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別人なのか?
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「いい大人がなんですか、みっともない……」
「そうなんだけど……。でもその前から俺の事嫌ってただろ?」
「私は支部長みたいな上から目線で自信過剰な俺様タイプが嫌いなんです」
愛美が淡々とした口調でそう言うと、緒川支部長は不思議そうに首をかしげる。
「……俺のどこが?」
「だから……。はぁ、もういいです。自覚ないんですね」
「いや、俺は全然良くない。嫌われる理由もわからないのに納得いかないから。ちゃんとわかるように説明して」
どことなく職場にいる時とは、見た目だけでなく性格まで別人のような、気弱そうな緒川支部長の様子に気付き、今度は愛美が首をかしげた。
(何これ……?やっぱ別人?なんか調子狂う……)
「とにかく……私だってなんでそんなに支部長が私にこだわるのか理由がわかりません。好かれるような事をした覚えもないですし、私じゃなくたって、支部長と付き合いたい人なんていっぱいいるでしょう?」
「俺は……菅谷が入社して支社にいた時からずっと好きだったから。いつも笑ってて、それがすごくかわいくて……。あの時、俺も支社にいたけど……勇気がなくて声も掛けられなかった」
「えっ?!」
(何それ?!全然知らない!!)
入社して1年ほど、愛美は支社の人事部で新人研修の雑務を担当していた。
その頃はまだ付き合っていた俺様男も優しくて、仕事も恋愛も充実していた。
彼氏がいたとは言え、違う部署でも同期でなくても、目立つイケメン男性社員は女性社員の間で注目の的になっていたので、顔と名前くらいは知っていたはずだ。
(支部長が支部長になる前……?同時期に支社にいたなんて知らなかった……。違う部署でも目立つ人なら知ってたのに……なんで?)
愛美は怪訝な顔で水割りを飲んだ。
緒川支部長は誰かと人違いをしているんじゃないだろうか。
そうでなければ、これだけ目立つ人をまったく知らないなんておかしい。
「人違いじゃありませんか?私、支社では支部長に会った事ないと思います」
「なくはない。まともに話したことはないけど、廊下ですれ違ったり、人事部に行った時に顔合わせたり、社食で隣になった事もある。もちろん人違いなんかじゃない」
そう言われても、やっぱり支社にいるときの緒川支部長のことは、まったく覚えていない。
愛美は眉間にシワを寄せた。
「やっぱり覚えてません。あっ、もしかしてものすごく太ってて、今とは別人みたいだったとか?」
「太ってないし……。そっか……やっぱ覚えてないんだな……」
緒川支部長はシュンと肩を落として水割りのグラスに口をつけた。
大きな体をしているのに、少し背を丸めた姿が子どもみたいだと愛美は思う。
(すぐいじけるとか、ちょっとかわいい……ってか、この人ホントに支部長?双子の弟が替え玉で来たとか……)
愛美は首をかしげながら、緒川支部長の横顔をそっと窺った。
人間、眼鏡と髪型くらいでこんなに変わるものだろうか。
いつもは顔がハッキリ見えるように整髪剤で上げてセットした緒川支部長の髪型が愛美は大嫌いだったが、今は少し長めの前髪が自然に額にかかり、どことなく幼く見える。
目力の強い鋭い目付きも見下されているようで苦手だったけれど、今はどこか優しげで、時おり照れくさそうに目をそらしたり、眼鏡のせいもあってか柔らかく感じる。
隣にいる緒川支部長を見ていると、いつも職場で見る偉そうで自信家で大嫌いな緒川支部長の印象がどんどん薄れてくる。
じっと見られている事に気付いた緒川支部長が顔を上げ、子犬のように頼りなげな目で少し照れくさそうに愛美を見つめた。
目が合うと愛美は、この目に絆されてなるものかと慌てて目をそらす。
(やっぱ別人としか思えないけど……間違いなく本人なんだよね?そう言えばマスターが言ってたっけ。元々は大人しくて真面目で優しい男だって。それって……)
「どうしたの、二人とも黙り込んじゃって」
マスターがニコニコ笑いながらカウンターに戻ってくると、緒川支部長はため息をついた。
「先輩……。俺、そんなに菅谷に嫌われるような性格ですかね……」
「なんだ?政弘は愛美ちゃんに嫌われてるのか?」
「よくわからないけど、そうらしいです」
「ふーん……。愛美ちゃんは政弘のどの辺が嫌いなの?」
マスターに尋ねられ、愛美は仕方なく緒川支部長の嫌いなところを挙げ連ねた。
「偉そうで、上から目線で、自信家な俺様タイプ」
愛美が大真面目な顔をしてそう言うと、マスターが声を上げて笑いだした。
「それ、政弘の事?」
「だってそうでしょ?なんでそんなに笑うの?」
「いや……だってそれ、俺の知ってる政弘とは正反対だから」
「……は?」
一体マスターはこの人のどこを見てそう言っているのか?
もしかして緒川支部長は先輩であるマスターの前では猫をかぶっているから、マスターは緒川支部長の本性を知らないのかも知れない。
でも緒川支部長は猫と言うよりは犬っぽいなと愛美は思う。
「そうなんだけど……。でもその前から俺の事嫌ってただろ?」
「私は支部長みたいな上から目線で自信過剰な俺様タイプが嫌いなんです」
愛美が淡々とした口調でそう言うと、緒川支部長は不思議そうに首をかしげる。
「……俺のどこが?」
「だから……。はぁ、もういいです。自覚ないんですね」
「いや、俺は全然良くない。嫌われる理由もわからないのに納得いかないから。ちゃんとわかるように説明して」
どことなく職場にいる時とは、見た目だけでなく性格まで別人のような、気弱そうな緒川支部長の様子に気付き、今度は愛美が首をかしげた。
(何これ……?やっぱ別人?なんか調子狂う……)
「とにかく……私だってなんでそんなに支部長が私にこだわるのか理由がわかりません。好かれるような事をした覚えもないですし、私じゃなくたって、支部長と付き合いたい人なんていっぱいいるでしょう?」
「俺は……菅谷が入社して支社にいた時からずっと好きだったから。いつも笑ってて、それがすごくかわいくて……。あの時、俺も支社にいたけど……勇気がなくて声も掛けられなかった」
「えっ?!」
(何それ?!全然知らない!!)
入社して1年ほど、愛美は支社の人事部で新人研修の雑務を担当していた。
その頃はまだ付き合っていた俺様男も優しくて、仕事も恋愛も充実していた。
彼氏がいたとは言え、違う部署でも同期でなくても、目立つイケメン男性社員は女性社員の間で注目の的になっていたので、顔と名前くらいは知っていたはずだ。
(支部長が支部長になる前……?同時期に支社にいたなんて知らなかった……。違う部署でも目立つ人なら知ってたのに……なんで?)
愛美は怪訝な顔で水割りを飲んだ。
緒川支部長は誰かと人違いをしているんじゃないだろうか。
そうでなければ、これだけ目立つ人をまったく知らないなんておかしい。
「人違いじゃありませんか?私、支社では支部長に会った事ないと思います」
「なくはない。まともに話したことはないけど、廊下ですれ違ったり、人事部に行った時に顔合わせたり、社食で隣になった事もある。もちろん人違いなんかじゃない」
そう言われても、やっぱり支社にいるときの緒川支部長のことは、まったく覚えていない。
愛美は眉間にシワを寄せた。
「やっぱり覚えてません。あっ、もしかしてものすごく太ってて、今とは別人みたいだったとか?」
「太ってないし……。そっか……やっぱ覚えてないんだな……」
緒川支部長はシュンと肩を落として水割りのグラスに口をつけた。
大きな体をしているのに、少し背を丸めた姿が子どもみたいだと愛美は思う。
(すぐいじけるとか、ちょっとかわいい……ってか、この人ホントに支部長?双子の弟が替え玉で来たとか……)
愛美は首をかしげながら、緒川支部長の横顔をそっと窺った。
人間、眼鏡と髪型くらいでこんなに変わるものだろうか。
いつもは顔がハッキリ見えるように整髪剤で上げてセットした緒川支部長の髪型が愛美は大嫌いだったが、今は少し長めの前髪が自然に額にかかり、どことなく幼く見える。
目力の強い鋭い目付きも見下されているようで苦手だったけれど、今はどこか優しげで、時おり照れくさそうに目をそらしたり、眼鏡のせいもあってか柔らかく感じる。
隣にいる緒川支部長を見ていると、いつも職場で見る偉そうで自信家で大嫌いな緒川支部長の印象がどんどん薄れてくる。
じっと見られている事に気付いた緒川支部長が顔を上げ、子犬のように頼りなげな目で少し照れくさそうに愛美を見つめた。
目が合うと愛美は、この目に絆されてなるものかと慌てて目をそらす。
(やっぱ別人としか思えないけど……間違いなく本人なんだよね?そう言えばマスターが言ってたっけ。元々は大人しくて真面目で優しい男だって。それって……)
「どうしたの、二人とも黙り込んじゃって」
マスターがニコニコ笑いながらカウンターに戻ってくると、緒川支部長はため息をついた。
「先輩……。俺、そんなに菅谷に嫌われるような性格ですかね……」
「なんだ?政弘は愛美ちゃんに嫌われてるのか?」
「よくわからないけど、そうらしいです」
「ふーん……。愛美ちゃんは政弘のどの辺が嫌いなの?」
マスターに尋ねられ、愛美は仕方なく緒川支部長の嫌いなところを挙げ連ねた。
「偉そうで、上から目線で、自信家な俺様タイプ」
愛美が大真面目な顔をしてそう言うと、マスターが声を上げて笑いだした。
「それ、政弘の事?」
「だってそうでしょ?なんでそんなに笑うの?」
「いや……だってそれ、俺の知ってる政弘とは正反対だから」
「……は?」
一体マスターはこの人のどこを見てそう言っているのか?
もしかして緒川支部長は先輩であるマスターの前では猫をかぶっているから、マスターは緒川支部長の本性を知らないのかも知れない。
でも緒川支部長は猫と言うよりは犬っぽいなと愛美は思う。
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