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第1章

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その日の夕食で父上が一連の説明をしてくれた。

「そういう訳でダキテーヌ家のパトリックを殺った。カースは奴の弟と同じ組だから気まずいかも知れんが、こちらに非はない。堂々としておけ。」

「うん、わかった。その時の父上って相当カッコよかったらしいね。見たかったよ。」

父親が同級生の兄を殺害した。
文字にしてみれば大事件だけど、こちらに非がないってのもすごいことだよな。
普通の貴族達って横車押し放題なんだろうな。だから勘違いしたままクタナツに来てあっさり殺される。
フランティアの他の街もこうなんだろうか。

「今日は疲れた。風呂に入るとしよう。オディロンも来い、背中を流せ。」

「いいよ。たまには親孝行しないとね。」



風呂場にて。

「ふー、上級貴族は面倒だよな。お前は大丈夫か? あの子がリーダーなんだろ?」

「うん、問題ないと思うよ。それより父上、あいつを斬ったのは僕にやらせたくなかったからだよね? 確かに後五秒あれば僕が殺ってたけど。」

「ふふ、我ながら親バカだな。あんなバカのためにお前の手の内がバレるのが気に入らなくてな。」

「あ、そっち? てっきり手を汚して欲しくないとかそんな感じかと思ったよ。
だったら血を乾かしたりしない方がよかったかな。」

「ふふ、一部ではお前の洗濯魔法は有名だからな。多少は問題ないさ。首を血が吹き出す前に乾燥させたのはまずかったかな。それより早く童貞を捨てておけよ。」

「ひどい親だな。息子に殺人を勧めるの?」

「さあな。どっちの童貞かは知らんぞ。
そうそう、ウリエンにも言ったことだがな、安い娼館には絶対行くな。行っていい店はクタナツだと『凰媧楼おうかろう』しかないな。」

「そもそも行く気はないけど、安い店はなぜだめなの?」

「簡単だ。ロクな女がいないからだ。運が悪ければ病気持ちもいる。まあお前の魔力なら感染うつされることもないだろうが。」

「なるほど、そういうものなんだね。そういった経験を積むべきかどうか分からなくなってるんだよね。マリーしか興味はないんだけど、その経験はマリーのためになるのか、ならないのかがさ……」

「難しい話だな。考えてみろ、マリーは奴隷の身だ。つまりお前の想像を超える経験をしているだろう。だからお前も経験を積むのか、それとも積まないか。どちらでもいいさ。悩んでも分からんことは勘で決めてみな。」

「そうだね。金貨百枚貯まるまでまだまだかかりそうだし、じっくり悩んでみるよ。」


こうして父子の語らいは終わった。
この家族はいかがわしい話をする時はいつも風呂のようだ。
きっと実りある会話なのだろう。
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