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不毛な関係
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彼のジャケットのポケットの中で、スマホがくぐもった音をたてて着信を知らせた。
その音は、気付かないふりをするには大きすぎる。
まるで存在をアピールしているみたい。
彼は私の肌に唇を這わせながら、それを無視しようとしている。
私はベッドの上でため息をついた。
「電話……鳴ってるよ」
「いいよ、どうせあいつだろ」
「ん……でも……」
「ほっときゃそのうち切れる。それより芙佳、こっち……」
鳴り続ける電話に知らんぷりを決め込んで、彼は熱を帯びた私の体を貪る。
しばらくすると電話の音は途切れ、私と彼の荒い息遣いと湿った音だけが、薄暗い部屋に響いた。
これでやっと集中できる。
彼は片手で私の腰を引き寄せ、太ももの間に指先を忍び込ませて、塞いだ唇の内側で舌を絡めた。
浅いところからゆっくり奥の方へと私の中を進む指の動きに、たまらず声がもれる。
胸の膨らみを這う湿った舌の感触に私が身悶えながら甘い声をあげると、彼は唇の端に満足げな笑みを浮かべた。
私の奥を探る彼の指の動きが激しくなり、その快感に身を委ねようと目を閉じた時、それを嘲笑うように、再びスマホは着信音を鳴らしてその場を白けさせた。
「……電話、鳴ってる」
「仕方ないな……」
彼はめんどくさそうにベッドから下りて、ジャケットのポケットからスマホを取り出した。
「はぁ……」
画面に映る発信者の名前を見た彼は、わざとらしいため息をついてから私に背を向けて電話に出た。
「ハイ……ああ、ごめんな。……え?そうか、わかった。……うん……うん……。いや、大丈夫だ……ああ」
──またか……。
なんとなくそうじゃないかとは思ってたけど。
私は静かに起き上がって、脱ぎ捨てられた下着と洋服を拾い集めた。
電話を切って振り返った彼は、スマホをテーブルの上に置いて私にすり寄った。
「芙佳……」
彼は甘えた声で名前を呼んで、私の体を抱き寄せる。
私の機嫌を取っているつもりなのか、頬や耳にキスをする彼に無性に苛立った。
「帰るんでしょ?」
「……こんな中途半端なのに?」
「もうそんな気分じゃなくなったの。続きは帰って奥さんとすればいいでしょ」
「拗ねてるのか?」
拗ねてなんかいない。
高まっていた気持ちが萎えるほどしらけてしまっただけだ。
そんなこともわからない彼の無神経さが余計に私を苛立たせる。
「別に……いつもの事だし。それより早く服着て帰れば?」
彼の服をその手に押し付けた。
彼は少しバツの悪そうな顔をして、私の唇にキスをする。
「ごめんな、なんかあいつの親父が来るとか言ってるし帰るわ。また近いうちに埋め合わせするから」
……もう聞き飽きたって。
ホントはそんな事、これっぽっちも思ってないくせに。
「あなたが出てくれないと鍵閉められない。私はお風呂に入りたいの。早く出てって」
なかなか服を着ようとしない彼を急かして追い出し、わざと大きな音をたてて鍵を閉めた。
冷たいコンクリートの廊下を歩いて奥さんの元に帰って行く彼の足音が、ドア越しに聞こえた。
なんてバカらしい不毛な関係。
私も彼も、一体いつまでこんな事を続けるつもりなんだろう。
その音は、気付かないふりをするには大きすぎる。
まるで存在をアピールしているみたい。
彼は私の肌に唇を這わせながら、それを無視しようとしている。
私はベッドの上でため息をついた。
「電話……鳴ってるよ」
「いいよ、どうせあいつだろ」
「ん……でも……」
「ほっときゃそのうち切れる。それより芙佳、こっち……」
鳴り続ける電話に知らんぷりを決め込んで、彼は熱を帯びた私の体を貪る。
しばらくすると電話の音は途切れ、私と彼の荒い息遣いと湿った音だけが、薄暗い部屋に響いた。
これでやっと集中できる。
彼は片手で私の腰を引き寄せ、太ももの間に指先を忍び込ませて、塞いだ唇の内側で舌を絡めた。
浅いところからゆっくり奥の方へと私の中を進む指の動きに、たまらず声がもれる。
胸の膨らみを這う湿った舌の感触に私が身悶えながら甘い声をあげると、彼は唇の端に満足げな笑みを浮かべた。
私の奥を探る彼の指の動きが激しくなり、その快感に身を委ねようと目を閉じた時、それを嘲笑うように、再びスマホは着信音を鳴らしてその場を白けさせた。
「……電話、鳴ってる」
「仕方ないな……」
彼はめんどくさそうにベッドから下りて、ジャケットのポケットからスマホを取り出した。
「はぁ……」
画面に映る発信者の名前を見た彼は、わざとらしいため息をついてから私に背を向けて電話に出た。
「ハイ……ああ、ごめんな。……え?そうか、わかった。……うん……うん……。いや、大丈夫だ……ああ」
──またか……。
なんとなくそうじゃないかとは思ってたけど。
私は静かに起き上がって、脱ぎ捨てられた下着と洋服を拾い集めた。
電話を切って振り返った彼は、スマホをテーブルの上に置いて私にすり寄った。
「芙佳……」
彼は甘えた声で名前を呼んで、私の体を抱き寄せる。
私の機嫌を取っているつもりなのか、頬や耳にキスをする彼に無性に苛立った。
「帰るんでしょ?」
「……こんな中途半端なのに?」
「もうそんな気分じゃなくなったの。続きは帰って奥さんとすればいいでしょ」
「拗ねてるのか?」
拗ねてなんかいない。
高まっていた気持ちが萎えるほどしらけてしまっただけだ。
そんなこともわからない彼の無神経さが余計に私を苛立たせる。
「別に……いつもの事だし。それより早く服着て帰れば?」
彼の服をその手に押し付けた。
彼は少しバツの悪そうな顔をして、私の唇にキスをする。
「ごめんな、なんかあいつの親父が来るとか言ってるし帰るわ。また近いうちに埋め合わせするから」
……もう聞き飽きたって。
ホントはそんな事、これっぽっちも思ってないくせに。
「あなたが出てくれないと鍵閉められない。私はお風呂に入りたいの。早く出てって」
なかなか服を着ようとしない彼を急かして追い出し、わざと大きな音をたてて鍵を閉めた。
冷たいコンクリートの廊下を歩いて奥さんの元に帰って行く彼の足音が、ドア越しに聞こえた。
なんてバカらしい不毛な関係。
私も彼も、一体いつまでこんな事を続けるつもりなんだろう。
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