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乙女のピンチにヒーローが駆け付けるのは漫画だけではないらしい

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「もちろん尚史じゃなくて八坂って男と一緒にいるとイメージしてだな、世間の若い男女がするデートとか恋愛の予行演習的なことをするわけだよ」

それってつまり、恋人といるときを想像して振る舞う私の姿を尚史に見せるってこと?
めちゃくちゃ恥ずかしくないか?
そんなの深夜特有の妙なテンションで、好きな人に書いたラブレターとか妙にセンチメンタルな気分に浸って綴ったポエムを、翌朝家族に見られるのと同じレベルの恥ずかしさだと思う。
朝になって改めて読み返すと、自分が書いたとは思えないような背中がむず痒くなる言葉が羅列されているアレをだ。
いや、私には3次元でそこまで好きになった人なんていないから、実際は大好きな漫画のヒーローへの熱い想いを綴ったものだったけど、恥ずかしいことには変わりない。
尚史だって私のそんな乙女チックな姿なんて見たくもないだろうし、なんの得もないのに練習台みたいな役はしたくないに決まっている。
とは言え、キヨが私を思って提案してくれたのだから、私の口からハッキリ「イヤだ」とは言いづらい。
なんの関係もない尚史を巻き込むことも申し訳ないから、ここはひとつ、尚史にきっぱり断ってもらおう。

「いやいやいや……そんなことしても意味があるとは思えないし……第一、そんな面倒なこと尚史はイヤだよね?」

こう言って促せば当然うなずくだろうと思ったのに、大盛りのチャーハンをきれいに平らげた尚史は何を血迷ったのか、相変わらずの無気力な顔をして軽く首を横に振った。

「……別にいいけど」

尚史の返事に耳を疑った私は、尚史の顔を穴が空くほど見つめながら思いきり首をかしげた。

「我の聞き違いか……?おぬし、今なんと申した?」
「『別にいいけど』と申した」
「……はぁっ?!」

いいのかよ!
なんでそこで断らない?!
だいたいこんなめんどくさいこと、あんたが一番嫌がることでしょうが!

「ちょっと待って。尚史、本気で言ってる?」
「本気で言ってる。さっきの様子だと八坂さんとのデートの日に、モモがまた新たな武勇伝作りかねないから。八坂さんの股間は俺が守る」

なんだその理由は?
尚史は私の乙女の貞操より、八坂さんの股間の方が大事ってことか!
言いたいことはいろいろあるけれど、前科がある私は返す言葉がない。

「尚史が協力してくれるってさ。良かったじゃん、モモっち。尚史、先に言っとくけど、モモっちが嫌がることとか一線を超えるようなことはするなよ。あくまでも『仮想カップル』だからな」

キヨがニヤニヤしながらそう言うと、尚史は一気にビールを飲み干し、少し呆れた顔でグラスを差し出しておかわりを要求した。

「そんなのするわけないし。で、具体的に俺はどうすればいい?」
「まずはデートだな。おまえらゲームばっかりして、二人で出掛けたりしないだろ?」
「たまに漫画も読むし、コンビニとかフルモトくらいは行く」

フルモトというのは、近所にある『リサイクル古本フルモト』のことだ。
中古の本やゲームなどを売っている店で、私も尚史も子どもの頃からしょっちゅうお世話になっている。

「そういうんじゃなくてさ、もっとこう……おしゃれなカフェとか、カップルがデートに選びそうな場所だよ」
「行く必要ないから行ったことない」
「じゃあまずはやっぱりデートだな。テーマパークとか水族館とか海辺の公園とか、とにかくなんでもいいからデートスポットに手ぇ繋いで行ってこい!」

なんてことだ。
いつもは無気力で恋愛にも無関心な尚史の厚意も無下に断れない。
まったく納得いかないけれど、八坂さんとのデートの日まで私と尚史は『仮想カップル』として過ごすことになったらしい。
こんなことで本当に八坂さんとのデートがうまくいくんだろうか。
一抹の不安を抱えつつ、キヨの提案した『尚史とモモの仮想カップル作戦』が始まった。



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