53 / 116
恋と喧嘩は一人でできぬ
3
「そうか、そんなことが……。そりゃ落ち込みもするよな」
「できるだけ顔とか態度には出さないように気を付けてたつもりなんですけど……私ってそんなにわかりやすいですか?」
「どうかな。他の人はどうかわからないけど、俺にはわかる。少しでも朱里ちゃんがラクになれるなら、俺には遠慮せずなんでも話してくれていいんだよ」
マスターは缶コーヒーをベンチに置いて、少し私の方に体を向けた。
そして大きな手で私の頭を優しく撫でる。
「こんなオジサンじゃイヤかな?」
「オジサン……?」
「朱里ちゃんは29だっけ?俺は40だから、やっぱりオジサンだ」
「そんな事ないですよ。大人って感じです」
「物は言い様だね」
そう言ってマスターはおかしそうに笑った。
歳は確かに私より11歳も上だけど、私の中のオジサンのイメージには程遠い。
マスターはヤンチャな大人の男という感じだ。
壮介にも順平にもない優しさとか、色気とか、大人の余裕みたいなものがある。
これが包容力って言うものなのかな。
「マスターの手、大きくてあったかくて、なんだかホッとします。人柄が出るんですかね」
「ホント?俺はね、朱里ちゃんが心を許せるたった一人の相手になりたい」
どういう意味かと首をかしげる私を、マスターは愛しそうに見つめている。
「女の子の弱味につけ込む趣味はないんだけどな。バツイチのオジサンじゃ、若い男には敵わないだろ」
えーっと……それはつまり……。
マスターは私の事をただの従業員としてではなく、一人の女性として特別に想ってくれているという事……?
「今こんな事言うの卑怯かも知れないけど……俺と付き合う事、真剣に考えて欲しい」
予想だにしなかった展開に、私の心臓がドキドキとうるさいくらいに音を立てた。
どうしよう。
無性に照れくさくて、マスターの顔がまともに見られない。
きっと今、私の顔は真っ赤になっているだろう。
「返事は今すぐじゃなくていいよ。朱里ちゃんの気持ちの整理がつくまで待つから」
「……わかりました……」
気の利いた言葉のひとつも思い浮かばず、私はただうつむいて、コーヒーの缶をギュッと握りしめた。
「とりあえずさ……」
マスターは私の手からコーヒーの缶を取ってベンチに置くと、そっと私を抱きしめた。
「少しだけ、こうさせて」
マスターのあたたかい腕の中で、心に張りつめぐちゃぐちゃに絡まっていた糸が、ゆっくりとほどけていくような気がした。
「なんでも一人で我慢して抱え込む必要なんてない。話したい事は話せばいいし、俺がいつでも聞いてあげる。甘えたって泣いたっていいんだよ」
ずるいな、大人は……。
そんな事を言われたら、簡単に泣いて甘えるだけの弱い女になってしまいそう。
これまで誰もそんな事は言ってくれなかった。
私の弱さや甘さをまるごと受け止めてくれる人なんて、一人としていなかったのに。
「できるだけ顔とか態度には出さないように気を付けてたつもりなんですけど……私ってそんなにわかりやすいですか?」
「どうかな。他の人はどうかわからないけど、俺にはわかる。少しでも朱里ちゃんがラクになれるなら、俺には遠慮せずなんでも話してくれていいんだよ」
マスターは缶コーヒーをベンチに置いて、少し私の方に体を向けた。
そして大きな手で私の頭を優しく撫でる。
「こんなオジサンじゃイヤかな?」
「オジサン……?」
「朱里ちゃんは29だっけ?俺は40だから、やっぱりオジサンだ」
「そんな事ないですよ。大人って感じです」
「物は言い様だね」
そう言ってマスターはおかしそうに笑った。
歳は確かに私より11歳も上だけど、私の中のオジサンのイメージには程遠い。
マスターはヤンチャな大人の男という感じだ。
壮介にも順平にもない優しさとか、色気とか、大人の余裕みたいなものがある。
これが包容力って言うものなのかな。
「マスターの手、大きくてあったかくて、なんだかホッとします。人柄が出るんですかね」
「ホント?俺はね、朱里ちゃんが心を許せるたった一人の相手になりたい」
どういう意味かと首をかしげる私を、マスターは愛しそうに見つめている。
「女の子の弱味につけ込む趣味はないんだけどな。バツイチのオジサンじゃ、若い男には敵わないだろ」
えーっと……それはつまり……。
マスターは私の事をただの従業員としてではなく、一人の女性として特別に想ってくれているという事……?
「今こんな事言うの卑怯かも知れないけど……俺と付き合う事、真剣に考えて欲しい」
予想だにしなかった展開に、私の心臓がドキドキとうるさいくらいに音を立てた。
どうしよう。
無性に照れくさくて、マスターの顔がまともに見られない。
きっと今、私の顔は真っ赤になっているだろう。
「返事は今すぐじゃなくていいよ。朱里ちゃんの気持ちの整理がつくまで待つから」
「……わかりました……」
気の利いた言葉のひとつも思い浮かばず、私はただうつむいて、コーヒーの缶をギュッと握りしめた。
「とりあえずさ……」
マスターは私の手からコーヒーの缶を取ってベンチに置くと、そっと私を抱きしめた。
「少しだけ、こうさせて」
マスターのあたたかい腕の中で、心に張りつめぐちゃぐちゃに絡まっていた糸が、ゆっくりとほどけていくような気がした。
「なんでも一人で我慢して抱え込む必要なんてない。話したい事は話せばいいし、俺がいつでも聞いてあげる。甘えたって泣いたっていいんだよ」
ずるいな、大人は……。
そんな事を言われたら、簡単に泣いて甘えるだけの弱い女になってしまいそう。
これまで誰もそんな事は言ってくれなかった。
私の弱さや甘さをまるごと受け止めてくれる人なんて、一人としていなかったのに。
あなたにおすすめの小説
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました!
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。
和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。
政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
クールなサイボーグ部長の素顔
織原深雪
恋愛
三年付き合った彼に振られて傷心中のアラサー女子
伊月千波 二十七歳
仕事も出来る、行動力も度胸もある。
そんな女子でもこと、恋愛で躓いたら凹む。
やさぐれモードで送別会でやけ酒よろしく飲んでいたら、すっかりぐでんぐでんになっていて。
まさかのお持ち帰りされちゃった?!
しかも、千波をお持ち帰りした相手は
年度初めからは直属ではないとはいえ、職場の皆が恐れるサイボーグ上司だったから、さあ大変!
千波の明日はどうなる?
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています