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婚活を決意したら神が降臨した件

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世の中のリア充の人たちはみんな、こんな緊張状態で合コンに挑むんだろうか?
……いや、コミュ力の高いリア充の人たちはそんなことはないか。
合コンに参加する谷口さんの大学時代の友達は2人とも今時のおしゃれ女子で、笑顔も仕草もかわいくてキラキラしていて、おまけにいいにおいがした。
いつも通り仕事をしてまっすぐ家に帰るつもりだった地味なスーツ姿の私は完全に浮いている。
私以外の女子3人は元々友達だったこともあって楽しそうにおしゃべりしているけれど、女子力の高い3人の会話の内容が女子力皆無の私には半分もわからず、相手が気を遣って話を振ってくれても、ひきつった笑みを浮かべて相槌を打つのが精一杯だった。
私、なんて場違いなんだろう。
男性陣が到着する前に早くもここに来たことを後悔し始めた。
それでも来てしまった以上は「やっぱり帰る」とは言えないから、せめてボロが出ないように大人しく食事してやり過ごすしかなさそうだ。


それから10分ほどして4人連れの男性客が店内に入ってきた。
一番手前にいた男性は谷口さんに気付くと笑って軽く右手をあげる。
どこかで見たことのある顔ばかりだと思ったら、たまにビルの中で顔を合わせる尚史の会社の人たちだ。
その一番後ろに見慣れた尚史の顔を見つけてズッコケそうになった。
女性との出会いにはまったく興味のなさそうな尚史でも、人並みに合コンに参加したりするのかと意外に思っていたら、尚史はすぐ前を歩いていた同僚の腕をガシッとつかんだ。

「……何これ?俺、合コンなんて聞いてないけど」

さすがに先に席に着いて待っている女子たちに聞こえると悪いと思ったのか、尚史は小声で文句を言っている。
どうやら合コンとは知らされずにここに来たらしい。
この同僚たちは尚史に合コンだと言うと即答で断られるとわかっていたからそうしたのだろう。

「え?いや、ただの食事会だけど?交流会的な?」
「どう見ても合コンじゃんか。面倒だから帰る」

尚史がつかんでいた腕を離して踵を返そうとすると、今度は詰め寄られていた同僚が尚史の腕をつかんだ。

「そんなこと言わずに頼むよ中森、今日だけだから!もちろん俺らがおごるし!」

あまりにも必死に頼み込む様子に尚史は呆れた顔をしてため息をついた。

「……飯食って適当に帰るけど、それでもいいなら」
「いや、せめて一次会が終わるまで!明日の昼飯も……なんなら明後日の昼飯もおごるから頼む!」
「わかった、その約束忘れんなよ」

かなり渋々ではあるけれど、尚史も同僚に根負けして参加することになったようだ。
視力の悪い尚史は席に近づいてきてようやく私がいることに気付いた。
声には出さなくても、尚史が「なんでモモがここにいんの?」と思っていることは、その表情でなんとなくわかる。
みんなの前で幼馴染みだとか説明すると場がシラケるかと思い、私はポケットからスマホを出してすばやく入力したメッセージを尚史に送った。

【私も面子が足りないからどうしてもって後輩に拝み倒されて連れて来られた。私たちが幼馴染みってことは一応ここでは伏せておく方向で】

トークの通知音に気付いた尚史が胸ポケットからスマホを取り出し、メッセージを確認して首をかしげた。
そして一瞬で返信が届く。

【なんで?】

なんで?って……他の人はせっかく楽しみにして来ているのに、尚史は私がいたら絶対に私としか話さないだろうし、そうなると他の女の子とは目も合わせないのが目に見えているからだ。

【なんでも。大人なんだから空気読め】

私がそう返すと、尚史は眉間にシワを寄せてさらに首をかしげながら席に着いた。
ああ、『拙者まったく解せん』という顔をしている。

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