閉じたまぶたの裏側で

櫻井音衣

文字の大きさ
34 / 52
恋の返り血

しおりを挟む
「應汰……お願い、もう……」
「芙佳、俺が欲しいって言えよ。言えたら芙佳ん中、俺でいっぱいにしてやる」

欲情に駆られた体は快感に溺れ抗えない。
心も体も、私のすべてを熱いもので満たして欲しい。
私は應汰の名前を呼びながら、溺れる人のように夢中で両腕を應汰の背中に回してしがみついた。

「應汰……が、欲しい……」

催眠術にでも掛けられたように、そんな恥ずかしい言葉を素直に口走ると、應汰は嬉しそうに笑って私の唇に優しいキスをした。

「俺も芙佳が欲しい」

腰を引き寄せられ、熱くなった應汰で体の奥までいっぱいに満たされて、激しく揺さぶられた。
恋の熱に浮かされた体は、貪るように愛を求める。
私たちは何度も舌を絡めたキスをして、ただひたすら互いの体を求めて抱き合った。

「気持ちいい?」
「うん……気持ちいい……。もっとして……」
「いいよ、いくらでもしてやる」

汗ばんだ肌に舌を這わされ、大きな手で弱いところを執拗に攻められて、甘い声をあげながら應汰の名前を呼ぶと、應汰は私の体をえぐるようにさらに激しく突き上げる。

「芙佳、もっと感じて」

私は應汰の言葉を聞きながら、ギュッと目を閉じて昇りつめた。
その瞬間、真っ白になる頭の中で、かつての甘い記憶が次々と蘇り涙が溢れそうになった。
私はそれを應汰に気付かれないように、慌てて應汰の胸に顔をうずめる。
当たり前だけど、何もかもが勲とは違う。
應汰に抱かれながら、目を閉じて勲を思い浮かべて果てた私は最低だ。
すべてが終わると、應汰は私を抱きしめて何度も何度も口付けた。

「芙佳、好きだ……。ずっと芙佳とこうしたかった」


腕枕をされ髪を優しく撫でられながら、應汰の腕の中で眠った。
激しく抱き合った余韻の残る体を、こんな風に優しく抱きしめられて眠るのはいつ以来だろう?
應汰の腕の中で、私が欲しかったのはきっと、こんな些細なことだったんだと思った。


目覚めると、私の隣に應汰の姿はなかった。
カーテンの向こうでは太陽が高いところから陽射しを振り撒いている。
寝返りを打つと、二日酔いの頭がズキズキと痛んだ。
ベッド上に体を横たえ、應汰のぬくもりを失ったシーツの冷たさを指先に感じながら、ぼんやりと天井を見上げて夕べの事を考える。
私は應汰に抱かれながら、記憶の中の勲と体を重ねていた。
ひどい話だ。
本当に最低な事をしてしまった。

『ずっと芙佳とこうしたかった』

不意に夕べの應汰の言葉を思い出す。
應汰は一体どんな気持ちで私を抱いていたんだろう?
應汰は言葉にしては言わなかったけれど、勲の代わりなんかじゃなくて、應汰自身を見てくれと全身で言っていたんだと思う。
幻はどんなに寄り添ってもやっぱり幻で、抱きしめる事もできない。
すぐそばにいて、どんなに好きだと言っても届かない想いをもて余して、私の失恋話にまで付き合わされた應汰もきっと、私に私の幻を重ねて抱いていたんだ。
失恋パーティーと應汰が言い出したのは私のためじゃなくて、應汰自身のための失恋パーティーで、ヤケ酒したかったのは應汰の方なんじゃないかと思う。
私は應汰の気持ちを知っていて、應汰の優しさに甘えるだけ甘えて、勲を失った寂しさを埋めるために應汰を利用した。
もしかしたら應汰もそれに気付いているのかも知れない。

『芙佳、もっと感じて』

また應汰の言葉が頭をよぎった。
身代わりなんかじゃなく、今芙佳の中を満たしている俺をもっと感じて。
俺の愛をもっと感じて。
應汰はそう言いたかったの……?



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

先生

藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。 町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。 ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。 だけど薫は恋愛初心者。 どうすればいいのかわからなくて…… ※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

処理中です...