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第1章

222、カースとシフナート

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それからの毎日は平和だった。
錬魔循環はキツかったが、学校では何事もない。
イボンヌちゃんは何事もなかったかのようにエルネスト君に近寄っている。エルネスト君も気にした様子はなく仲良くお弁当を食べている。どちらも大物すぎるだろ……
バルテレモンちゃんはいつの間にか学校に来なくなった。
護衛一号君と二号君は最近学校に来るようになった。無罪放免されたのだろうか?



そして昼休み。

「カース殿、貴殿に決闘を申し込む。貴殿に恨みなどない。しかし我が忠誠は一つ。主君の無念を晴らすべく決闘を申し込む。如何に?」

「シフナート君。もう少し詳しく聞かせて欲しい。アジャーニ君は生きてるだろう? それなのに何故わざわざ決闘を?」

「あの方は愚かな方だ。その父親も母親も愚か者だ。目先のことしか考えられず、その場の感情で行動をする。それだけに私はカリツォーニ様の優しさが本物だと知っている。敵は全て叩き潰す非情な代官とは違う。」

「なるほど。難しいことは分からない。しかし君が彼を慕っていることは分かった。決闘を受けよう。」

「校長先生を呼んでくるわ。」

さすがアレク。よく分かっている。
その間に首輪を外しておく。



程なくして校長が到着する。

「事情は分かりました。双方異存はありませんね?」

「ありません。カリツォーニ様の名誉に賭けて私は勝ちます。」

「ありません。受けます。」

「いいでしょう。ではこれよりカース・ド・マーティンとシフナート・ド・バックミロウの決闘を始める! もう一度言う!これは決闘である!
ジャック=フランソワ=フロマンタル=エリ・エローが見届ける! 決闘後の異議は一切認めない!
両者構え!」



「始め!」

私は水壁を張る。
シフナート君の速さは恐ろしい。きっと乾燥魔法では捉えきれない。
案の定、私の目の前まで迫っていた。
姉上から発動速度を上げるコツを習ってなかったら危なかったかも知れない。
彼は剣を振り上げたまま水壁に捕らわれている。ギリギリだったか。

「どうする? 降参する?」

「ああ、こうなっては勝ち目はない。降参するよ。」

「では約束してもらおうか。負けを認め私に危害を加えないと。」

シフナート君は黙り込んだまま何も喋らない。

「降参すると言っている。これ以上何が必要なんだい?」

「だから約束をしろと言っている。君のようなタイプは一瞬の隙をついて僕を殺そうとするだろう? だから約束が必要なんだ。十秒待つ、約束をするかしないか。どちらかで答えてくれ。」

重苦しい時間が流れる。














その時、私の後ろで護衛一号君が倒れた。

「決闘の邪魔をするとは許せないよ。カース君に助けが必要とは思えないけど。出しゃばってごめんね。」

スティード君が一号君を気絶させたのか。
確かに自動防御があるから問題はなかっただろうが、その気持ちが嬉しい。

「さあ十秒経過。約束するかい?」

「……約束する……くっ……」

「その分だと僕の契約魔法のことも知ってたみたいだね。ではもう僕に危害を加えられないことも分かるね? 友達を人質に取るのも危害に含まれるから無理だよ。あぁ解除して欲しかったら金貨三枚持って来るといい。
スティード君、助かったよ。ありがとね。」

「いやいや、余計なことをしてごめんね。」

「さて、本来ならトドメを刺すとこだけど、降参したことだしこれにて終了としようか。校長先生、どうでしょうか?」

「本来決闘とはどちらかの死をもってしか終わらないもの。しかし子供同士でそれはあまりに悲しいと思います。勝者たるマーティン君が良いならそれで終わりです。
勝者カース・ド・マーティン!
これにて決闘を終わる! 解散!」

ふぅ、ギリギリだったな。剣で勝負しなくてよかった。範囲広めの水壁で正解だったようだ。

「カースお疲れ。すっきり終わってよかったわね。」

「ありがと。僕だって同級生を殺したいわけじゃないからね。」

「完敗だ。勝つには速攻しかないと思ったが、あそこまで速く魔法を発動できるとは。初日にハンドラーの剣を抑えて正解だった。」

「シフナート君、知ってるかい? 『タイマン張ったらマブダチ』って古い言葉があるのを?」

「いや、寡聞にして知らない。怠慢貼る? 間夫立ち?」

「正々堂々と決闘をし、お互いの力を認め合ったならもうすでに親友と言う意味らしい。厳密には夕日が差す河原でやる必要があるらしいけどね。」

「カース殿……『タイマン張ったらマブダチ』いい言葉だ。親友と言ってくれたことは忘れない。ではこれにて。」

シフナート君は四時間目の授業を受けずそのまま帰っていった。
一号君も……見当たらないな?
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