17 / 45
飲み過ぎたつらい夜と二日酔いの甘い朝
3
しおりを挟む
何もかもが理解できず、そのままベッドにうずくまり、一旦冷静になろうと呼吸を整える。
ここがどう見てもホテルの部屋などではないことや、緒川支部長がこの部屋にいることを考えると、おそらくここは緒川支部長の住んでいる部屋なのだろう。
しかしどう言った経緯があって、自分が今この部屋にいるのか?
とりあえず昨日と同じように服を着ている事を確認すると、どうしてこういう状況になっているのかを必死で思い出そうとした。
(夕べはマスターの店でずっと水割り飲みながら支部長を待ってて……それでどうしたんだっけ?)
ずいぶん飲みすぎたせいで、ある程度の時間から先の事は何も覚えていない。
いつ店を出たのか、どうやってここに来たのか、どんなに思い出そうとしても何も思い出せず、愛美は両手で頭を抱えた。
(とりあえず服は着てる……って事は、なんにもなかったんだよね……?)
顔を上げてゆっくりと部屋を見渡すと、愛美が昨日着ていたジャケットが壁際のハンガーに掛けられ、愛美のバッグと腕時計がダイニングセットのテーブルの上に置かれていた。
男の人なのにずいぶんマメだなと妙なところでは冷静な自分に驚く。
愛美は普段は見る事のない緒川支部長の無防備な寝顔をじっと眺めた。
(寝顔……かわいいかも……)
不意にそう思ってしまった事に焦って、それを打ち消すように思いきり首を横に振った。
目が回るような不快感とひどい頭痛が愛美を襲う。
(ああっ……しまった……!気持ち悪っ……!!)
どうやら二日酔いの頭には刺激が強すぎたようだ。
愛美は不安定にグラグラ揺れる頭を押さえ、涙目で緒川支部長をにらみつける。
(うぅ……最悪……!支部長のせいで二日酔いだよ……!)
まるでそれを察知したかのように、緒川支部長のまぶたがゆっくりと開いた。
緒川支部長はソファーの上で大きく伸びをして、ローテーブルの上の眼鏡に手を伸ばした。
眼鏡を掛け、ベッドの上でうずくまっている愛美に気が付くと、少し照れくさそうに頬をかいた。
「……おはよう、菅谷。大丈夫?」
「大丈夫じゃないです……」
緒川支部長は冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して愛美に手渡した。
愛美はそれを黙って受け取り、勢いよく喉に流し込む。
カラカラに渇いていた喉と体に冷たい水が染み渡り、じわじわと潤っていくようだ。
「あの……昨日はごめん……」
緒川支部長の声が聞こえているのに、愛美はそれを無視して、黙ったまま水を飲み続ける。
「ホントにごめん……」
「…………知りません」
緒川支部長があまりにも申し訳なさそうに謝るので、愛美は無視するのをやめて冷たい声で返事をした。
不機嫌そうに目をそらす愛美の様子に、緒川支部長はオロオロしている。
「ごめん……。カッコ悪いけど……言い訳させて下さい……」
緒川支部長はベッドのそばに座り、昨日の出来事を話し始めた。
昨日、夕方に訪問したお得意様の社長宅で、従業員の団体定期保険と社長の奥さんの医療保険の説明をして契約の手続きが済んだ後、しばらく社長の趣味の釣りの話を聞いていた。
30分ほど経った頃、そろそろ釣りの話も終わるかなと思ったら、今度は孫の自慢話が始まった。
夏休みに北海道旅行に連れて行ったとか、敬老の日に似顔絵を描いてくれたとか、お正月には高級温泉旅館に泊まって一緒に蟹を食べたとか、とにかく目に入れても痛くないほどの溺愛ぶりだった。
そんなかわいい孫のために、貯蓄型の保険をもうひとつ増やしちゃおうかな、などという話になり、パソコンでいくつかの貯蓄型の保険を試算して、設計書を見せながら説明をした。
どれも甲乙つけがたいね、などと散々迷った末、かわいい孫のためだから一番貯蓄性の高いやつにするよという事になった。
時間も遅いので日を改めましょうかと言ったのだが社長は契約に大乗り気で、善は急げと言うだろう、今すぐ頼むよと、更にそこからその契約の手続きが始まった。
何せかわいい孫のための契約だから、孫の自慢話にも余念がない。
被保険者である孫本人の健康状態を知るための告知書も必要なので、社長から孫の母親である娘に電話をしてもらい、途中で電話を代わって、社長が契約者となって孫のために貯蓄型の保険を契約したいと言っていると説明した。
翌日に告知書を娘宅に届ける約束を取り付けようとすると、社長が今すぐ届けて記入させてくれと言い出した。
仕方なく30分ほど車を走らせ、娘宅に告知書を届けてその場で記入してもらい、1時間かけて支部に戻った。
時間も遅い事から会社のネットワークがオフラインになっており、支社にデータを送る事はできないので、翌朝一番に支社にデータが送れるように怒濤のスピードで入力を済ませた。
大急ぎで支部を出る頃には9時半を回っていたので、家には戻らず車で直接マスターのバーに向かった。
「……と、いう訳です……」
ここがどう見てもホテルの部屋などではないことや、緒川支部長がこの部屋にいることを考えると、おそらくここは緒川支部長の住んでいる部屋なのだろう。
しかしどう言った経緯があって、自分が今この部屋にいるのか?
とりあえず昨日と同じように服を着ている事を確認すると、どうしてこういう状況になっているのかを必死で思い出そうとした。
(夕べはマスターの店でずっと水割り飲みながら支部長を待ってて……それでどうしたんだっけ?)
ずいぶん飲みすぎたせいで、ある程度の時間から先の事は何も覚えていない。
いつ店を出たのか、どうやってここに来たのか、どんなに思い出そうとしても何も思い出せず、愛美は両手で頭を抱えた。
(とりあえず服は着てる……って事は、なんにもなかったんだよね……?)
顔を上げてゆっくりと部屋を見渡すと、愛美が昨日着ていたジャケットが壁際のハンガーに掛けられ、愛美のバッグと腕時計がダイニングセットのテーブルの上に置かれていた。
男の人なのにずいぶんマメだなと妙なところでは冷静な自分に驚く。
愛美は普段は見る事のない緒川支部長の無防備な寝顔をじっと眺めた。
(寝顔……かわいいかも……)
不意にそう思ってしまった事に焦って、それを打ち消すように思いきり首を横に振った。
目が回るような不快感とひどい頭痛が愛美を襲う。
(ああっ……しまった……!気持ち悪っ……!!)
どうやら二日酔いの頭には刺激が強すぎたようだ。
愛美は不安定にグラグラ揺れる頭を押さえ、涙目で緒川支部長をにらみつける。
(うぅ……最悪……!支部長のせいで二日酔いだよ……!)
まるでそれを察知したかのように、緒川支部長のまぶたがゆっくりと開いた。
緒川支部長はソファーの上で大きく伸びをして、ローテーブルの上の眼鏡に手を伸ばした。
眼鏡を掛け、ベッドの上でうずくまっている愛美に気が付くと、少し照れくさそうに頬をかいた。
「……おはよう、菅谷。大丈夫?」
「大丈夫じゃないです……」
緒川支部長は冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して愛美に手渡した。
愛美はそれを黙って受け取り、勢いよく喉に流し込む。
カラカラに渇いていた喉と体に冷たい水が染み渡り、じわじわと潤っていくようだ。
「あの……昨日はごめん……」
緒川支部長の声が聞こえているのに、愛美はそれを無視して、黙ったまま水を飲み続ける。
「ホントにごめん……」
「…………知りません」
緒川支部長があまりにも申し訳なさそうに謝るので、愛美は無視するのをやめて冷たい声で返事をした。
不機嫌そうに目をそらす愛美の様子に、緒川支部長はオロオロしている。
「ごめん……。カッコ悪いけど……言い訳させて下さい……」
緒川支部長はベッドのそばに座り、昨日の出来事を話し始めた。
昨日、夕方に訪問したお得意様の社長宅で、従業員の団体定期保険と社長の奥さんの医療保険の説明をして契約の手続きが済んだ後、しばらく社長の趣味の釣りの話を聞いていた。
30分ほど経った頃、そろそろ釣りの話も終わるかなと思ったら、今度は孫の自慢話が始まった。
夏休みに北海道旅行に連れて行ったとか、敬老の日に似顔絵を描いてくれたとか、お正月には高級温泉旅館に泊まって一緒に蟹を食べたとか、とにかく目に入れても痛くないほどの溺愛ぶりだった。
そんなかわいい孫のために、貯蓄型の保険をもうひとつ増やしちゃおうかな、などという話になり、パソコンでいくつかの貯蓄型の保険を試算して、設計書を見せながら説明をした。
どれも甲乙つけがたいね、などと散々迷った末、かわいい孫のためだから一番貯蓄性の高いやつにするよという事になった。
時間も遅いので日を改めましょうかと言ったのだが社長は契約に大乗り気で、善は急げと言うだろう、今すぐ頼むよと、更にそこからその契約の手続きが始まった。
何せかわいい孫のための契約だから、孫の自慢話にも余念がない。
被保険者である孫本人の健康状態を知るための告知書も必要なので、社長から孫の母親である娘に電話をしてもらい、途中で電話を代わって、社長が契約者となって孫のために貯蓄型の保険を契約したいと言っていると説明した。
翌日に告知書を娘宅に届ける約束を取り付けようとすると、社長が今すぐ届けて記入させてくれと言い出した。
仕方なく30分ほど車を走らせ、娘宅に告知書を届けてその場で記入してもらい、1時間かけて支部に戻った。
時間も遅い事から会社のネットワークがオフラインになっており、支社にデータを送る事はできないので、翌朝一番に支社にデータが送れるように怒濤のスピードで入力を済ませた。
大急ぎで支部を出る頃には9時半を回っていたので、家には戻らず車で直接マスターのバーに向かった。
「……と、いう訳です……」
1
あなたにおすすめの小説
ヒロインになれませんが。
橘しづき
恋愛
安西朱里、二十七歳。
顔もスタイルもいいのに、なぜか本命には選ばれず変な男ばかり寄ってきてしまう。初対面の女性には嫌われることも多く、いつも気がつけば当て馬女役。損な役回りだと友人からも言われる始末。 そんな朱里は、異動で営業部に所属することに。そこで、タイプの違うイケメン二人を発見。さらには、真面目で控えめ、そして可愛らしいヒロイン像にぴったりの女の子も。
イケメンのうち一人の片思いを察した朱里は、その二人の恋を応援しようと必死に走り回るが……。
全然上手くいかなくて、何かがおかしい??
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
五年越しの再会と、揺れる恋心
柴田はつみ
恋愛
春山千尋24歳は五年前に広瀬洋介27歳に振られたと思い込み洋介から離れた。
千尋は今大手の商事会社に副社長の秘書として働いている。
ある日振られたと思い込んでいる千尋の前に洋介が社長として現れた。
だが千尋には今中田和也26歳と付き合っている。
千尋の気持ちは?
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。
絶対に離婚届に判なんて押さないからな」
既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。
まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。
紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転!
純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。
離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。
それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。
このままでは紘希の弱点になる。
わかっているけれど……。
瑞木純華
みずきすみか
28
イベントデザイン部係長
姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点
おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち
後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない
恋に関しては夢見がち
×
矢崎紘希
やざきひろき
28
営業部課長
一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長
サバサバした爽やかくん
実体は押しが強くて粘着質
秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる