【短編読切り】慰められる媚薬の夜

大竹あやめ

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 事の発端はセルジオが失恋して、目に付いたバーにやけ酒に来たところからだ。

(くそ、女がいたなんて、気付かない俺も馬鹿だ)

 長年付き合っていた同性の恋人に、女性と結婚するから別れてくれと言われたのだ。
 その時は冷静に話せた、と思う。やっぱりそうだよな、と恋人を祝福し、嫌な顔を見せずに別れられたのは我ながらよくやったと思う。
 けれど時間が経つほど心に負った傷は痛みだし、堪らず酒に逃げようと店に入った。

 初めて入る小さなバー。カウンター席しかなく、十人も入れば満席になってしまうその店は、一人の店員と、一人の男が座っているだけだ。

「とにかく強いのを」

 セルジオは席に着くなりそう注文すると、先にいた男に声を掛けられる。

「お酒で傷心を紛らわすのは、良くないよ?」

 セルジオは思わず男を睨んだ。ダークブラウンの髪がさらりと落ちて、同じ色の瞳がこちらを見ている。その瞳に熱っぽさを感じて、なぜかドキリとした。

「初めまして、僕はネロ。……こういう時は、まずは媚薬でも飲まない?」

「……は?」

 あまりの唐突な提案に、セルジオはぽかんと口を開けた。するとネロと言う男は顎を右手で撫でて、あれ、少し違うなぁ、と呟いている。その仕草がなぜか色っぽく見えて、セルジオは彼から視線を外した。

 いやいやいや、少しどころかだいぶおかしい。そもそも初対面の人にお酒ではなく媚薬を勧めるとか、怪しい人以外に何がある、と内心慌てていると、ネロは隣に座って、スっとショットグラスを寄越した。

「ごめんごめん。……はい、お望み通り強いの」

 何かきみ、からかいたくなるからさぁ、と笑うネロはとろりとした笑みを浮かべる。セルジオはそれを受け取ると、彼に慰められたのか、と思い、たまにはこんな出会いもいいなとそれを煽った。

 そしてしばらくして身体が熱くなり、やっぱり一服盛られた、と冒頭のシーンに戻るのだが。




 バーの奥の部屋にネロに支えられて入ると、そこはベッドが置いてある簡素な休憩所だった。

「大丈夫? つらいよね……すぐに楽にしてあげるから」

 ネロの声が耳のすぐそばでする。移動した距離はほんの少しなのに、媚薬が本格的に効いてきたのか、ネロの囁きにもセルジオは敏感に反応し、ひくりと肩を震わせた。

 一体、どの口が言っているのだろう。セルジオは彼をまた睨みたかったけれど、疼く熱をどうにかしたくて、彼の指示に素直に従った。

 ベッドの端に座らされ、そっと押し倒される。彼の肉厚な唇がセルジオの形のいい唇を軽くついばみ、唇が擦れるたびに腰に甘い痺れが走った。
 くらくらする意識を何とか繋ぎ止めようと、セルジオはシーツを握る。まだ唇を合わせているだけなのに跳ねる腰を抑えきれず、セルジオは堪らず声を上げた。

「ん? ……ああ、そんなに慌てないで」

 でもつらそうだから、先に出しちゃおうか、と耳を食みながら言われ、期待と恐怖にセルジオは震える。

「だ、ダメだっ、今触ったら……っ」

 身体がこれ以上ないくらい熱い。当然のように、セルジオの下半身も耐えられないくらいに腫れ上がり、少しの刺激で達してしまいそうで情けなくて泣きそうになる。

「大丈夫、笑ったりしないよ。きみは何もしなくて良いから……」

 そう言ったネロはセルジオのジーパンに手をかけた。ボタンを外され、チャックを下ろされ、下着ごと脱がされ股間が露になる。そこはもう見た目でも限界だと分かり、空気に触れただけでそこは、脈に合わせてヒクヒクと動いていた。

「やっぱり綺麗だね。僕の思った通りだ」

 ネロは熱く滾ったそこを、大事なものを扱うかのように優しく握る。やっぱりとはどういう事だと思うけれど、温かい手にそこを包まれただけでゾクゾクと痺れが背中を走り、それが甘いため息となってセルジオの口から零れた。

「きみは……どこがイイのかな?」

 ここ? と先端の穴の部分を親指で擦られる。ビクン、と大きく震えた身体にネロは満足そうに笑うと、そこをゆるゆると扱きだした。

「あっ、……っ、だ、ダメだ……っ」

 ただでさえ、何もしなくても熱くなっている身体に、そんな刺激を与えてはすぐに達してしまう。思わずネロの肩を掴むと、彼のシャツをシワができるほど強く握った。

「あ、ほら……濡れてきた。本当に限界なんだね」

 イキたい? と問われてセルジオはこくこくと頷く。その言葉に満足そうに微笑んだネロは、セルジオの怒張を遠慮なく扱き上げた。

「あっ! ああ、イク、イク……っ!」

 すぐにセルジオは身に覚えのある感覚に襲われ、身体を大きくひくつかせながら射精する。

 光と音が戻ってきて下半身を見ると、ネロの手も、自分の服も精液でベタベタに汚れていた。しかしセルジオの身体は落ち着くどころか、なかなか収まる様子がなく、荒い呼吸は既に次の絶頂へと向かっている。

「あらら、汚れちゃったね……そんなに気持ちよかった?」

 穏やかに笑うネロは手についた精液を舐め取った。ちろりと見えた赤がとてつもなく淫猥に見えて、セルジオはまた肩を震わせる。そしてネロにも、欲情の光が瞳に宿っていると分かると、どうしようもなく興奮し、身体が小刻みに震え出すのだ。

「あ……、もう、……もうやめ……」

「止めていいの? まだきみの愛していない部分、いっぱいあるでしょ?」

 そう言うと、ネロはセルジオの濡れたシャツを捲り上げる。白い肌に浮き出た桜色の突起は、下半身の怒張と同じように硬く尖っていた。

「怖がらなくていいよ。僕が全部愛してあげる……」

 ネロはそっとその突起に舌を這わせる。すると、下半身を刺激されるのとはまた違う感覚が、セルジオの脳内を支配した。
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