16 / 44
契の指輪
16
しおりを挟む
気が付くと緋嶺は草原の中にいた。
ここはどこだ? と周りを見渡すと、豊かな緑と小川が見える。綺麗な所だな、と思っていると、ある木の下に誰かがいることに気付いた。
緋嶺はそっと彼らに近付く。よく見るとそれは男女で、女の方はとても美しいひとだった。
豊かな金髪を腰まで伸ばし、白く柔らかそうな肌はグリーンのワンピースに包まれている。金髪と同じく艶やかなまつ毛の下には、琥珀の瞳があり、その目は胸元に抱いた何かを愛おしそうに眺めていた。
対して男は筋肉質で背が高く、小麦色の肌で長めの漆黒の髪をしている。鋭い瞳は赤色で、女の抱いたものをこちらもまた愛おしそうに見ていた。
「あ、あくびしてる……可愛い」
女は胸に抱いたものを見て笑った。つられて男も笑う。
「こうしてるとサラそっくりだよな」
男は低く甘い声で言う。サラという名前と、その声に聞き覚えがあった。この男は──緋月だ。あれが両親か、と緋嶺はどこか他人事のように思う。
「そう? 鼻と口は緋月そっくりよ?」
サラは見蕩れるほど綺麗な笑顔を見せる。二人は今とても幸せで、愛し合っているのが分かる表情だった。
それを見て緋嶺はなぜかホッとした。記憶が無いとはいえ、両親が幸せそうにしている所を見られたからだ。どうしてそれができたのかは分からないけれど。
すると緋嶺の背後でガサッと音がした。振り返ると鷹使が降り立って羽を消したところだった。鷹使は緋嶺を認めると、眉間に皺を寄せる。
「お前、誰だ?」
「え……?」
「あ、ヒスイっ」
すると緋月が駆け寄って来た。緋月には緋嶺が見えないのか、何の反応もなく緋嶺の横を通り過ぎて行く。
それが、自分が無視されたようで胸が痛くなった。それが鷹使にも見えたらしい、自分を指さして何かを話している。緋月はこちらを見て目を凝らしているけれど、やはり見えないのか肩を竦めた。
「もう一度聞く。お前は誰だ?」
緋嶺は口を開いて、自分の名前を伝えた。鷹使がそれを緋月に伝えると、緋月は驚き、そしてその後に喜び、そして泣いた。
「緋嶺、大きな姿でそこにいるってことは、殺されずに生きているんだな……良かった……っ」
そして緋月はおーい聞いてくれ! とサラの元へ走っていく。サラも話を聞き、緋月が指した方を見たが、やはり見えなかったようだ。けれど緋月と幼い緋嶺の三人で抱き合って喜ぶ姿を見て、緋嶺も目頭が熱くなる。
自分はちゃんと愛されていた。それが嬉しかったのだ。
しかしどうして緋嶺はここにいるのだろう? そう思って鷹使を見ると、彼は緋嶺の額に人差し指を置いた。
「これは俺の夢だ。……もう帰れ」
優しい声でそう言われると目眩がする。そして気付いたら布団に寝ていた。
心臓が痛いほど早く動いている。両目尻から熱い液体が零れて、緋嶺は涙を拭おうと腕を動かした。しかし、その腕を止められてビックリする。
「なぜ泣いている?」
鷹使がまたくっついて寝ていたのだ。そういえば、まだ完全に回復していない、とまた同衾させられたのだったと思い出し、そっぽを向いた。
夢だったのだ。大きくなった緋嶺がいると、喜んでいた両親は。それにしても不思議な夢だった、そう思っていると、鷹使は驚いたような声で言うのだ。
「お前、俺の夢を覗いたのか?」
緋嶺は無言で涙を拭う。それを肯定と取った鷹使は、とても優しい声で言った。
どうやら【契】をすると、相手の夢に入り込むことがあるようだな、と鷹使は緋嶺の頭を撫でる。
「この時はもう逃亡生活だった」
あらゆる世界を文字通り飛び回り、それでも二人は幸せそうだった、と鷹使は懐かしそうに呟いた。
「……あんた、本名はヒスイって言うんだな」
美しい鷹使にピッタリの宝石の名だ。緋嶺はその名前を呼んでみたいと思って、一緒に起き上がって鷹使を見る。しかし彼は晴れない顔で布団から出た。
「その名前はもう捨てた。……朝食を食べたら出かける、早くしろ」
先程とはうってかわり、鷹使は冷ややかな声で言い寝室を出て行く。あまりの態度の変わりように、緋嶺は何かまずいことをしたかな、と後を追いかけた。
「なあ、俺何かしたか?」
キッチンで冷蔵庫を開けていた鷹使は、振り向いて緋嶺を睨む。
「……二度とその名前で俺を呼ぶな」
「……」
そのあまりの冷たい眼差しに、緋嶺は思わず立ち止まった。そしてなぜか、胸がギュッと締め付けられたのだ。思わず胸をさすると、鷹使はまた冷蔵庫に視線を向け、昨日の残りのおかずと漬物を出す。
「今日でお前もあらかた回復した。豪鬼が動き出す前に叩くぞ」
そう言ってリビングへ向かった鷹使。今は話してくれなさそうなので、大人しく朝食の準備をした。
ここはどこだ? と周りを見渡すと、豊かな緑と小川が見える。綺麗な所だな、と思っていると、ある木の下に誰かがいることに気付いた。
緋嶺はそっと彼らに近付く。よく見るとそれは男女で、女の方はとても美しいひとだった。
豊かな金髪を腰まで伸ばし、白く柔らかそうな肌はグリーンのワンピースに包まれている。金髪と同じく艶やかなまつ毛の下には、琥珀の瞳があり、その目は胸元に抱いた何かを愛おしそうに眺めていた。
対して男は筋肉質で背が高く、小麦色の肌で長めの漆黒の髪をしている。鋭い瞳は赤色で、女の抱いたものをこちらもまた愛おしそうに見ていた。
「あ、あくびしてる……可愛い」
女は胸に抱いたものを見て笑った。つられて男も笑う。
「こうしてるとサラそっくりだよな」
男は低く甘い声で言う。サラという名前と、その声に聞き覚えがあった。この男は──緋月だ。あれが両親か、と緋嶺はどこか他人事のように思う。
「そう? 鼻と口は緋月そっくりよ?」
サラは見蕩れるほど綺麗な笑顔を見せる。二人は今とても幸せで、愛し合っているのが分かる表情だった。
それを見て緋嶺はなぜかホッとした。記憶が無いとはいえ、両親が幸せそうにしている所を見られたからだ。どうしてそれができたのかは分からないけれど。
すると緋嶺の背後でガサッと音がした。振り返ると鷹使が降り立って羽を消したところだった。鷹使は緋嶺を認めると、眉間に皺を寄せる。
「お前、誰だ?」
「え……?」
「あ、ヒスイっ」
すると緋月が駆け寄って来た。緋月には緋嶺が見えないのか、何の反応もなく緋嶺の横を通り過ぎて行く。
それが、自分が無視されたようで胸が痛くなった。それが鷹使にも見えたらしい、自分を指さして何かを話している。緋月はこちらを見て目を凝らしているけれど、やはり見えないのか肩を竦めた。
「もう一度聞く。お前は誰だ?」
緋嶺は口を開いて、自分の名前を伝えた。鷹使がそれを緋月に伝えると、緋月は驚き、そしてその後に喜び、そして泣いた。
「緋嶺、大きな姿でそこにいるってことは、殺されずに生きているんだな……良かった……っ」
そして緋月はおーい聞いてくれ! とサラの元へ走っていく。サラも話を聞き、緋月が指した方を見たが、やはり見えなかったようだ。けれど緋月と幼い緋嶺の三人で抱き合って喜ぶ姿を見て、緋嶺も目頭が熱くなる。
自分はちゃんと愛されていた。それが嬉しかったのだ。
しかしどうして緋嶺はここにいるのだろう? そう思って鷹使を見ると、彼は緋嶺の額に人差し指を置いた。
「これは俺の夢だ。……もう帰れ」
優しい声でそう言われると目眩がする。そして気付いたら布団に寝ていた。
心臓が痛いほど早く動いている。両目尻から熱い液体が零れて、緋嶺は涙を拭おうと腕を動かした。しかし、その腕を止められてビックリする。
「なぜ泣いている?」
鷹使がまたくっついて寝ていたのだ。そういえば、まだ完全に回復していない、とまた同衾させられたのだったと思い出し、そっぽを向いた。
夢だったのだ。大きくなった緋嶺がいると、喜んでいた両親は。それにしても不思議な夢だった、そう思っていると、鷹使は驚いたような声で言うのだ。
「お前、俺の夢を覗いたのか?」
緋嶺は無言で涙を拭う。それを肯定と取った鷹使は、とても優しい声で言った。
どうやら【契】をすると、相手の夢に入り込むことがあるようだな、と鷹使は緋嶺の頭を撫でる。
「この時はもう逃亡生活だった」
あらゆる世界を文字通り飛び回り、それでも二人は幸せそうだった、と鷹使は懐かしそうに呟いた。
「……あんた、本名はヒスイって言うんだな」
美しい鷹使にピッタリの宝石の名だ。緋嶺はその名前を呼んでみたいと思って、一緒に起き上がって鷹使を見る。しかし彼は晴れない顔で布団から出た。
「その名前はもう捨てた。……朝食を食べたら出かける、早くしろ」
先程とはうってかわり、鷹使は冷ややかな声で言い寝室を出て行く。あまりの態度の変わりように、緋嶺は何かまずいことをしたかな、と後を追いかけた。
「なあ、俺何かしたか?」
キッチンで冷蔵庫を開けていた鷹使は、振り向いて緋嶺を睨む。
「……二度とその名前で俺を呼ぶな」
「……」
そのあまりの冷たい眼差しに、緋嶺は思わず立ち止まった。そしてなぜか、胸がギュッと締め付けられたのだ。思わず胸をさすると、鷹使はまた冷蔵庫に視線を向け、昨日の残りのおかずと漬物を出す。
「今日でお前もあらかた回復した。豪鬼が動き出す前に叩くぞ」
そう言ってリビングへ向かった鷹使。今は話してくれなさそうなので、大人しく朝食の準備をした。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
望まれなかった代役婚ですが、投資で村を救っていたら旦那様に溺愛されました。
ivy
BL
⭐︎毎朝更新⭐︎
兄の身代わりで望まれぬ結婚を押しつけられたライネル。
冷たく「帰れ」と言われても、帰る家なんてない!
仕方なく寂れた村をもらい受け、前世の記憶を活かして“投資”で村おこしに挑戦することに。
宝石をぽりぽり食べるマスコット少年や、クセの強い職人たちに囲まれて、にぎやかな日々が始まる。
一方、彼を追い出したはずの旦那様は、いつの間にかライネルのがんばりに心を奪われていき──?
「村おこしと恋愛、どっちも想定外!?」
コミカルだけど甘い、投資×BLラブコメディ。
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる