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恋する女は女を敵とし、人は誰しも恋をするとバカになる(要するに愛しい君の一番になりたい)

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「そのこと、モモさんは?」
「全部話した」
「じゃあ気兼ねなく話せるよ。ホントは尚史には黙っててくれって水野に言われたんだけど……水野は尚史が嘘ついてるのわかってて京都に行ったんだって」
「……え?」
「どうしたって尚史の恋人にはなれないのはわかってたけど、もう元の友達にも戻れないし、好きだから離れたくないって気持ちが勝って、卑怯な手を使って尚史にしがみついてたって。でも尚史がどうにかして水野から離れようとしてるのがどんどんつらくなって、今度こそきっぱりあきらめようと思って、騙されたふりして京都に行ったんだってさ」

尚史から聞いた話だと尚史の気持ちしかわからなかったけれど、水野さんもやっぱりつらかったんだ。
好きな人を苦しめているとわかっていても、好きだからどんな手を使ってでもそばにいたくて、どうにかして尚史の体だけでなく心まですべてを手に入れられないかとあがいていたんだと思う。

「水野がそう言ったのか?」
「水野以外に誰がそんなこと言うんだよ」
「じゃあなんで今頃になって戻ってきて、モモの前であんなことを……」
「海外に転勤が決まって、しばらく帰れないからその前に里帰りしようって思って帰ってきてたんだってさ。そんで高校のときに仲良かった子に偶然会って、キヨが店やってるって聞いたんだって。ホントは店に行って尚史に会えたら謝るつもりだったらしい」

謝るつもりだったのに、なぜみんなの前であんなことを暴露したんだろう?
おまけに私に散々嫌味を言ったよね?
思っていたこととやったことがまったく違うじゃないか。

「あれで?謝る気なんかなかったように見えたけど」
「駅で俺と会って、尚史がモモさんと結婚したって知って、昔のつらかった気持ちがいろいろぶり返したんだと。尚史に愛されて何も知らずに幸せそうにしてるモモさんが妬ましかったから、いじめてやりたくなったんだって。それでどうせなら尚史との昔の関係をモモさんにバラして、徹底的に尚史に嫌われてやろうと思ったらしい」
「モモは関係ないのに……。まさしく八つ当たりだな」

やっぱり『女の敵は女』なんだな。
水野さんの敵だった私は、時間差で見事な八つ当たり攻撃をされたわけだ。

「パーティーでのことは、尚史とモモさんには気の毒だとは思うけど……水野もいろいろあって弱ってたんだよ。水野は京都の会社に就職してからもずっと尚史のことが好きで忘れられなかったらしいんだけど、入社して2年くらい経った頃に、付き合って欲しいっていう男がいて、眼鏡とか髪型とか背格好が尚史に似てたから付き合うことにしたんだって」

水野さんも彼のことを尚史の身代わりにしていたわけだ。
水野さんは最初こそ彼に尚史を重ねて、尚史と恋人になっていたらこんな感じだったのかなと思ったり、尚史ならこうしただろうなと比べたりしていたそうだけど、だんだん尚史の身代わりとしてではなく彼本人の人柄に惹かれ、気が付くと本気で好きになっていたらしい。
しかし付き合い始めて1年半ほど経った頃に、水野さんの不在時に部屋に来ていた彼が、調べものをするために水野さんのパソコンを借りて使っていたときに、例の隠しカメラで撮った画像が入っているデータフォルダーを開いて見てしまったそうだ。

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