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契の指輪
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緋嶺がインターホンを押すと、出てきたのはセナだった。彼は緋嶺を見た途端気まずそうな顔をし、どうしたの? と聞いてくる。
「どうしたじゃないよ。言うだけ言って放っておくとか、酷いじゃないか」
「……ごめんね」
セナは紅茶色の瞳を伏せ、頭を下げた。眠る前と変わらず元気がないセナをこれ以上責める事はできず、ため息をついて許すことにする。
「しかし俺が好きだなんて、唐突過ぎるだろ。会って少ししか話してないのに」
「……迷惑だったね、ごめん」
緋嶺は思った事を言ったつもりだったけれど、セナは責められているように感じたらしい。また謝る彼に両手を振った。
「違う違う、迷惑ではないよ。ただ、俺には無い感覚だったから、単純に不思議に思っただけ」
「……そうなの?」
緋嶺を見上げるセナの表情はまだ不安げだ。緋嶺は安心させるために笑顔で頷いた。
「……実は一目惚れだったんだ。男に言われても嬉しくないよね」
なおも自分のことを卑下するような言い方をするセナ。何とか近付こうと、偶然持っていた鬼まんじゅうをあげたのはいいけれど、それから緋嶺の家が、よく探さないと見えないことに気付いたという。意識しないとスルーしてしまうので、どうしてだろうと思った、と彼は言う。
「ああ……それは何か悪かったな。うち、特殊な仕事してて、隠れている方が都合が良いんだ」
「……それは家主さんの仕事?」
そう、と緋嶺は頷く。そして喋ってから、こんな事話してしまって良かったのかな、と焦った。
「でも、これは内緒にしてて欲しい」
これ以上自分から喋る訳にはいかない、と話を終わらせると、本来の目的を思い出す。
「で? 話が逸れたけど、告白は素直に嬉しいよ、ありがとう」
緋嶺は笑ってそう言うと、セナは頬を赤らめて俯いた。できれば付き合って欲しいんだけど、と言われ、そうだよな、と苦笑する。
「ごめんな、付き合うことはできない」
鷹使がいるから、とは言わなかった。他にも理由はあるけれど、話せば長くなることだらけだからだ。
「ううん、こちらこそわざわざありがとう」
じゃあ、と言ってドアを閉めたセナに、軽く手を挙げて回れ右をする。そして来た道を戻って途中で違和感に気付いた。
(家が見つけにくくしてあることとか……普通に受け入れたな)
緋嶺はそれが何を意味するのか分かってサッと血の気が引く。
セナも人ならざる者なのだろうか?
「しまった……俺、ベラベラと……」
急いで鷹使に伝えないと、と緋嶺は走り出す。家に着くなり鷹使を探すと、彼は庭で洗車していた。
「……え?」
緋嶺はドキリとする。なぜなら鷹使が洗っている車は、古いオンボロの車だったからだ。豪鬼に破壊されて乗り捨てたはずなのに、と思っていると、鷹使が振り返る。
「戻ったか。告白はきちんと断ったんだろうな?」
いつものように冷ややかな目でこちらを見る鷹使は、緋嶺の記憶と変わらない。
ここでようやく、緋嶺が抱いた違和感の正体が分かった。鷹使が緋嶺に対して、優しすぎるのだ。家の結界から出るなと言ったり、誰とも話すなと言ったりしていたのに、あっさりセナの所へ行くことを了承していた。
「……家の敷地内から出るなって言ってたのに、いつの間にそんなに寛大になったんだ?」
緋嶺は警戒すべきなのは誰か、見極めようとする。結界の事を話さずに聞くと、鷹使は笑う。そして鷹使がしない、片眉を上げて笑う表情を見せたのだ。
「何だ、お前の中の俺はそんなに束縛が激しかったのか?」
ニヤリとした汚い笑み。それは人を弄び、苦しむのを笑う、そんな顔だ。緋嶺は鷹使を睨む。
「……告白はもちろん断った。……お前は誰だ?」
誰だって、天野鷹使だ、と彼は言い、近付いてくる。
「忘れたのか? 【契】までした仲なのに」
鷹使は緋嶺の顎を掬った。そして唇を重ねる。
すると全身にぞわりと鳥肌が立ち、かくんと膝の力が抜けた。何が起きた、と鷹使を見るけれど、彼は緋嶺を抱きとめると、車の中に緋嶺を押し込む。
後部座席に押し込まれた緋嶺は、上にのしかかってこようとする鷹使を全力で拒否した。手で押し返し、足で蹴り、と抵抗するけれど、鷹使は一向に止める気配がなく、それどころか緋嶺のジーパンと下着を脱がしにかかる。
「てめぇ……! やめろ!」
しかし先程の口付けで力を抜かれたらしく、思うように力が入らない。服を脱がされた足を抱え上げられ、後ろに熱い何かが当たった。
ひゅっと息を飲んだ瞬間、それが粘膜を押し分けて入ってくる。息苦しさに呻くと、鷹使は歪んだ笑顔を見せた。
「……何だ、【契】での一回かと思ったが、それなりに楽しんでたんだな」
見た目は鷹使なのに、他人事のように言う彼。どうして分かる、と思うのと同時にやはり彼は鷹使ではないのだと確信する。しかしどういう訳か繋がった途端、意識が飛びそうなほどの快感に襲われた。
「……ッ、──ッ!!」
ガクガクと痙攣し、緋嶺は鷹使ではない「彼」から逃げようと、手を伸ばす。しかしそれは無駄な抵抗に終わり、また快感の波が来てシートを掴んだ。
「彼」は緋嶺の後ろに肉棒を刺したまま、動いてはいない。それなのに後ろの奥が刺激されているようで、声も上げられずに緋嶺は歯を食いしばる。
そしてまた連続で絶頂すると、「彼」は刺激するのを止めたらしい。はぁはぁと荒い呼吸をしながら「彼」を睨むと、鷹使のよく見せる笑顔を見せたのだ。
「気持ちいいか? 緋嶺」
「……っ、ん……っ」
鷹使は緋嶺の唇を食む。しかしあの蜜のような、とろりとした甘さが無いことから、彼は本当に鷹使ではないのだと分かった。
「嫌だ……やめろ……」
荒い呼吸を繰り返しながら、緋嶺は首を振って鷹使から逃れる。しかし抵抗しようとすると、後ろへの刺激が始まるのだ。
「あっ、嫌だ……っ」
「僕の能力は、夢の中で相手にこれ以上ない快楽を与える事だ。素直になれよ、緋嶺」
そして僕に服従しろ、そう言った鷹使の姿が揺らいだ。そして見えたのは、赤い茶髪に紅茶色の瞳……先程告白を断った、セナだった。
「どうしたじゃないよ。言うだけ言って放っておくとか、酷いじゃないか」
「……ごめんね」
セナは紅茶色の瞳を伏せ、頭を下げた。眠る前と変わらず元気がないセナをこれ以上責める事はできず、ため息をついて許すことにする。
「しかし俺が好きだなんて、唐突過ぎるだろ。会って少ししか話してないのに」
「……迷惑だったね、ごめん」
緋嶺は思った事を言ったつもりだったけれど、セナは責められているように感じたらしい。また謝る彼に両手を振った。
「違う違う、迷惑ではないよ。ただ、俺には無い感覚だったから、単純に不思議に思っただけ」
「……そうなの?」
緋嶺を見上げるセナの表情はまだ不安げだ。緋嶺は安心させるために笑顔で頷いた。
「……実は一目惚れだったんだ。男に言われても嬉しくないよね」
なおも自分のことを卑下するような言い方をするセナ。何とか近付こうと、偶然持っていた鬼まんじゅうをあげたのはいいけれど、それから緋嶺の家が、よく探さないと見えないことに気付いたという。意識しないとスルーしてしまうので、どうしてだろうと思った、と彼は言う。
「ああ……それは何か悪かったな。うち、特殊な仕事してて、隠れている方が都合が良いんだ」
「……それは家主さんの仕事?」
そう、と緋嶺は頷く。そして喋ってから、こんな事話してしまって良かったのかな、と焦った。
「でも、これは内緒にしてて欲しい」
これ以上自分から喋る訳にはいかない、と話を終わらせると、本来の目的を思い出す。
「で? 話が逸れたけど、告白は素直に嬉しいよ、ありがとう」
緋嶺は笑ってそう言うと、セナは頬を赤らめて俯いた。できれば付き合って欲しいんだけど、と言われ、そうだよな、と苦笑する。
「ごめんな、付き合うことはできない」
鷹使がいるから、とは言わなかった。他にも理由はあるけれど、話せば長くなることだらけだからだ。
「ううん、こちらこそわざわざありがとう」
じゃあ、と言ってドアを閉めたセナに、軽く手を挙げて回れ右をする。そして来た道を戻って途中で違和感に気付いた。
(家が見つけにくくしてあることとか……普通に受け入れたな)
緋嶺はそれが何を意味するのか分かってサッと血の気が引く。
セナも人ならざる者なのだろうか?
「しまった……俺、ベラベラと……」
急いで鷹使に伝えないと、と緋嶺は走り出す。家に着くなり鷹使を探すと、彼は庭で洗車していた。
「……え?」
緋嶺はドキリとする。なぜなら鷹使が洗っている車は、古いオンボロの車だったからだ。豪鬼に破壊されて乗り捨てたはずなのに、と思っていると、鷹使が振り返る。
「戻ったか。告白はきちんと断ったんだろうな?」
いつものように冷ややかな目でこちらを見る鷹使は、緋嶺の記憶と変わらない。
ここでようやく、緋嶺が抱いた違和感の正体が分かった。鷹使が緋嶺に対して、優しすぎるのだ。家の結界から出るなと言ったり、誰とも話すなと言ったりしていたのに、あっさりセナの所へ行くことを了承していた。
「……家の敷地内から出るなって言ってたのに、いつの間にそんなに寛大になったんだ?」
緋嶺は警戒すべきなのは誰か、見極めようとする。結界の事を話さずに聞くと、鷹使は笑う。そして鷹使がしない、片眉を上げて笑う表情を見せたのだ。
「何だ、お前の中の俺はそんなに束縛が激しかったのか?」
ニヤリとした汚い笑み。それは人を弄び、苦しむのを笑う、そんな顔だ。緋嶺は鷹使を睨む。
「……告白はもちろん断った。……お前は誰だ?」
誰だって、天野鷹使だ、と彼は言い、近付いてくる。
「忘れたのか? 【契】までした仲なのに」
鷹使は緋嶺の顎を掬った。そして唇を重ねる。
すると全身にぞわりと鳥肌が立ち、かくんと膝の力が抜けた。何が起きた、と鷹使を見るけれど、彼は緋嶺を抱きとめると、車の中に緋嶺を押し込む。
後部座席に押し込まれた緋嶺は、上にのしかかってこようとする鷹使を全力で拒否した。手で押し返し、足で蹴り、と抵抗するけれど、鷹使は一向に止める気配がなく、それどころか緋嶺のジーパンと下着を脱がしにかかる。
「てめぇ……! やめろ!」
しかし先程の口付けで力を抜かれたらしく、思うように力が入らない。服を脱がされた足を抱え上げられ、後ろに熱い何かが当たった。
ひゅっと息を飲んだ瞬間、それが粘膜を押し分けて入ってくる。息苦しさに呻くと、鷹使は歪んだ笑顔を見せた。
「……何だ、【契】での一回かと思ったが、それなりに楽しんでたんだな」
見た目は鷹使なのに、他人事のように言う彼。どうして分かる、と思うのと同時にやはり彼は鷹使ではないのだと確信する。しかしどういう訳か繋がった途端、意識が飛びそうなほどの快感に襲われた。
「……ッ、──ッ!!」
ガクガクと痙攣し、緋嶺は鷹使ではない「彼」から逃げようと、手を伸ばす。しかしそれは無駄な抵抗に終わり、また快感の波が来てシートを掴んだ。
「彼」は緋嶺の後ろに肉棒を刺したまま、動いてはいない。それなのに後ろの奥が刺激されているようで、声も上げられずに緋嶺は歯を食いしばる。
そしてまた連続で絶頂すると、「彼」は刺激するのを止めたらしい。はぁはぁと荒い呼吸をしながら「彼」を睨むと、鷹使のよく見せる笑顔を見せたのだ。
「気持ちいいか? 緋嶺」
「……っ、ん……っ」
鷹使は緋嶺の唇を食む。しかしあの蜜のような、とろりとした甘さが無いことから、彼は本当に鷹使ではないのだと分かった。
「嫌だ……やめろ……」
荒い呼吸を繰り返しながら、緋嶺は首を振って鷹使から逃れる。しかし抵抗しようとすると、後ろへの刺激が始まるのだ。
「あっ、嫌だ……っ」
「僕の能力は、夢の中で相手にこれ以上ない快楽を与える事だ。素直になれよ、緋嶺」
そして僕に服従しろ、そう言った鷹使の姿が揺らいだ。そして見えたのは、赤い茶髪に紅茶色の瞳……先程告白を断った、セナだった。
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