
「勝手なことしてごめん……。でもどうしても許せなかったの。玲音が圭の彼氏だって知ってたら、私は玲音とは付き合わなかった」
「うん、わかってる。私が言いたくても言えなかったこと……私がずっと玲音を好きだったって、春菜が代わりに言ってくれたし……だからもう、いいんだ」
圭の目からも涙が溢れてこぼれ落ちた。
「言えなかったことって……そこ……?」
春菜は涙を拭いながら呆れたように呟いた。
紫恵と綾乃は顔を見合わせ、愛しそうに春菜と圭を見つめて微笑んだ。
「コーヒー冷めちゃったね。どうする?淹れ直す?」
「私は猫舌だからそのままでいい」
「そういえば春菜は猫舌だったね。圭と紫恵は?」
「私もそのままで……」
「私も」
「じゃあ、さっさとぬるいコーヒー飲んじゃって、2杯目は温かいの飲もう」
「紹介するわ。この人ね、今私が付き合ってる人」
「春菜の彼氏?」
突然何事かと綾乃は困惑気味だ。
「鈴木玲音。綾乃は初めて会うでしょ」
「えっ……ちょっと待って、何それ?どういうこと?!」
春菜の彼氏と、ついさっき聞いたばかりの圭の別れた彼氏が同じ名前であることに、綾乃は混乱している。
「会ったこと一度もなかったし、まさか圭の彼氏だとは思わなかったけどね。玲音も私と圭が友達なんて知らなかったんだろうけど?」
玲音は突然のことに身動きもできず絶句している。
「玲音さぁ……2か月前、私と付き合い出した時に、もう彼女とは別れたって言ったよね?」
春菜は冷たい笑みを浮かべながら、玲音のシャツの胸元を掴んだ。
「実際は圭と別れたの半月前なんだってね?それに彼女に浮気癖があるとか?彼女の束縛がひどくて、別れたくても別れられなかったとかも言ってたよね?」
「それは……」
圭のいないところで、玲音は春菜に、長年付き合ってきた彼女を捨てる自分を正当化するための嘘をついていた。
それを圭の前で春菜に暴露された玲音は、冷や汗を浮かべて顔をひきつらせている。
「浮気癖があったのはアンタの方でしょ?圭がそんなことするはずないじゃん!圭をほったらかしにしたくせに、ずっと縛り付けて動けなくしてたのもアンタじゃないの!!」
春菜は玲音の胸ぐらを掴んで、玲音の頬を平手で思いきり殴った。
「何が圭のためよ……。アンタは自分のために圭を捨てたんでしょ……?圭はアンタが好きだったのに……!アンタのこと、ずっと本気で好きだったのに……!!圭に謝れ!土下座して謝れ!!」
拳を握りしめて、玲音の胸を何度も強く叩く春菜の目から、涙がこぼれ落ちた。
圭はたまらず駆け寄り、春菜の腕を掴んでそれを止める。
「春菜……もうやめて……。私のことはいいから……玲音を責めないで……」
「圭……」
玲音は、嘘をついて自分を捨てた男をかばう圭に驚いている。
「圭はお人好し過ぎる……。だからこんな男に騙されんのよ……」
春菜は拳を握りしめ、うつむいて唇を噛んだ。
「私はね……嘘つかれるのが嫌いなの。平気で嘘つく人間は許せない。私の大事な友達を傷付ける人間は、もっと許せない」
春菜は涙で濡れた頬を手の甲で拭って、冷たい目で玲音を見た。
「もう顔も見たくない。今すぐ消えて。二度と私の前に現れないで」
「……わかった」
玲音は力なく肩を落として春菜に背を向けた。
そして一瞬立ち止まり、振り返って圭の方を見た。
「圭……ごめんな」
圭は何も言わなかった。
玲音が部屋を出て行くと、春菜は圭を抱きしめて泣いた。
「圭のバカ!!なんであんなやつかばうの?!文句のひとつも言ってやれば良かったのに!!」
「春菜、もういいんだって……。でも、私の分まで怒ってくれてありがと」
圭は春菜の背中をさすりながら微笑んだ。
「私は玲音を好きになったことは後悔してないよ。一緒にいられてホントに幸せだった時もあったから」
「圭のお人好しバカ……」
「お人好しはまだいいとして……バカは余計でしょ……?」
圭が笑うと、春菜は圭に頭を下げた。
「勝手なことしてごめん……。でもどうしても許せなかったの。玲音が圭の彼氏だって知ってたら、私は玲音とは付き合わなかった」
「うん、わかってる。私が言いたくても言えなかったこと……私がずっと玲音を好きだったって、春菜が代わりに言ってくれたし……だからもう、いいんだ」
圭の目からも涙が溢れてこぼれ落ちた。
「言えなかったことって……そこ……?」
春菜は涙を拭いながら呆れたように呟いた。
紫恵と綾乃は顔を見合わせ、愛しそうに春菜と圭を見つめて微笑んだ。
「コーヒー冷めちゃったね。どうする?淹れ直す?」
「私は猫舌だからそのままでいい」
「そういえば春菜は猫舌だったね。圭と紫恵は?」
「私もそのままで……」
「私も」
「じゃあ、さっさとぬるいコーヒー飲んじゃって、2杯目は温かいの飲もう」
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