【完結】高校生活、思ってたのと違うんですけど。

大竹あやめ

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車に揺られて着いたのは、とても大きな家だった。

よくテレビで見る芸能人の家みたいな、デザインも凝っている家だ。

「さ、入ってー」

「お邪魔しまーす……」

純一は、これって職場というより自宅だよな、と恐る恐る入る。

玄関ホールは吹き抜けになっていて、思わず天井を見上げた。

「って、何やってるんですか!?」

累は玄関に着くなり、純一の身体をペタペタと触り始めた。

「身長167センチ、頭囲は……」

もしかして今ので採寸したのだろうか?

累はどこからか画用紙とペンを持ってきて、勢いよく描き出す。

「んー、良いねぇ! ペンが止まらないよ」

楽しそうに純一を眺めながら、累は画用紙を次から次へと描いては投げていく。

「あの、何を……」

何をしているのか、と問いかけて、床に落ちた画用紙を見ると、どうやらデザイン画らしい、次々と違うデザインが生まれていく。

「ああ、動かないで……いやしかし、純一くんは可愛いねぇ。私のタイプだ、恋人はいるの?」

「え、その……」

累の勢いに圧倒されていると、玄関のドアが開いた。

「司!?」

中へ入ってきたのは司だった。司も、純一がいることに驚いたらしい、累を睨む。

「おい、何をやっている?」

「ああ司、おかえり。何、司のお友達だったの? こんな可愛い子とお友達なら、早く紹介してよ~」

司は純一を庇うように立つと、累は描く手を止めた。

「僕が偶然会ってナンパしてきたんだ。この子を見た時からアイディアが溢れてしょうがなくって」

「あの、司、この人と知り合い?」

純一は完全に置いてきぼりにされて、戸惑いながら司に聞く。

「あんた、何も説明せずに連れてきたのか?」

「だーって、説明してたらアイディアが飛んじゃうと思ったんだもん!」

冷ややかな司の口調とは対照的に、累は子供のように口を尖らせた。見た目とのギャップに、やっぱり少し可愛く見えてしまう。

あ、と累は思い出したように、その辺の紙の山から何かを探し出す。よく見ると、画用紙がそこかしこに散乱していた。

「純一、これは俺の父親だ」

司が指を差す。名刺を見つけたらしい累は、はい、と純一に渡した。

「よろしくね」

純一は渡された名刺を見た。

「セダール、代表取締役社長兼デザイナー、早稲田累……って、ええ!?」

セダールって、結構な値段する、司がいつも着ている服のブランドだよな、と司と累を交互に見る。

(この親子、全然似てない!)

無口無表情の司と、明るく子供っぽい累。強引な所は似ているのか、と思うけど、累の奔放さを見たら司は可愛いものだと思ってしまう。

「純一、帰ろう。送っていく」

司が純一の腕を掴んで行こうとする。しかし累が反対の腕を掴んだ。

「ちょっと待ってよ、もう少し描かせて? 僕が家まで送ってあげるから」

「却下だ、手を離せ」

司が累の手を離す。累はその手を見つめると、ぱあっと笑顔になった。

「え? 今のどういう事? 嫉妬? 独占欲?」

(ああ、これは家に居たくないわな……)

子供をからかう親ほど、ウザいと思うものは無い。純一は司に同情した。

「また今ので新しいアイディア浮かんだ! 純一、セダールのモデルになるかい?」

再びデザインを描き始めた累は、とても楽しそうにしている。

「ダメだ。純一には勧誘もするな」

「何で司が言うのー?」

「もういい、行くぞ」

今度こそ、司は純一の腕を引いて外へ出た。強引に話を終わらせた感があるから、累が納得しているのかが引っかかる。

「何だか……すごいお父さんだね」

歩きながら純一は司を見ると、彼はため息をついた。

「悪い。ああなるから紹介はしたくなかった」

「それは……うん、わかる気がする」

毎日があれなら、とてもじゃないけど相手をしていられない。

「もしかして司が感情を表に出さないのは、お父さんの影響だったりする?」

「いや、これは元々だ」

元々なのか、と純一は笑う。そこには深刻な影響は無かったらしい。

「お父さんはモデルを探してるのか? 俺より湊とかうってつけだと思うけど」

「……」

(あ……出たよスルー)

司お得意の無言スルーだ。でも、純一は一歩踏み込んでみる。

「司、教えて?」

少し上目遣いを意識したら、司は小さく息を吐いた。少しわざとらしかったかな、と心配したけれど、司は話してくれる。

「多分湊はタイプじゃない」

「え、どうして? いかにもモデルっぽいじゃん」

どうして純一が良いのだろう? と不思議に思っていると、司は分からないか? と言った。

「……俺と好みが似ているから」

そう言われて、純一は言葉の意味を理解した後、顔が熱くなる。

(こういう事を平気でストレートに言うから)

純一は、気になってしょうがないんだ、と思う。

はた、と足を止めた。

「……っ」

(ちょっと待て、俺今何考えた?)

やばい、耳まで熱い、と純一は顔を両手で隠す。

「純一?」

司が振り返る。今は見ないで欲しい、と指の間から司を見ると、彼はじっとこちらを見ていた。

「待って、今見ないで」

すると司は純一に近付いて、おでこにキスをした。

「お前は可愛いな」

「……っ、だから、今はそっとしてくれって言ってるだろ!」

うー、と純一が唸っていると、それは無理だな、と司は抱き締めてくる。

「落ち着くまでこうしているか?」

「落ち着かないよ、こんなの。離せよ、歩くから」

純一は振り絞った声で呟くと、司はそうか、と離してくれる。

歩き出した司の後ろを、純一は無言でついて行く。

今、思った事を伝えるべきだろうか、純一は迷った。純一の中で、司の存在が大きくなってきているのは確かだ。けれど、やはり恥ずかしくて上手く伝えられるか自信が無い。

いや、でも……。

ちゃんと向き合うって決めたのだ。

純一は深呼吸してから、司を呼び止める。

「司、俺……お前の事、気になってるみたいだ」

何を今更、とか言われるだろうか。純一の心臓は早くなって、爆発するんじゃないかと思う。

「気になってるってのは、その、前と変わらずって事じゃなくて……。ストレートなお前の言動、す、好きだなって思った」

これできちんと伝わるだろうか? 以前より司の事が気になってるって、分かってもらえるだろうか?

「…………ありがとう」

「……っ」

純一は息を飲んだ。司が微笑んだからだ。

静かな微笑みだったけど、熱く純一を見る視線は司の心の中を表しているようだった。

「お、お前、いつもそれくらい笑っていれば良いのに」

顔がまた熱い。純一は照れ隠しにそんな事を言う。

「これが全開だから、いつもは無理だな」

「それで全開!?」

純一は笑った。それで一気に緊張が解け、再び歩き出す。

「じゃあ、お試しは解除で、ちゃんと付き合うって事で良いのか?」

「う、うん。そうなるのかな?」

「分かった」

二人は無言で、駅まで歩いた。
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