【完結】高校生活、思ってたのと違うんですけど。

大竹あやめ

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次の日、いつものように純一は、司が来るのを待っていた。

昨日の今日で、ちょっと緊張する気もするけど、会えるのが楽しみだったりする。

すると、純一のスマホが鳴る。司からの着信だ、何かあったのだろうか?

「もしもし?」

『純一?』

聞こえた司の声は暗かった。どうしたのだろう、と心配になる。

「声が暗いけど、どうした?」

『すまない……撒くのに失敗して、純一を連れてこいとうるさいんだ』

司の言葉に主語は無かったけど、誰のことを言っているのか想像はついた。累のことだろう。

純一はすぐに家を出るよ、と出掛ける準備をして駅に向かう。

そう言えば、この間撒いてきたと言っていたな、と純一は思い出す。あれは累の事だったのか。

司の家の近くの駅に着くと、司と累が迎えに来ていた。司の顔が既に疲れている。

「やぁ純一くん、今日も暑いね」

そう言いながら、累は爽やかな笑顔を見せる。

「司が毎日こっそりどこへ出掛けているのかと思ったら、純一くんの所だったんだね」

累が助手席のドアを開ける。しかし、司に強引に後部座席に乗せられてしまった。

「こんなに仲良くしてる子がいるなんて、司は一言も話さないから知らなかったよ」

累は運転席に乗ると、車を走らせる。

「そうそう、昨日は聞きそびれたけど、純一くん恋人はいるの?」

そう言えば、そんな事を聞かれたな、と純一は答えようとする。しかし、その前に司が答えた。

「純一は恋人にベタ惚れだから、あんたの入る隙は無い」

「ちょ……っ」

それを聞いた累は、えー、と眉を下げる。

「純一くんがベタ惚れなの? それは妬けちゃうなぁ、どんな子なんだろ? 司知ってる?」

純一は心の中で、あなたの息子さんです、と思うけれど、流石に言葉にはできない。

「さぁ、俺は会った事がない」

しれっと嘘をつく司に、純一は噴き出しそうになった。

「ね、その子に飽きたら僕と付き合ってよ」

「あはは、考えときます……」

そんな事を話しているうちに、司の家に着いた。

「俺の部屋に行く、邪魔するなよ」

そう言って、司が純一を連れていこうとすると、累はえー? と純一の腕を掴む。

「一緒にお話ししようよ~」

「却下だ。望み通り、家に連れてきただろう」

司はこっちだ、と歩き出す。腕を引かれ純一も歩き出すと、累もついてくる。

それを見た司がため息をついた。いかにもうんざりした顔だ。

「ついてくるな」

しかし、司が睨んでも、累はヘラヘラと笑っている。

「もしかして司、純一くんの事好きなの?」

「は?」

思わず純一が声を上げてしまった。累は考える素振りをみせながら、続ける。

「んー、何か違う? ……あ! 純一くんの恋人って司? あれ? それって両想いって事?」

純一は慌てて司を見る。司は「どうしてそう思う」と冷静だ。

「だぁって、そんな感じしたんだもん。え? 違った?」

「あの、これはですね……」

純一が取り繕おうと話し出すと、累は「累さんって呼んで」と口を尖らせる。

「なーんだ、それなら全然ウェルカムだよ~! だって、純一くんがうちの子になってくれるんでしょ?」

「……へ?」

この親子は、突拍子も無いことを言うのはそっくりだ。純一は口を開けたまま、ポカンと累の言葉を聞く。

「純一くんが僕のそばにいてくれるなら万々歳だし、司もハッピーだし、みんなハッピーだよねっ」

「いや、俺もそこまでは……ふぐっ」

純一は司に口を塞がれた。

「そうだ。今から純一と大事な話をするから、邪魔するなよ」

司はそう言うと、足早に自室へと純一を引っ張っていく。累は、「純一くん、末永くよろしくね~」と手を振っていた。

司の部屋は意外にも、本はあまり置いていなかった。もっと本の山を想像していた純一は、あの本は一体どこにあるのだろう、と見回す。

「すまない純一」

司は謝る。多分、純一たちの関係性がバレた事を言っているのだろう。

「ううん、親父さん、俺の事気に入ったみたいだったけど、それ以上に司の事も大切なんだな。付き合ってるって知ったらあっさり引いたし」

「……だと良いが」

司はベッドに座った。こっちに来いと言われ、素直に隣に座る。

「……話をしても良いか?」

ん? と純一は司を見る。部屋に入る前に、大事な話をすると言っていたけど、それの事だろうか?

純一が頷くと、司はぽつりぽつりと話し出す。

「…………まず、父親の事。迷惑掛けた。本当に会うのは避けたかったんだ」

「うん、それは大丈夫だよ」

司は、本当に嫌なことは話さなかった。不可抗力だって事も分かってるから、責めるつもりはない。

「でも、累さんの事湊が知ったら、びっくりすると思うけど」

湊はブランドの事を知っていたし、興味あるかも、と言ったら、司は止めておけ、と止められた。

「累は……父親は、興味が無い人には全く喋らないから」

「そうなのか?」

司は頷く。累は芸術家にありがちな、気難しい性格のようだ。

「父親は、良くも悪くもモテるから……」

あの容姿であの人懐こさ、そして財と名声もあるから、近付いてくる人は多そう、と純一が言うと、司は頷く。

「それでいて恋愛には男女構わず奔放な人で、当時の恋人が家と俺の世話をするようになってた」

好きな物で周りを固めたい累は、人間関係でもそうだった。でも人を見る目は壊滅的で、累の恋人というポジションが欲しい人だったり、金目当てだったりで、まともに司の世話をしてくれた人はいなかったという。

元々感情を出さない司は累の恋人から嫌われていたし、赤ん坊から記憶が残っている幼少の頃まで、生きているのが不思議なくらいだったと聞いたと言う。

「みかねたスタッフが交代で世話してたらしいが……当時の恋人と激しくぶつかったりしてたらしい。そもそも、母親との離婚も累の奔放さだったし」

司の家事スキルは、その頃スタッフに教えられたものだそうだ。

そしてある程度、司が自分の事を自分で出来るようになった時、少し家事をする恋人がいた。

しかし料理が上手くなく、それなら自分で作った方がマシだと、オムライスを作った。それを見た累が食べて、とても喜んだという。

「それが子供ながらに、とても嬉しかったんだ」

「そりゃそうだよな、親だし」

累があんなに喜んでくれるなら、と司は料理を作る頻度を上げた。しかしそれが予想通り、恋人の恨みを買う事になってしまう。

嫌味な奴ね、あんたがいるから累は私に向いてくれないのよ、と暗い目をしながら近付いてきた女は、司を押し倒すと首を絞めた。

「……っ」

純一は司の重い過去に、心臓が握りつぶされたような感覚を覚える。

幸い、累にその現場を見られ、すぐに解放された。累は今までにないくらい怒り、すぐに恋人と絶縁宣言し、家から追い出す。

司はそれを泣きもせず、事の流れを見ていた。累が自分の元へ戻ってきた時、司は疑問に思っていたことを父親にぶつける。

『俺は、いない方が良かったか?』

その時の、累の顔が忘れられないと、司は言う。

「傷付けてしまった、と思った」

司はいつも通りのトーンで話しているけど、とても後悔したんだろうな、と目頭が熱くなった。

その言葉を聞いた累は、号泣したそうだ。声を上げて泣き、司をギュッと抱きしめて放さなかったらしい。

それから累は、身の回りの世話などは恋人ではなく、秘書やハウスキーパーを雇うようになった。

そして、今まで放任していた司に、本を買い与え、習い事をさせた。まるで今までの罪を償うかのように。

「……俺の料理と累は深く関係しているから、なかなか説明しづらい。聞いてくれてありがとう」

司は純一の頭を撫でた。純一が泣きそうな顔をしていたからかもしれない。

司が父親を名前で呼ぶのも、彼なりに複雑な気持ちを抱えての事なのだろう、そう思うと司を抱きしめてあげたくなった。

「司……でも何でこの話をしたんだ?」

「前に、料理が趣味になったきっかけを聞いただろう。話が長くなるから言わなかった」

純一はなるほど、と納得した。確かにあの時、司は誤魔化した感じはしたけど、その時はそんなに興味が無かったのでスルーしていた。

「そうか……」

純一は自ら、司の身体に身を寄せた。恥ずかしいから、肩に頭を乗せるくらいが限界だ。

「純一」

司が純一の頭を撫でる。

「キスしてもいいか?」

純一はドキリとする。少し迷った挙句、小さく頷いた。
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