オフィスにラブは落ちてねぇ!!

櫻井音衣

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もう、待つのはいや

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翌朝。
日曜日だと言うのにいつもより早く目が覚めてしまった。
緒川支部長とのデートのために早起きをするのはなんとなく負けたような気がして悔しいので、ギリギリまで二度寝をしてやろうと思ったものの、それに反してどんどん目が冴えていく。
寝返りを打ちながら、デートなんて久しぶりだし、相手があの緒川支部長なのだから、少々緊張して早起きしてしまっても仕方がないと思う。
再び眠れそうもないし、遅れて待たせるよりは早めに用意しておいた方がいい。
そう、決してデートに浮かれて早起きするわけではないのだ。
愛美は自分にしっかりとそう言い聞かせてベッドから起き上がり、今日はどこに行くつもりなのだろうと思いながら洗面所へ向かう。
『デートして下さい』とは言われたが、具体的な事は何も聞いていない。
緒川支部長が普段休みの日はどんな事をしているとか、どんな趣味があるとか、まだ何も知らない。

 (初めてのデートだから無難に映画観て、そのあと食事なんかするのかな?遊園地とか子どもっぽいところではなさそうだけど、少しくらいは動ける服装の方がいいのかな……。何着て行こう……)

無意識のうちに緒川支部長と会う事を楽しみにしている自分に気付いた愛美は、眉間にシワを寄せて少し首をかしげた。

 (なんだこれ……。初めてのデートにウキウキするとか、私はそんな乙女じゃないだろ?)

冷たい水で顔を洗いながら、うまくいかなかった時の事を考えて、あまり深入りし過ぎないようにしないと、などと考える。

 (気を付けなきゃ……。いつの間にかこっちの方が本気になって、いいように転がされて、後で泣き見るのはもうイヤなんだから……)



朝食を済ませ、ゆっくりコーヒーを飲んでいると、スマホのトークメッセージの通知音が鳴った。
トーク画面を開くと、メッセージは緒川支部長からだった。

【おはよう。もう起きてる?
今日は11時くらいに迎えに行ってもいいかな?】

スマホの画面から視線を壁時計に移すと、時計の針は9時を少し回ったところを指していた。

 (まだまだ時間あるし、ゆっくり準備できるな)

愛美が【11時で大丈夫です】と返信すると、またすぐにメッセージが届く。

【愛美に会えるの、めちゃくちゃ楽しみ。
早く会いたい】

声だけでなくメッセージまで甘いのかと、愛美は頬を赤らめながらスマホをテーブルの上に置いた。
無意識に口元がゆるんでいる事に気付き、誰が見ている訳でもないのに、慌てて口元を引き締める。

 (そりゃまあ……支部長とは初めてのデートだけど、デートなんて久しぶりだし……?それでも浮かれ過ぎだから……)

心ではそう思いながらも、着て行く服に悩んだり、何度も時計を見たりしている自分に気付いて苦笑いする。
昨日緒川支部長と一緒に過ごした時間はとても心地が良かったし、仕事中とは別人のような穏やかで優しい緒川支部長にまったく興味がないとは言い切れない。
興味がないどころか、自分の知らなかった緒川支部長のことをもう少し知ってみたいような気もする。

 (最初から期待しすぎるのもなんだけど……せっかくだから今日は、何も考えずに思いっきり楽しもうかな……)


散々悩んで洋服を選び、いつもより丁寧に化粧をした。
髪型も少し変えてみようかと、ハーフアップにしてお気に入りの髪飾りをつけた。

 (うん、大丈夫……って、何が?)

支部長に気に入ってもらえるかな、などと考えながら鏡の前でドキドキしている自分がいる。
何度も時計を見て、あと何分で支部長が迎えに来る、などとソワソワしている自分がいる。
ふと冷静になると、そんな自分が滑稽にも思えた。

 (今からこんなんで大丈夫か、私……?)



10時50分。
愛美のスマホがトークメッセージの受信を知らせた。

 (あ……支部長、もう着いたのかな?)

愛美は微かに笑みを浮かべながらスマホを手に取りトーク画面を開く。

【ごめん。急に得意先の会社に行く事になった。
また連絡する】

緒川支部長からのメッセージを確認した愛美の顔から笑みが消えた。
スマホをテーブルの上に伏せて置き、大きなため息をつく。

 (なんだ……。結局またこれか……)



秋の日暮れは早い。
窓の外はすっかり暗くなって街灯が灯り、行き交う車のライトが道路を照らしている。
愛美は部屋に明かりも灯さず、真っ暗な部屋でベッドにもたれ、膝を抱えてうずくまっていた。
何をする気にもなれず、もう何時間もこうしている。

 (連絡なんか一度もないじゃん……。嘘つき……)

壁時計のオルゴールが午後7時を報せると、愛美はスマホの電源を切ってベッドの上に放り投げ、髪飾りをはずした。
髪をほどき、服を脱ぎ捨ててシャワー室に入り、化粧を落とす。

 (バカらしい……。もうやめた。いくら優しくても約束を守れない人となんて、やっぱりうまく行くはずない……)

仕事だから仕方ないと頭ではわかっていても、あんなに期待させておいて直前になってこんなのひどすぎると、心の中で緒川支部長を責めた。
シャワーのお湯とは違う温かい滴が、お湯と混じり合って愛美の頬を伝った。

 (やっぱり期待なんかしちゃダメだな……。こんなにがっかりするなんて思ってなかった……)


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