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どうもくすぶるなと思ったら私は餅を焼いていたらしい~気付いたときにはすでに飼い慣らされておりまして~

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痛む胃を押さえながらなんとか日曜日をやり過ごして、月曜日の朝を迎えた。
まだ完治しているとは言えないけれど、胃の痛みは昨日より少しマシになっている。
昨日一日考えて、やっぱり彼女のいる尚史との結婚話はなかったことにするのが一番だという結論に至った。
このチャンスを逃してしまえば、光子おばあちゃんが生きているうちに花嫁姿を見せることはできそうにないけれど、その分今まで以上に光子おばあちゃんに会いに行こうと思う。


昼休みになり、いつものようにみっちゃん、佐和ちゃん、アキちゃんと一緒に『アンバー』へ足を運ぶと、窓の外を谷口さんと二人で歩いている尚史を見掛けた。
わざわざ外に出るのは面倒だから、昼休みはオフィスで通勤途中のコンビニで買ったおにぎりやパンを食べて、残りの時間はスマホアプリのゲームをして過ごすと言っていたのに、尚史は谷口さんとなら一緒に食事をとるために外に出られるらしい。
窓の外をボーッと眺めている私の視線を追っていたアキちゃんが、谷口さんと尚史の姿に気付いた。

「あれ、谷口さんですよね?男の人と一緒に歩いてる」

アキちゃんの言葉に反応して、みっちゃんと佐和ちゃんも振り返って窓の外を見る。

「ホントだ。隣のイケメン誰だろ?」
「彼氏かな?」

昼休みにわざわざ社外の人と会っていれば、やっぱりそう思うだろう。
尚史も谷口さんも何も言わないけれど、どう考えたって私には二人が付き合っているとしか思えない。

「あれね、この前話した幼馴染みの尚史」
「えっ、あれが?」
「本人からハッキリ聞いたわけじゃないけど、最近よく一緒にいるの見かけるから、付き合ってるのかも知れない」

私がそう言うと、3人は驚いた様子で黙って顔を見合わせた。
案内された席に着き、3人はいつものように日替わりランチを注文したけれど、私は胃痛のせいで食欲がないのでリゾットを注文した。
今日の日替わりのおかずは私の好きなコロッケだったのに、私が注文しなかったのをみっちゃんは不思議に思っているようだ。

「モモ、今日コロッケなのに日替わり食べないの?」
「うん……食欲がないの、胃が痛くて」
「今日はずっと元気ないけど、八坂さんとまたなんかあった?金曜日は家に行ったんでしょ?」

みっちゃんには八坂さんの家に行くことを金曜日の休憩時間に話したから、もしかしてずっと気にしてくれていたのかな。
いろんなことがあったから説明すると長くなりそうだけど、一人で考えていたってモヤモヤするだけだし、みっちゃんたちに相談してみようかと考える。

「行ったんだけど……八坂さんの家でも、そのあともいろいろあって……」

私は金曜日の夜から土曜日にかけて起こった出来事を思い出しながら順を追って話した。
緊張のあまりワインをがぶ飲みして酔ってしまい、八坂さんに襲われそうになったところを八坂さんの婚約者の大沢さんに助けられたことと、経緯はわからないけど大沢さんを連れて来たのが尚史だったことを話すと、3人とも「そんなドラマみたいなことがあるのか」と言っていた。
何より八坂さんに婚約者がいたことにはかなり驚いていたようだ。
そして翌日尚史と一緒に光子おばあちゃんのお見舞いに行ったら、なぜか尚史と結婚することになったと話すと、3人が「ええっ?!」と店中に響き渡るほどの大きな声をあげたので、他の客や店員から白い目で見られてしまった。

「モモ、冗談きついわぁ……」
「冗談じゃなくて……その場で婚姻届も書いて昨日入籍する予定だったんだけど、土曜日の昼からずっと胃が痛くて、夜にはもっとひどくなって、昨日は動けないくらい痛くて家で休んでたから、まだ提出はしてない」

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