天から二物も三物も与えられ過ぎた俺がダンジョンで青春を取り戻す

黒丸

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人狼

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「恐らくこの規模のダンジョンなら、下りたらすぐにダンジョンコアがあるはずだ。まだ魔物はいないとは思うが準備しておけ」
「つまり、俺達が五層に入ってからボスが出るってことか」
改めて鉄板を引き抜く。けっこう気に入ってはいるんだよな、これ。
「そういうことだ。ありったけの魔力を使って魔物を作り出してくるだろう。危険だと感じたら指示を出す。必ず従ってくれ」
「わかった」
五層の床が見えてくる。
今までと違って綺麗な石畳だ。ダンジョンコアも自分の部屋の内装にはこだわるらしい。
五層へと入る直前で立ち止まる。
中をうかがうと、壁まで統一された石造りの部屋。
正面に祭壇のように台座が作られ、その上に煌々としたダンジョンコアが輝いている。
「すごいな…」
「そうか、実際に見るのは初めてだったな。私も初めては感動したが…すぐに見飽きるぞ。」
レンがにやりと笑う。さすがベテランは違う。
「準備ができたら君から入ってくれ。私が後に続く」
「わかった。準備はもうできてるよ」
「うん、その答えの早さは褒めるべきか咎めるべきか、判断に迷うな」
いや少し呆れてるだろ、それ。
「まあ、蛮勇もまた勇気だ。行ってくれ」
「ああ」
五層へ足を踏み入れる。ぬるっとした感覚。空気が粘ついているような不思議な感じだ。
「これは…」
続いて入ってきたレンが声を上げる。様子がおかしい。
「逃げるぞ!魔力が濃すぎる!」
その叫びを遮るようにギィンと金属同士がぶつかるような音が響く。
「くっ!塞がれた!」
レンが五層入り口、いま通ったはずの場所に手をつく。まるで透明な壁があるみたいだ。思い出すのは、一昨日のダンジョン入り口のゾンビ達。
閉じ込められたのか…。
「恨みますよ…、シュウイチさん…」
振り返ったレンが一点を見つめながら呟く。
俺もその視線を追うと、そこには、真っ黒なタールのような塊が浮いていた。
空気中から染み出すように少しずつ大きくなっていく塊。
それはだんだんと何かを形作っていく。
「すまないソウスケ。これは私には無理だ…」
俺にでもわかる。こいつはまずい。
形がはっきりしてくる。
「さんざん偉そうなことを言っておいて本当にすまない…。」
レンは今にも座り込みそうなほどに震えている。
「シュウイチさんがすぐに気付くはずだ。少しでも私が時間を稼ぐ。君も、最後まで足掻いてくれ。」
震えながらも剣を構える。
俺が綺麗だと思った琥珀色の瞳が滲む。
「…レン。俺がやる。援護してくれ。」
それはもう、はっきりと人型をとっていた。
俺より頭ひとつは大きい。
「駄目だ!君を守るのが私の…」
「レン!」
真っ黒な毛に覆われた身体。
「俺がやる。隙をついてくれ。隙を作ってくれ」
狼の形をした頭。
「ウールヴヘジン…」
俺の言葉に応えることなく、レンが呆然と呟く。
人狼。
完全に姿を現したそれは、フィクションのように遠吠えを上げるでもなく、その狼の顔をゆっくりと上げる。
「おおっ!」
気力を振り絞るように声をあげて一足で飛び込む。
迎え撃つように突き出される右腕。左へ避ける。速い。見えない。
身を屈めると、引き戻す動きで追ってきた鋭い爪が頭上を抜ける。見えないけどわかる。人の形をしていれば読める。
右へと身体を捻る。胴を狙った左腕がわき腹を掠めた。来る。
頭を目掛けて蹴りだされた右脚。ここだ!
鉄板を振り上げてそれを跳ね上げ、後ろへと崩れた胴へと振り下ろす。左脚が動くが俺の方が速い。
鉄板が骨盤あたりにめり込む。そのまま地面へと叩きつける。硬い骨の砕ける感触。いける!
視界が塞がる。膝だ。なんで。スローモーションのように迫ってくる。避けれない。死ぬ。
「ああああっ!」
身体を反らせる。捻る。衝撃。目の前が真っ白になる。浮遊感。
「っがぁ!」
地面を転がって立ち上がる。
目の下が折れた。脳は揺れてない。吐き気がこみあげる。脇腹か?
人狼は何事もなかったかのように立ち上がる。再生してる。
みるみるうちに赤く染まる右目の視界。いい。どうせ見えない。胴体しか見ない。
「レン!お前への攻撃は俺が防ぐ!お前の動きに俺が合わせる!」
視界の外にいるレンへと叫ぶ。
まだ折れてないはずだ。震えながら俺を守ろうとしてくれた彼女なら折れないはずだ。
「信じてくれ!信じるぞ!…頼む!」
もう一度、人狼へと飛び掛る。
その狼の、大きく裂けた口から唸りが漏れた。
笑いやがったなてめえ!
上段から鉄板を振り下ろす。右腕で弾かれる。が、その腕は拉げたようにへし折れた。
崩れたバランスを鉄板を振り子にして立て直す。鋭い爪がプロテクターをかすめて千切れ飛ぶ。それが一瞬だけ視界を塞ぐ。まずい。
人狼の爪が、折れたはずの右腕が迫る。
「っぐぁ!」
なんとか鉄板で受けるが衝撃で身体が流れる。次が来る!間に合わない!
人狼の身体がガクリと崩れる。レンだ。
左足の腱を切り裂いたレンへ向かう左腕を叩き落す。
レンの剣先が人狼の左目へ突きこまれる。
怯んだ人狼の頭を上から叩き潰す。
地面に倒れこむ身体から浴びせ蹴りのように足が突き出される。右へかわし、レンへと振られた腕を打ち上げる。

――集中しろ。

レンが人狼の膝裏を切りつける。

――魔力を使って自分の身体を探る。把握していく。

首元へ袈裟で切りつける。鉄板がめり込む。

――骨格を、関節を、筋肉を、靭帯を。

鉄板を掴まれた。手刀がレンへと飛ぶ。かろうじて蹴り上げて起動をずらす。レンを狙ってる。急げ。

――更に深く探る。毛細血管まで神経線維まで筋繊維まで。

レンの剣が人狼の首へと刺さる。その隙に鉄板を引き寄せる。

――その全てに魔力を通す。強く、細く、細かく。繊維の一本一本に。細胞のひとつひとつまで。

人狼の両脚を薙ぎ払う。

――折れないように。切れないように。破れないように。

左へ動くと跳ね起きるようにして突き出された両足が頭の横を抜ける。

――心臓がありえない速さで動き始める。

そのまま距離をとった人狼がレンに向かって突っ込む。止めないと。

――強化しきれなかった血管が破れていく。魔法の多重発動に吐き気がこみ上げる。

レンへと向かう人狼に鉄板を振り下ろす。が、何の手ごたえも無く石床を叩き割る。はめられた。
俺を見下ろす人狼の爪が振り下ろされる。かろうじて鉄板を差し込むが、肩口に爪が食い込み引き裂かれる。
「っぐぅっ!」
「ソウスケッ!」

――集中を解くな。イメージを崩すな。

傷が深い。左の鎖骨が折れた。レンへ向かって人狼の右腕が突き出される。

――強く。速く。動け。動け!間に合え!

「ぅぐぁぁああああああああっ!」
突き出された右腕を断ち切る。斬り返して振り上げられた左腕を切り落とす。胴を蹴り抜いてレンとの距離をあける。
鼻血がだらだらと流れ落ちてくる。折れた右目から、左肩から噴き出すように血が溢れる。
「強化…?」
レンの声が聞こえる。答える余裕はない。
人狼の懐へと飛び込む。
蹴り出された右脚を下から切り落とす。右腕を上段から叩き切る。
脳の血管の強化が甘かった何本か切れてる。
振り回された左腕を断ち切って再生した右腕をまた切り落とす。
視界が狭くなってくる。時間が無い。もたない。脳の出血が多すぎる。
横薙ぎに首を切り落とす。
魔石。魔石を抜けば終わるはず。
袈裟斬りに鉄板を叩きつける。断ち切られた人狼の胸から上が吹き飛ぶ。
あった!
鉄板を手放し、むき出しになった心臓。そこに癒着した魔石を掴む。これで終わる!
「あ…?」
腕が動かない。人狼の胸に突き刺さった俺の腕。それを真っ黒な両腕ががっしりと掴んでいる。
誘われたのか。
左腕は上がらない。足で蹴り付けてもすぐに再生する。
「離せっ!離せぇっ!」
レンが何度も人狼を斬りつける。それでも力は弱まらない。
狭くなった視界に大きく開かれた人狼の口が迫ってくる。俺の頭なんて簡単に噛み砕きそうだ。
どんどん視界が狭くなる。頭が回らない。
レンは助かるだろうか中武さんは間に合うだろうかみんな泣いてくれるだろうかみんなごめん父さん母さん兄さん、ごめんなさい。
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