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恋愛はRPGの如し?まずは経験値を積むべし

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尚史の視線の先にいるカップルは、1ミリの隙間もないんじゃないかと思うほどべったりとくっついて座り、お互いの頭を寄せ合って、いわゆる『恋人繋ぎ』と言うやつで手を握り合っている。
どっぷりと二人の世界に浸って、今にも接吻などを始めてしまいそうな勢いだ。
常識をわきまえた普通の大人のカップルが、公衆の面前であれほどイチャイチャするとは思えない。

「いやー……あれは若いし、若さゆえに所構わずマックスで盛り上がってるみたいだから、例外でしょ……」
「ふーん……さすがにあれはやり過ぎか。正直、俺も引く」

引くのかよ!
だったらなぜあの二人をお手本にしようとした?
もし予告もなくいきなりあんなことを強要されたら、いくら相手が尚史でも私は全力で拒むだろう。

「他にもカップルはいるでしょ?どうせならもっと普通のカップルをお手本にしようよ……」
「あー、確かにいるな。あの二人があんまり目についたから他が霞んで見えたけど、カップルって案外普通なんだな」

手を繋いだり腕を組んだり、そのどちらもせずに寄り添っていたり、必要以上にくっつかないで普通に笑って会話しているカップルもいる。
私と尚史も、他の人たちの目にはカップルに見えているんだろうか。
そう思うとまたあの不思議な感覚がわき起こる。

「それじゃあとりあえず……明日は手を繋いでみるか」

尚史の言葉を聞いた途端、不思議な感覚が体の中を駆け巡った。
真夏でもないのに身体中が熱くなって、病気でもないのに心拍数が急上昇する。
ヤバイ、脇汗ハンパない。

「あ、明日?!早くない?」
「うん。でも早くしないと慣れないだろうし、手を繋いで終わりってわけでもなさそうだから」
「えっ、手を繋いで歩けたらOKなんじゃないの?!」
「手を繋げたら結婚できると思うか?」

私の中では、この作戦の最終目的地は手を繋いでデートすることだったから、ボスだと思っていた強敵より遥かに強いラスボスの存在を知らされたときのような心境になる。
行く手を天にも届きそうなほどの高い壁で阻まれ気が遠くなるような、あの感じだ。
だけど確かに、今どき幼稚園児だって『手を繋いだら結婚』なんて言わないだろう。

「それはさすがに思わない……けど……」
「だろ?だから手を繋ぐ以外にも、仮想カップルの許容範囲内でいろいろ試してみよう」

まさか尚史がそんなことを言い出すとは思わなかったけど……いろいろって何……?
漫画の中でしか知識を得られなかった、私の経験のないカップルのあれやこれやが頭の中を駆け巡って、目の前がチカチカしてきた。
私……尚史とイチャイチャとかベタベタとかするの?
その流れで『実技の練習』と称して、とても口には出せないような卑猥なことを私にしようなんてことは……。
いやいや……一線を超えるのはナシだってキヨも言ってたし、尚史に限ってそんなことは思ってないよね?
だけど一応尚史だって大人の男だから、どこでタガが外れて豹変するかわからないし、雰囲気に流されて気が付けば事後……なんてこともまったくないとは言い切れない。
私はもしかしたら、男性への苦手意識を克服するために始めた仮想カップル作戦の途中で、あえなく力尽きてしまうかも知れない。
予測不能のクエストに我が身を投じることへの不安を募らせていると、尚史が肘で軽く私の腕を小突いた。

「そんなに心配しなくても、俺はモモがいやがるようなことは絶対にしないから」
「……だよね……。お手柔らかにお願いします……」

どうやら『仮想カップル作戦』は、勇者尚史のリードで先を急ぎながら進むようだ。


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