42 / 46
42 会社での立場は
しおりを挟む
筧の提案した一週間の休みが終わり、二人は緊張しながら出社した。
けれど二人の心配は杞憂だった。なぜなら二人がいない間に、筧と佐々木が社内規定を見直し、パートナーシップ制度を取り入れる動きを見せていたのだ。
もちろん、社内規定なので社内のみに適応されるものだけれど、パワハラ、セクハラの規定に同性へのハラスメントはもちろん、アウティングに関する事項も組み込まれ、祐輔たちの立場を守ろうとしていたのだ。
時代の流れからして遅くはないか、とも思ったけれど、きっかけがなければ動かなかったでしょう、と言ったのは佐々木だ。
しかも一週間の間に匿名アンケートも取ったらしく、どうやら同性パートナーがいる社員がいること、そして同性愛に寛大であるべきだとの意見が多かったとのことなので、突貫工事で規定をつくった、ということらしい。
「おかげで残業続きですよ。桃澤課長には、休んだ分しっかり働いてもらいますからね」
そう言った佐々木は、以前は暗いイメージだったのに何だかイキイキしているように見える。何かあったのだろうか。
「何か……すみません。まさか会社に受け入れられるとは思わなくて……」
「社員が働きやすい環境をつくるのが、総務の仕事ですよね。結果的に自分も過ごしやすくなるから、協力したまでです」
「……え?」
それってどういう意味だ? と祐輔は考える。そんな祐輔を見て、佐々木はイラッとしたように続けた。
「鈍いですね課長。……ま、私は今のところ、相手はいませんけど」
そう言って、佐々木はどこかへ行ってしまう。祐輔はやはり理解が追い付かないまま呆然としていると、蓮香に肩を叩かれた。
「佐々木係長は影の協力者だったんですね」
暗いけど、と付け足す彼は笑っている。
そういえば蓮香の休職理由も、手当などの処理をするのは彼だから、知らないはずはないのだ。易々と口にしなかったのは社員として当然だし、やはり筧の「仕事はできるがとにかく暗い!」という評価は合っていた。
本当に、みないいひとだ。いいひと過ぎて、頭が上がらない。
「蓮香さん、二人でみんなに謝りに行きますよ」
「はい」
不安はない。先日はものすごく怖かったのに、なぜか大丈夫だという確信があった。筧と佐々木という協力者がいることもそうだけれど、祐輔が今まで築き上げてきた信頼は、そう容易く崩れるものではない、と思えたからだ。
◇◇
その後、祐輔と蓮香は、芳川のことについて騒いだことを謝りに行った。やはりみな、二人が芳川に絡まれているという認識をしていて、大変だったねと言われ苦笑する。
「ああいうやつ、俺ホント許せないんだよな」
どの口が言う、と思ったのは笹川だ。鶴田に、似たもの同士の同族嫌悪と言われていて、珍しく笹川が凹んでいたけれど。どうやらこの二人のパワーバランスも変わりつつあり、このまま鶴田が上手く笹川を転がしてくれないかな、と祐輔は思う。
「私がいくらアプローチしても、効いてる様子がなかったのは、そういうことだったんですね」
「え、いや……」
「ああ、無理しなくていいです。桃澤課長がゲイでも、仕事上で私の憧れというのは変わりませんから」
そしてなぜか祐輔が同性愛者だから、アプローチが効かなかったと思い込んでいる鶴田は、祐輔の弁解も聞かずに笹川について外出してしまった。まさか気付いていなかったとは言えない。蓮香は小声で「気付いてもらえなかった鶴田さんかわいそう」と思ってもいないことを呟いている。
いいひとを演じるあまり、自分の気持ちにも、他人からの気持ちにも鈍くなっていたらしい。素を出すのも大事なのかな、と蓮香を見上げると、彼は嬉しそうに笑っていた。
「いいじゃないですか、誤解させておけば」
「いや、でも……」
弁解しなくても、まだまだここにいるなら、そのうち分かってくれますって、と蓮香は上機嫌だ。おおかた、これで堂々とそばにいられるとでも思っているのだろう。
でもそれが、かわいいと思ってしまう自分がいる。
「蓮香」
会社では滅多にしない呼び捨て。彼は形のいい目をこちらに向けた。
「週末、片付けの続きやろう」
そう言うと、彼は眩しいものを見るかのように目を細める。そして、この話をする時はいつも苦笑いだった蓮香が、綺麗な笑みを浮かべたのだ。
「……はい」
彼の笑顔は、素直にカッコイイと思う。それも、自分にだけは特別な笑顔を見せてくれると思えば、かわいいなぁ、愛しいなぁ、と胸がほっこりするのだ。
「よし、じゃあ今日も頑張りますか」
「はい」
二人で顔を見合わせると、お互い右手を上げ、ハイタッチをした。
けれど二人の心配は杞憂だった。なぜなら二人がいない間に、筧と佐々木が社内規定を見直し、パートナーシップ制度を取り入れる動きを見せていたのだ。
もちろん、社内規定なので社内のみに適応されるものだけれど、パワハラ、セクハラの規定に同性へのハラスメントはもちろん、アウティングに関する事項も組み込まれ、祐輔たちの立場を守ろうとしていたのだ。
時代の流れからして遅くはないか、とも思ったけれど、きっかけがなければ動かなかったでしょう、と言ったのは佐々木だ。
しかも一週間の間に匿名アンケートも取ったらしく、どうやら同性パートナーがいる社員がいること、そして同性愛に寛大であるべきだとの意見が多かったとのことなので、突貫工事で規定をつくった、ということらしい。
「おかげで残業続きですよ。桃澤課長には、休んだ分しっかり働いてもらいますからね」
そう言った佐々木は、以前は暗いイメージだったのに何だかイキイキしているように見える。何かあったのだろうか。
「何か……すみません。まさか会社に受け入れられるとは思わなくて……」
「社員が働きやすい環境をつくるのが、総務の仕事ですよね。結果的に自分も過ごしやすくなるから、協力したまでです」
「……え?」
それってどういう意味だ? と祐輔は考える。そんな祐輔を見て、佐々木はイラッとしたように続けた。
「鈍いですね課長。……ま、私は今のところ、相手はいませんけど」
そう言って、佐々木はどこかへ行ってしまう。祐輔はやはり理解が追い付かないまま呆然としていると、蓮香に肩を叩かれた。
「佐々木係長は影の協力者だったんですね」
暗いけど、と付け足す彼は笑っている。
そういえば蓮香の休職理由も、手当などの処理をするのは彼だから、知らないはずはないのだ。易々と口にしなかったのは社員として当然だし、やはり筧の「仕事はできるがとにかく暗い!」という評価は合っていた。
本当に、みないいひとだ。いいひと過ぎて、頭が上がらない。
「蓮香さん、二人でみんなに謝りに行きますよ」
「はい」
不安はない。先日はものすごく怖かったのに、なぜか大丈夫だという確信があった。筧と佐々木という協力者がいることもそうだけれど、祐輔が今まで築き上げてきた信頼は、そう容易く崩れるものではない、と思えたからだ。
◇◇
その後、祐輔と蓮香は、芳川のことについて騒いだことを謝りに行った。やはりみな、二人が芳川に絡まれているという認識をしていて、大変だったねと言われ苦笑する。
「ああいうやつ、俺ホント許せないんだよな」
どの口が言う、と思ったのは笹川だ。鶴田に、似たもの同士の同族嫌悪と言われていて、珍しく笹川が凹んでいたけれど。どうやらこの二人のパワーバランスも変わりつつあり、このまま鶴田が上手く笹川を転がしてくれないかな、と祐輔は思う。
「私がいくらアプローチしても、効いてる様子がなかったのは、そういうことだったんですね」
「え、いや……」
「ああ、無理しなくていいです。桃澤課長がゲイでも、仕事上で私の憧れというのは変わりませんから」
そしてなぜか祐輔が同性愛者だから、アプローチが効かなかったと思い込んでいる鶴田は、祐輔の弁解も聞かずに笹川について外出してしまった。まさか気付いていなかったとは言えない。蓮香は小声で「気付いてもらえなかった鶴田さんかわいそう」と思ってもいないことを呟いている。
いいひとを演じるあまり、自分の気持ちにも、他人からの気持ちにも鈍くなっていたらしい。素を出すのも大事なのかな、と蓮香を見上げると、彼は嬉しそうに笑っていた。
「いいじゃないですか、誤解させておけば」
「いや、でも……」
弁解しなくても、まだまだここにいるなら、そのうち分かってくれますって、と蓮香は上機嫌だ。おおかた、これで堂々とそばにいられるとでも思っているのだろう。
でもそれが、かわいいと思ってしまう自分がいる。
「蓮香」
会社では滅多にしない呼び捨て。彼は形のいい目をこちらに向けた。
「週末、片付けの続きやろう」
そう言うと、彼は眩しいものを見るかのように目を細める。そして、この話をする時はいつも苦笑いだった蓮香が、綺麗な笑みを浮かべたのだ。
「……はい」
彼の笑顔は、素直にカッコイイと思う。それも、自分にだけは特別な笑顔を見せてくれると思えば、かわいいなぁ、愛しいなぁ、と胸がほっこりするのだ。
「よし、じゃあ今日も頑張りますか」
「はい」
二人で顔を見合わせると、お互い右手を上げ、ハイタッチをした。
20
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!
小池 月
BL
男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。
それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。
ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。
ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。
★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★
性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪
11月27日完結しました✨✨
ありがとうございました☆
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる