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変わり始める世界

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2019年6月27日、全世界で非常事態宣言が発動された。
日本においては実に78年ぶり。
太平洋および大西洋での大規模な地殻変動が確認され、地球規模での大災害の可能性があることが、その理由だ。
大変動が起こるのは2019年7月14日。
日本でも全国民へ避難指示が出され、順次、避難施設へ移動を行うこととなる。
余りの規模の大きさから地球滅亡かとの不安が巻き起こり、ネットではデマが飛び交う。
冷静な者達も、なぜ発生する日が特定できたのかという疑問や、長期に渡り経済活動が停止することへの不安を口にするが、不思議と大事にはならず粛々と避難は進んでいった。
そして来たる2019年7月14日。
全世界で同時に震度3の地震が発生。
揺れは十五分ものあいだ続いたが、日本では太平洋沿岸に二メートルの津波が発生した程度で大した被害はなかった。
それにもかかわらず、解除されることのない避難勧告。徐々に人々の不安と不満は高まっていくが、そういった声を掻き消すような報道が発表される。

太平洋上、大西洋上に巨大な大陸が出現。

それと同じくして、強いふらつきと吐き気を訴える者が次々と現れ始める。
その乗り物酔いのような症状は程度の差はあれど加速的に広がっていき、パンデミックの恐怖からパニックが起ころうとした時、緊急会見を告げるアナウンスが設置されたスピーカーから流れ始めた。
なぜか全ての避難所に設置されていた大型テレビには、目を見張るほどの美しい女性。
太陽のような金色の髪と金色の瞳、絵画でしか見たことがないようなドレスを纏った女性はゆっくり話し始める。
いま起こっている症状はこの世界に魔法の力が戻ったためのものであり1時間足らずで治まること。
自分は太平洋上の大陸に存在する統一王国の女王、アルメリア・ラ・ムーであると。
女王は語り続ける。
この世界と自分達の世界は、もともとはひとつの世界であったが、はるか昔にふたつへ分かれてしまったこと。
自分達の世界に、ふたつの世界を再統合しようとする勢力があらわれたこと。
この世界の協力者達の助力を得て戦うも、力およばず統合を防ぐことはできなかったこと。
そのかわりに、統合によって起こる被害は最小限に食い止めることができたこと。
統合によって、この世界に魔法の力が戻り大変革が起こるであろうこと。
統合による混乱を最小限とするため、2年前より国際連合と協力体制にあること。
この会見は世界中で同時に放送された。
荒唐無稽な信じがたい話であったが、人々は気付きはじめる。母国語が違う隣人達が、自分と同じ言葉を話していることに。
かつて神は驕った人類に怒り言語を乱した。その伝説が真実をはらんでいたという事実は、女王の言葉を信じさせるには十分だった。
ちなみに日本では、気付くまで結構かかった。
そこからの変化は劇的なものだった。
魔力が戻ったことにより、世界各地にダンジョンと総称される構造物が発生。特に古くからの伝承や伝説が残る地ではダンジョン周辺の環境まで激変してしまった場所も多い。
日本国内でも、いくつかの地で大きな異変があったが、あらかじめ避難場所を予測されていた地区から遠ざけていたこと、待機していた自衛隊の活躍により大きな被害は免れることができた。
ダンジョンや、そこに蔓延る怪物たちへの不安が高まる中、ダンジョン内には多量の資源や希少な金属、鉱石、魔法の力を宿した様々な物品があることが発表。
自衛隊による調査ののち、順次、民間へ開放すべく早急に法整備を進めると決定された。
あまりにも急な発表に当然のように批判が巻き起こる。
国会は荒れ、日々の報道も加熱していくが、国連加盟国すべてから同様の施策が発表されると、嘘のように沈静化していった。
そして決定から僅か半年後の四月一日、民間人へのダンジョン探索が開放される。
人々は、ダンジョンを巡る熱狂の中へと否応なしに巻き込まれていくこととなる。
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