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乙女のピンチにヒーローが駆け付けるのは漫画だけではないらしい

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「うーん……モモっちが本当に好きな男と結婚して幸せならおばあちゃんも喜ぶだろうけど、そうじゃなきゃ意味ねぇと俺は思うな」

キヨの言いたいことはわかる。
だけどこれまで生きてきたなかで誰かを心から好きだと思ったことなんてない私には、相手が誰であれとりあえず結婚するより、本当に好きになれる男の人を見つけることの方が難しいような気がする。

「そんな人がいれば苦労しないんだけど、それこそ何年かかるかわからないからね。だからせめて形だけでもって思ってるの。もしかしたらそこから本当に好きになるかも知れないし」
「それはなんとも言えねぇなぁ、俺には。そんなこと言ったらさ、まったく初対面の男よりもっとよく知ってるやつと付き合った方がうまくいくんじゃね?例えば尚史とか」

思わぬところで聞き慣れた名前が出てきて、その見慣れた顔を思い浮かべると、『結婚以前に付き合うのも面倒』という言葉が頭をよぎった。
尚史が彼女と一緒にいるときはどんな顔をするのかなんて知らないけれど、ずっと幼馴染みとして一緒に育ってきた私にはまったく想像がつかない。
それなりに好きだから付き合っていたんだとは思うけど、そんな相手との付き合いも面倒だと言う尚史は、例え天変地異が起きても幼馴染みの私との結婚なんて考えられないだろう。

「それは無理だね。それに尚史とはちっちゃい頃から一緒にいるから、付き合うとか恋人とかいう感じじゃないよ」
「兄弟みたいな?」
「うーん……兄弟でもないな。でも家族に近い感じ」
「家族ねぇ……」

家族と同じくらいに気を許せることもあるし、親子でも兄弟でもないから必要以上に踏み込まない。
私と尚史の間にはそんなほどよい距離感があり、それに伴う安心感もあると思う。
だからこそ尚史との関係はこのまま変わらないのが理想的だし、尚史も私とどうこうなりたいとは思っていないだろう。

「尚史のことはともかく、今は八坂さんとうまくいくにはどうすればいいのかを相談したいんだけど」
「ああ、そうだった。でも俺はその人のことを知らないから、アドバイスするのは難しいんだよな」
「キヨの思う一般的な男性の目線で答えてくれたらいいよ。デートのときは女の子にこんな風にしてもらうと嬉しいとか、逆にイヤな印象を受けることとか、女の子のこんなところがかわいいと思うとか、好きな服装とか。あと……初めてのデートでどれくらい攻めるつもりでいるのかが気になる」

私がいろいろ言ったからか、キヨは「うーん」と唸りながら腕組みをして首をひねった。
キヨは唸るばかりでなかなか返事をしない。
私はそんなに難しいことを聞いただろうか?

「そういう感覚は人それぞれとしか言い様がないんだよなぁ。まず、デートの相手が好きな子かどうかによっても違ってくると思うんだ。好きな子がしてくれたら嬉しいことも、それほど好きでもない子にされると引くわって思うこともあるし、もちろん逆もあるぞ。女だってそれは同じじゃね?」
「そうなんだ……。デートって難しいもんなんだね」

八坂さんが何を思って私を誘ったのかなんてわからないし、私もまだ八坂さんを好きとか嫌いと判断できるほどはよく知らない。
結局、実際にデートして様子を見てみないとわからないということだ。

「でもまぁ……人にもよるだろうけど、俺は相手がいやがらなければ手ぐらいは普通に繋ぐし、いい感じの流れになればイケるとこまでいくかな」
「イケるとこまでって……」

それはいわゆる、最後までいっちゃうということか?
キヨは場数を踏んでいるだけあって、相当手が早いようだ。

「あー、もちろん今は瞳がいるから他の子とそんなことはしないけどな。あくまでフリーの身であることが前提の話だ」
「当たり前でしょ。でもそうかぁ……。ある程度の覚悟はしておいた方がいいってことだね」

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