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第1章

113 十月十一日、未明

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だいぶ冷静になったカース。
冷静になるといろんな考えが浮かんでくる。帰りの遅い自分を心配した両親が助けにくるのではないか、と。だいたいの場所はベレンガリアが知っている。ならばこちらからは正確な場所を知らせればよい。

そこでまた悩む。
朝まで持たせる魔力を他に使っていいのか?
無駄打ちにならないだろうか?

クタナツを二度目に出発してから二時間は経っただろう。そうなると一度目の帰還時間から考えて心配し始める頃だろう。あの場にはフェルナンドもいたため救助に来てくれる可能性は高い。

カースは腹を決めた。
救助が来るという前提で行動する。

『光源』

辺り一帯を広く照らすのではなく、遠くから見えやすいよう範囲を絞り強い光を高く撃ち上げる。

もう後戻りはできない。三十分に一度これを使うとすれば、確実に朝まで持たないのだ。
勝手な行動をした自分だが、それでも助けが来ることを信じた。これは身勝手なのか信頼なのか。

そして相手もきっと合図をするはずだと信じて周囲を注視する。

夜明けまで四、五時間だろうか。時計のないカースに時間を知る術はない。いつ明けるとも知れぬ夜に不眠不休で魔法を使い続け、周囲の観察も怠らない。現時点でグリーディアントの危険はない。虫もカースのいる高さまでは上がってこない。



やがてカースには分かってしまった。
自分の魔力が後一時間も持たないことを。その上で覚悟を決めて最後の『光源』を使った。

その時だった、遥か遠くで薄っすらと明かりが見えた! 救助だ!
カースが信じた通り、あちら側も魔法を撃ち上げながらカースを捜索してくれていたのだ。

残る魔力を振り絞り全速力で移動する。
先ほどの『光源』もきっと相手に見えているはずだ。

移動しながら少しずつ高度を落とす。
もういつ魔力が切れてもおかしくない。墜落死を防ぐため高度を落としているのだ。

十分も経たずにカースの魔力は切れ、意識が飛びかける。しかし空中を慣性で飛んでいる現在、意識を失えば確実に死ぬ。このまま鉄板にしがみつき、鉄板と共に着地するしかない。

魔力が切れて一分、鉄板は接地し、その衝撃でカースは大地に投げ出された。それでもカースは意識を保っている。
すでにグリードグラス草原からは遠く離れているが、それでも危険な場所なのだ。

立ち上がることはできないが、それでも目と首だけを動かして周囲を確認する。何も見えない、何も聞こえない。

背中を強く打っているので呼吸が苦しい、声も出せない。それでも呼吸を整えようとゆっくり深呼吸を始める。
後一回、たった一回光源を使えば助けが来る。その一心で回復を図る。

そこに物音が聞こえてきた。
助けか!?
カースは縋るような思いでそちらに注意を向ける。
暗くてはっきりと見えないが、おそらくそれは三匹のゴブリンだった。
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