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恋愛はRPGの如し?まずは経験値を積むべし

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「やっぱりこの時間は混んでるな」
「ちょうど夕食時だからね」

メニューを広げて料理を選んでいるときは、何を食べようかとか、これが美味しそうだとか言って普通に会話をしていたのに、注文してメニューを閉じると二人とも黙り込んでしまった。
尚史は何も言わずに立ち上がりドリンクバーに向かう。
私は尚史がグラスに飲み物を注いでいる後ろ姿をぼんやりと眺めた。
こうして見ると尚史はやっぱり背が高い。
隣でアイスコーヒーを入れている男性より頭ひとつぶんくらいは高いし、手足が長くて肩幅も広いと思う。
その恵まれた体格をバレーとかバスケなんかのスポーツに活かせれば良かったのに、ゲーマーの尚史にとっては宝の持ち腐れだ。
仕事でもそれ以外でも座っている時間が長いのでかなりの猫背だし、ついでに言うと夜更かししてゲームをするせいでいつも寝不足だから、ゲーム以外の何に対しても無気力でボーッとしている。
見た目はそこそこなのにもったいない。
しかし私にとって尚史はこれがデフォだから、八坂さんみたいに背筋を伸ばしてシャキシャキ歩いて、目をキラキラさせてハキハキしゃべる姿は想像もつかないし、恋や仕事にイキイキしていたら尚史じゃないと思う。
ああ……そうか、なるほど。
八坂さんは尚史や私の周りにいるゲーム仲間の男の人たちとは真逆のタイプだから、一緒にいると余計に落ち着かないのか。
とは言え、八坂さんに『私が緊張しないように猫背でボソボソしゃべってください』とは言えない。
やっぱり私が慣れるしかないだろう。
私がそんなことを考えているうちに二人分の飲み物をグラスに注いで席に戻ってきた尚史は、私にアイスミルクティーを差し出した。

「ほい」
「ありがと」

さすがは幼馴染みだ。
何も言わなくても、尚史は私がいつもドリンクバーで最初に選ぶ飲み物まで把握している。

「ドリンクバーがタッチパネルの機械に変わってた。ジュース2種類混ぜたやつ選んでボタン押せば、機械が勝手に作ってくれるらしい」
「へぇ、親切な機械だね」

そこで会話が途切れ、二人とも黙って飲み物を飲み始める。
二人でいるときって、いつも何話してたっけ?
尚史は元々あまりおしゃべりな方ではないから、ゲームをしていないときは自然と口数が少なくなる。
そんなのはいつものことだし、私はこのままずっと黙って料理を待っていても別に苦痛ではないけれど、それだとゲームもせずに向かい合っている意味があまりないように思う。
何かゲームや漫画以外の話題はないかと考えてみたものの、それがなかなか見つからない。

「えーっと……最近どう?」
「あー……ボチボチでんな?」

なんだそれ、大阪の商人じゃあるまいし。
とは言え、『どう?』と聞かれても何と答えていいのか尚史もわからなかったのだろう。
話題を振るならもう少し具体的にしなくてはと反省する。

「うーんと……えーっと……そうだ、しりとりで……」
モは昔からしりとりが好きだ
つめ家の娯楽の定番だから
タつきるまで延々と続けるんだ
く時間続いたこともある
く続けられるな
さの10時から夕方の4時までぶっ続
ンカにならないの
ぞくだからケンカにはならない
かもり家では15分が限度なんだけど、これいつまで続けるしょぞ?」

尚史のやつ、ノリノリで続けていたくせに強制的に打ち切りやがった……!
15分と言いながら、いつもは少なくとも30分は付き合ってくれるのに、今日はなかなかの塩対応だ。

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