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冒険の心得《装備は万全に 休息大事 油断大敵 無理厳禁 ※突如現れる無自覚イケメンに注意》

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いつもは低価格が売りのカジュアルファッションのショップで着やすさ重視の服ばかり選んでいるから、今日は別の店に行って、いつもはあまり着ない色とかデザインの服を買ってみよう。
それで何事にも無関心な尚史を感心させることができたら、少しは自信もつくと言うものだ。

そう意気込んでみたものの、一体どんな服が自分に似合って、尚且つデートで相手に喜ばれるのかがわからず、悩みながらフロアを何周も徘徊した。
そんなことをしているうちにも時間はどんどん過ぎて、気が付けば尚史との待ち合わせの時間まであと10分ほどになっていた。
慣れないことはするものじゃないなと焦りながら、どのショップに入ろうか迷っていると、バッグの中でスマホの着信音が鳴った。
バッグからスマホを出して画面を見ると、発信者は尚史だった。

『モモ、用事済んだ?』
「いや、それがまだ……。ごめん、ちょっと遅くなるかも」
『わかった』

電話を切ってスマホをバッグにしまい、大きなため息をついた。
あまり尚史を待たせるのは申し訳ないし、早く決めなきゃ。
いっそのこと、マネキンが着ているのと同じ服を上から下まで買ってしまおうか。
おしゃれなショップ店員がトータルコーディネートしてマネキンに着せているはずだから、きっとそれがおしゃれ女子への一番の近道だと思う。
目の前にあったショップで、入り口のマネキンが着ていたものと色違いのマスタードみたいな色のロングスカートをおそるおそる手に取る。
ふんわりとしたシルエットとか、ウエストで結んだ大きなリボンが可愛いとは思うけれど、こんな色の服は今まで着たことがないし、デザインが可愛すぎて着こなせる自信がない。
マネキンがスカートに合わせて着ていた襟元の大きく開いたトップスも、かなり露出が多くて私にはハードルが高すぎるような気がする。
ヒールの高い靴も履いたことがないから、こんな靴を履いたら何歩も歩かないうちに足を捻ってズッコケてしまうんじゃなかろうか。

服装ひとつ選ぶだけでこんなに悩むなんて、デートって大変なんだな。
世の女子たちはそれを苦ともせず、むしろ楽しんでいとも簡単にやってのけるのだからすごいとしか言いようがない。
今までファッションにはまったく興味がなかった私が急におしゃれ女子になろうなんて、所詮無理な話だったんだ。
自分の女子力のなさを改めて痛感した。
尚史には悪いけど、やっぱりいつもの店に行って地味で無難な服を買おう。

肩を落としながらスカートを元の場所に戻そうとすると、背後から誰かが大きな手を伸ばして、私の持っていたスカートの掛かっているハンガーを掴んだ。
ビックリして振り返ると、なぜかすぐ真後ろには尚史がいた。

「いつもの服装と全然違うけど、こんなのも似合いそうだな」
「えっ……?なんで尚史が……」
「ん?モモ探知機だから、俺」
「探知機って……」

ここに来ていることも、服を買おうとしていることも尚史には一言も話していなかったのに、どうして尚史がここにいるんだろう?
もしや本当に私の体内にGPSでも仕込んであるのか?

「それより服選んでるんだろ?目ぼしいのはあった?」
「ああ、うん……それがなかなか……。どれも可愛すぎて、私には似合わない気がする」
「そうかなぁ……。俺はこれなんかすごくいいと思うけど。試着してみれば?」

そう言って尚史はマスタード色のスカートと、マネキンが着ているものと同じトップスを私に差し出す。
私に似合うとは思えないけれど、せっかく勧めてくれているのに断りづらいから、試着だけしてみることにした。

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