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バラ色ごきげんサタデー~ニヤニヤが止まらない~

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土曜日の朝、枕元に置いたスマホのアラームを止めるために寝返りを打とうとしたけれど身動きが取れず、なぜだろうと思いながら重いまぶたを開くと、目の前には尚史の寝顔があった。

「ふおっ?!」

驚いた私は奇妙な叫び声をあげて体をのけ反らせる。
心臓止まるかと思った……!
そうだった……ゆうべは尚史が私の部屋に泊まって、一緒に寝たんだ。 
とは言え同じベッドで一緒に寝ただけで、親に話すのが恥ずかしいようなことは特に何もなかった。
……いや、尚史とキスをして抱きしめ合って寝たと言うだけでも、じゅうぶん過ぎるくらい恥ずかしいし、もちろんそんなことまで親には言わないけれど。
尚史は私を抱きしめたまま、まだぐっすり眠っている。
しかしなんとも幸せそうな寝顔だ。
寝顔なんてあまりじっくり見たことはなかったけれど、尚史の顔は眠っていても散らかることなくキレイに整っていて、だけどいつもより少し幼く見えて、天使のように愛らしかった子どもの頃の面影が残っている。
尊い……永遠に眺めてられるわ、これ。
こっそり写メっちゃおうか。
『朝目が覚めたら隣にあのイケメンがいる毎日ですよ、最高じゃないですか!』と興奮気味に言っていた谷口さんの気持ちが、少しだけわかった気がする。
確かに目の保養には最高だし、この無防備な姿はヤバすぎるくらい萌える。
だけどこのイケメンの寝顔や寝起きの顔を見られるのも、この形の良い唇が『好きだよ』と言ってキスするのも、妻である私だけなのだと思うと、ちょっとした優越感でニヤニヤが止まらない。
そんなことを考えながら、尚史の寝顔を穴が空くほど眺めていると、尚史が微かに眉を寄せて「うーん」と小さく唸った。
まずい、今この状態で尚史が目覚めたら、私のだらしなくにやけた顔を見られてしまう。
それに尚史の寝顔に見とれていたなんて知られたら照れくさいなと思い、腕の中からそっと抜け出そうとすると、眠っているはずの尚史が両腕で私の体をガシッと捕まえた。

「……逃がさん……モモ……」

今、私の名前を呼んだよね?
もしかして起きてた?

「……ンガ……捕獲……」

モモンガかよ!
夢の中でも私を逃がさないなんて可愛いなぁと、ちょっとキュンとしてたのに!
なんてまぎらわしい寝言だ!

「尚史、起きて」

捕獲されたまま声をかけると、尚史はふにゃっと笑って私の頬に頬をすり寄せた。

「モモ……」

もう騙されないぞ、どうせまたモモンガでしょ?

「モモ、可愛い……好きだよ……」

騙された……!
今度は私だった……!
寝ているときまでイケメンか!
またにやけそうになる口元を引き締めて、もう一度声をかけた。

「尚史、起きて。今日は光子おばあちゃんのお見舞いに行くんでしょ?」
「んー……」

尚史はゆっくりまぶたを開いて私を見ると、またふにゃっと笑って、唇に軽くキスをした。
またしても私は不意打ちのキスにうろたえ、心臓をバクバクさせている。
一緒に暮らし始めたら毎日こんな感じだとすると、私の心臓は何年もつだろうかと心配になってきた。

「おはよ……モモ」
「お、お、おはよう……」
「朝起きたら目の前にモモがいる……。俺、今めっちゃ幸せ……」

夫になった尚史は朝からとんでもなく激甘だ。
こんな甘い言葉、聞いているこちらの方が恥ずかしい。

「そろそろ起きて出掛ける用意しないと」
「あー、うん。そうだな」

尚史は起き上がって大きく伸びをすると、着ていたTシャツをなんのためらいもなく脱いだ。
いきなり裸の上半身を見せつけられて、私は思いきり吹き出しそうになり、あわてて目をそらした。

「ちょっと!いきなり脱がないでよ!」
「脱がないと着替えられないし」
「それはそうだけど……!目のやり場に困るでしょ!」
「男の裸なんて、どうってことないだろ?」
「なくないの!私がむこう向いてるうちに着替えて!」

顔を真っ赤にして背を向けると、尚史は裸のままで後ろから私を抱きしめた。

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