オフィスにラブは落ちてねぇ!!

櫻井音衣

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飲み過ぎたつらい夜と二日酔いの甘い朝

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何もかもが理解できず、そのままベッドにうずくまり、一旦冷静になろうと呼吸を整える。
ここがどう見てもホテルの部屋などではないことや、緒川支部長がこの部屋にいることを考えると、おそらくここは緒川支部長の住んでいる部屋なのだろう。
しかしどう言った経緯があって、自分が今この部屋にいるのか?
とりあえず昨日と同じように服を着ている事を確認すると、どうしてこういう状況になっているのかを必死で思い出そうとした。

 (夕べはマスターの店でずっと水割り飲みながら支部長を待ってて……それでどうしたんだっけ?)

ずいぶん飲みすぎたせいで、ある程度の時間から先の事は何も覚えていない。
いつ店を出たのか、どうやってここに来たのか、どんなに思い出そうとしても何も思い出せず、愛美は両手で頭を抱えた。

 (とりあえず服は着てる……って事は、なんにもなかったんだよね……?)

顔を上げてゆっくりと部屋を見渡すと、愛美が昨日着ていたジャケットが壁際のハンガーに掛けられ、愛美のバッグと腕時計がダイニングセットのテーブルの上に置かれていた。
男の人なのにずいぶんマメだなと妙なところでは冷静な自分に驚く。
愛美は普段は見る事のない緒川支部長の無防備な寝顔をじっと眺めた。

 (寝顔……かわいいかも……)

不意にそう思ってしまった事に焦って、それを打ち消すように思いきり首を横に振った。
目が回るような不快感とひどい頭痛が愛美を襲う。

 (ああっ……しまった……!気持ち悪っ……!!)

どうやら二日酔いの頭には刺激が強すぎたようだ。
愛美は不安定にグラグラ揺れる頭を押さえ、涙目で緒川支部長をにらみつける。

 (うぅ……最悪……!支部長のせいで二日酔いだよ……!)

まるでそれを察知したかのように、緒川支部長のまぶたがゆっくりと開いた。
緒川支部長はソファーの上で大きく伸びをして、ローテーブルの上の眼鏡に手を伸ばした。
眼鏡を掛け、ベッドの上でうずくまっている愛美に気が付くと、少し照れくさそうに頬をかいた。

「……おはよう、菅谷。大丈夫?」
「大丈夫じゃないです……」

緒川支部長は冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して愛美に手渡した。
愛美はそれを黙って受け取り、勢いよく喉に流し込む。
カラカラに渇いていた喉と体に冷たい水が染み渡り、じわじわと潤っていくようだ。

「あの……昨日はごめん……」

緒川支部長の声が聞こえているのに、愛美はそれを無視して、黙ったまま水を飲み続ける。

「ホントにごめん……」
「…………知りません」

緒川支部長があまりにも申し訳なさそうに謝るので、愛美は無視するのをやめて冷たい声で返事をした。
不機嫌そうに目をそらす愛美の様子に、緒川支部長はオロオロしている。

「ごめん……。カッコ悪いけど……言い訳させて下さい……」

緒川支部長はベッドのそばに座り、昨日の出来事を話し始めた。


昨日、夕方に訪問したお得意様の社長宅で、従業員の団体定期保険と社長の奥さんの医療保険の説明をして契約の手続きが済んだ後、しばらく社長の趣味の釣りの話を聞いていた。
30分ほど経った頃、そろそろ釣りの話も終わるかなと思ったら、今度は孫の自慢話が始まった。
夏休みに北海道旅行に連れて行ったとか、敬老の日に似顔絵を描いてくれたとか、お正月には高級温泉旅館に泊まって一緒に蟹を食べたとか、とにかく目に入れても痛くないほどの溺愛ぶりだった。
そんなかわいい孫のために、貯蓄型の保険をもうひとつ増やしちゃおうかな、などという話になり、パソコンでいくつかの貯蓄型の保険を試算して、設計書を見せながら説明をした。
どれも甲乙つけがたいね、などと散々迷った末、かわいい孫のためだから一番貯蓄性の高いやつにするよという事になった。
時間も遅いので日を改めましょうかと言ったのだが社長は契約に大乗り気で、善は急げと言うだろう、今すぐ頼むよと、更にそこからその契約の手続きが始まった。
何せかわいい孫のための契約だから、孫の自慢話にも余念がない。
被保険者である孫本人の健康状態を知るための告知書も必要なので、社長から孫の母親である娘に電話をしてもらい、途中で電話を代わって、社長が契約者となって孫のために貯蓄型の保険を契約したいと言っていると説明した。
翌日に告知書を娘宅に届ける約束を取り付けようとすると、社長が今すぐ届けて記入させてくれと言い出した。
仕方なく30分ほど車を走らせ、娘宅に告知書を届けてその場で記入してもらい、1時間かけて支部に戻った。
時間も遅い事から会社のネットワークがオフラインになっており、支社にデータを送る事はできないので、翌朝一番に支社にデータが送れるように怒濤のスピードで入力を済ませた。
大急ぎで支部を出る頃には9時半を回っていたので、家には戻らず車で直接マスターのバーに向かった。

「……と、いう訳です……」

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