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一人で傷を癒すため
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週末を両親と一緒に過ごし、少しペンションの手伝いをした。
日曜の夜に戻った自宅は、荷物を詰め込んだ段ボールが部屋の隅に積み上げられ、ガランとして寒々しい。
就職してからの6年間を過ごした、住み慣れたこの部屋とももうすぐお別れだ。
何度も勲と抱き合って、不毛な関係に涙を流して、勲を想いながら應汰に抱かれたこのベッドも、この際だから捨ててしまおう。
誰の記憶もない新しい部屋で、誰の体温も残していない新しいベッドを買って、新しい生活を始めるんだ。
そしてやっと、私が退職する日がやって来た。
仕事の引き継ぎも昨日までに無事に終える事ができた。
元々たいした荷物はなかったけれど、あとは周りに気付かれないように少しずつ整理した荷物を、今日の仕事が終わったら紙袋に詰め込むだけ。
應汰と彼女の仲睦まじい姿を見掛けたあの日から、社員食堂には一度も行っていない。
昼休みは近所の公園のベンチに座って本を読みながら、コンビニで買ったおにぎりやパンなどで簡単に食事を済ませていた。
雨の日は会社の近くの、あまり客足の多くない古びた喫茶店で一人で食事をして、コーヒーを飲みながらのんびりと読書をした。
見たくもないものを見てイヤな思いをするよりは、一人で過ごす方が気がラク。
こちらから避けてしまえばぶつかる事もない。
この会社に来るのも今日で最後だ。
私が会社を辞める事は直属の上司の勲は知っているけれど、その事について私には直接何も言わなかった。
七海が妊娠している事はあっという間に社内に広がったから、勲は私には何も言えなかったのかも知れない。
勲も七海も、部署の人たちに子供の事を聞かれて嬉しそうに話していたから、勲が幸せならそれでいいと思う事にした。
勲が私のためにすべてを捨てると言ったあの時にそれを受け入れていたら、私はこれから生まれてくる勲と七海の子供から、父親か、あるいは未来を奪う事になっていたかも知れない。
そう考えると私の決断は間違っていなかったのだと思う。
どうせもう昔には戻れないんだし、私は勲の笑顔が大好きだったから、相手が私でなくても幸せそうに笑ってくれる方がいい。
そうすれば私の想いも報われる。
妬みとか憎しみとか悲しみとか、心を蝕むいろんなものを手放せば、好きな人の幸せを願って穏やかな気持ちで生きて行ける。
そんな気がした。
定時になり、部長が私の退職を部署の人たちに知らせた。
突然の知らせに驚かれたり、よく面倒を見てくれた先輩に『もっと早く言ってくれたら送別会くらいはしたのに』と言われたりした。
後輩たちも『お世話になりました』とか『寂しくなります』と言ってくれた。
本心かどうかは別としても、少しでも惜しんでもらえたから、6年間勤めたこの会社を心置きなく去る事ができる。
今日で会社を辞める事は、應汰には話していない。
ずっと顔も合わせていないし、話もしていないから当たり前だけど、来週から私が出社しなくなったところで、應汰はきっと気付かない。
だけどそれでいいんだと思う。
お礼を言う事も謝る事もできないけれど、應汰はきっと私からの言葉なんて望んでいないはずだから。
應汰と一緒に過ごした楽しかった日を思い出すと、もう友達にも戻れない事は寂しい。
泣きたいだけ泣けと言って優しく抱きしめてくれた應汰が好きだった。
勲の事を想いながら、私の弱さを受け入れてくれた應汰にも惹かれていたなんて、今更気付いても遅すぎる。
『無理なんかしなくていい。芙佳は芙佳のままでいいって、俺は思う』
應汰の言葉が脳裏を掠めた。
そんな事を言ってくれたのは應汰だけだった。
應汰、ありがとう。
もう会えないけれど、私にとって應汰の存在は、思っていた以上に大きかったよ。
日曜の夜に戻った自宅は、荷物を詰め込んだ段ボールが部屋の隅に積み上げられ、ガランとして寒々しい。
就職してからの6年間を過ごした、住み慣れたこの部屋とももうすぐお別れだ。
何度も勲と抱き合って、不毛な関係に涙を流して、勲を想いながら應汰に抱かれたこのベッドも、この際だから捨ててしまおう。
誰の記憶もない新しい部屋で、誰の体温も残していない新しいベッドを買って、新しい生活を始めるんだ。
そしてやっと、私が退職する日がやって来た。
仕事の引き継ぎも昨日までに無事に終える事ができた。
元々たいした荷物はなかったけれど、あとは周りに気付かれないように少しずつ整理した荷物を、今日の仕事が終わったら紙袋に詰め込むだけ。
應汰と彼女の仲睦まじい姿を見掛けたあの日から、社員食堂には一度も行っていない。
昼休みは近所の公園のベンチに座って本を読みながら、コンビニで買ったおにぎりやパンなどで簡単に食事を済ませていた。
雨の日は会社の近くの、あまり客足の多くない古びた喫茶店で一人で食事をして、コーヒーを飲みながらのんびりと読書をした。
見たくもないものを見てイヤな思いをするよりは、一人で過ごす方が気がラク。
こちらから避けてしまえばぶつかる事もない。
この会社に来るのも今日で最後だ。
私が会社を辞める事は直属の上司の勲は知っているけれど、その事について私には直接何も言わなかった。
七海が妊娠している事はあっという間に社内に広がったから、勲は私には何も言えなかったのかも知れない。
勲も七海も、部署の人たちに子供の事を聞かれて嬉しそうに話していたから、勲が幸せならそれでいいと思う事にした。
勲が私のためにすべてを捨てると言ったあの時にそれを受け入れていたら、私はこれから生まれてくる勲と七海の子供から、父親か、あるいは未来を奪う事になっていたかも知れない。
そう考えると私の決断は間違っていなかったのだと思う。
どうせもう昔には戻れないんだし、私は勲の笑顔が大好きだったから、相手が私でなくても幸せそうに笑ってくれる方がいい。
そうすれば私の想いも報われる。
妬みとか憎しみとか悲しみとか、心を蝕むいろんなものを手放せば、好きな人の幸せを願って穏やかな気持ちで生きて行ける。
そんな気がした。
定時になり、部長が私の退職を部署の人たちに知らせた。
突然の知らせに驚かれたり、よく面倒を見てくれた先輩に『もっと早く言ってくれたら送別会くらいはしたのに』と言われたりした。
後輩たちも『お世話になりました』とか『寂しくなります』と言ってくれた。
本心かどうかは別としても、少しでも惜しんでもらえたから、6年間勤めたこの会社を心置きなく去る事ができる。
今日で会社を辞める事は、應汰には話していない。
ずっと顔も合わせていないし、話もしていないから当たり前だけど、来週から私が出社しなくなったところで、應汰はきっと気付かない。
だけどそれでいいんだと思う。
お礼を言う事も謝る事もできないけれど、應汰はきっと私からの言葉なんて望んでいないはずだから。
應汰と一緒に過ごした楽しかった日を思い出すと、もう友達にも戻れない事は寂しい。
泣きたいだけ泣けと言って優しく抱きしめてくれた應汰が好きだった。
勲の事を想いながら、私の弱さを受け入れてくれた應汰にも惹かれていたなんて、今更気付いても遅すぎる。
『無理なんかしなくていい。芙佳は芙佳のままでいいって、俺は思う』
應汰の言葉が脳裏を掠めた。
そんな事を言ってくれたのは應汰だけだった。
應汰、ありがとう。
もう会えないけれど、私にとって應汰の存在は、思っていた以上に大きかったよ。
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