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初めての夫婦喧嘩(?)で新妻爆発する~なぜそんなものを犬に食わせようとした?~

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他愛ない話をしているうちに駅前に到着した。
日曜日なので、駅前は家族連れや若いカップルで賑わっている。
商業施設の駐車場に車を停めて店内に入り、まずはフードコートを目指した。

「お腹空いたね。何食べる?」
「俺は特盛カツ丼。モモは?」
「私はやっぱりオムライスかな」
「定番だな」

それぞれ選んだ料理と飲み物を注文してテーブルに着き、料理ができるまで飲み物を飲みながら待った。
いつもは二人でいるときも黙っていても平気なのに、今日は何か会話をしないとなんとなく気まずい。
私は頭をフル回転させて、地雷を踏まなさそうな話題を探す。

「今日の晩御飯はどうしようか」
「まずは飯を炊くだろ。米買って帰らないとな」
「おかずはどうしよう。カレーでも作ってみる?」
「カレーって何入れるんだっけ。ジャガイモとニンジンと玉ねぎと……牛肉か」
「うちは鶏肉だったけど。あっ、ピーラーも買わないと!忘れないうちにメモしとこう」

スマホのメモ画面を開いて、買い忘れたものリストにピーラーを入れた。

「あとは何がいる?」
「鍋は買ったけど、お玉は買ってないんじゃないか」
「そういえば買ってないね。お玉も追加だ」
「あ、あとしゃもじも買ってないな」

他愛ない話をしているうちに、注文した料理ができたことを知らせるブザーが鳴った。
地雷を踏まずに済んだことに安堵しながら料理を受け取り、二人で向かい合って食事をした。

「モモはホントにオムライスが好きだな」
「オムライスが好きって言うか、どこの店でもあんまりハズレがないから注文するの。でもキヨのオムライスは別だよ。卵がフワッとしてトロッとして、チキンライスの味付けが絶妙でね、毎日でも食べたいくらい美味しいから、めちゃくちゃ好き」

キヨのオムライスについて熱弁したあとで、ハッと我に返った。
尚史の箸が完全に止まっている。
キヨの名前を出しただけでこんな反応をされたら、私はこの先キヨの店に行くことはおろか、キヨと会うこともキヨの話をすることもできない。
水野さんとのことは過去のこととして水に流してしまおうと思っていたけれど、どれだけ私が気を遣ったところで、尚史がこの調子では到底無理な話だ。
だったら私はどうするのが正解なんだろう?
忘れたい過去なのであれば忘れてしまえばいいのに、尚史はなぜ忘れようとしないのか。
私が気にしないふりをしているんだから、せめて忘れたふりをしてくれればいいものを、どうして尚史は『俺は犠牲者』とでも言いたげにつらそうな顔をしているのかと思うと、だんだん苛立ってきた。
どちらかと言えば、私の方が水野さんに八つ当たりされた被害者だ。
このままうやむやにしてほとぼりが冷めるのを待つべきか、水野さんとそんな関係になった経緯を、ネチネチとしつこく根掘り葉掘り聞き出すべきか考えていると、尚史がまたゆっくりと箸を動かし始めた。

「俺もキヨに教えてもらおうかな……オムライスの作り方」
「なんで?」
「キヨよりうまくオムライスが作れるようになったら、モモは俺とずっと一緒にいてくれるかなーって……」

さすがの私もこの言葉にはムカついた。
それはあれか?
餌付けをしておかないと私は尚史のそばからいなくなるとか、そういうことか?
私はその言葉に返事もせず、急いでオムライスを掻き込んだ。
すごい勢いでオムライスを口に運ぶ私を見て、尚史はポカンとしている。

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