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「そういえば、話したい事があるって言ってたな」

二人でシャワーを浴びた後、春輝のベッドに二人で入り、抱き合っていた時だった。貴之はそう言って、春輝の頬を撫でる。

「貴之さぁ、俺のほっぺ好きなのか?」

よく触るよな、と言うと貴之は微笑む。その顔が可愛いと思うから、春輝も恋の重症だ。

「ほっぺというか……春輝は肌が綺麗だから、意識しだしてからずっと、触りたいと思っていた」

「う……」

聞くんじゃなかった、と春輝は熱くなる顔を貴之の胸にうずめて隠すと、頭をポンポンされる。

「意識って……お祭りの演奏会か」

「ああ」

「ってか、間宮の件から有沢が絡んでたの、貴之は知ってたんだろ?」

何で教えてくれなかったんだ、と春輝は言うと、この前話した通りだ、と返ってきた。

「有沢派で本人と繋がっているのが誰か、特定できていなかった」

「だからって、せめて有沢と貴之に何があってどういう状況なのか、教えて欲しかったよ」

春輝は顔を上げて貴之を見ると、貴之は視線を落として表情を曇らせる。

「……それは……」

春輝は貴之の頭を撫でた。話しにくいんだろうな、と察して、自分から暴露してみる。

「オレ、氷上先輩に会ってきた」

「……っ」

貴之は驚いたような顔をし、そしてさらに暗い顔をする。

「有沢に脅されてたんだろ?」

「……そうだ」

寮長に指名されたのも、氷上が襲われたのも、嫌がらせの一環だったと言った。

自分の不注意で有沢の叔父さんを昏睡状態にしてしまったと、貴之は言う。春輝は氷上先輩の話と同じだ、と思って先を促した。

聞けば貴之が寮長になる、ずっと前から有沢には目を付けられていて、嫌がらせは始まっていたらしい。何をしても動じないからムカつく、と有沢は人気の陰に隠れて陰湿なことをしていた。

「俺が動じないと分かると、今度は周りの親しい人たちを巻き込んでいくんだ。ターゲットになった人は、必ず学校を辞めていった」

必ず学校を辞めるから、有沢が絡んでいる事もみんなにはバレず、相変わらず人気者の有沢と、彼にまとわりつく取り巻きに寒気がしたと言う。

何故バレないのかはすぐに分かった。彼は誰にどの嘘をついたか全て覚えていて、自分が魅力的で、多少人を駒のように扱っていても、喜んで従うように仕込む術を知っていた。時には脅し、時には懐柔し、サイコパスとナルシストとカリスマ性を持つと、こんな悪魔になるのか、と貴之は思ったらしい。

「いい方向へその能力を使えば良かったんだが……アイツは人を痛めつけるのが好きなようだったな」

「……一つ疑問なんだけど。宮下先輩はターゲットにならなかったのか?」

彼は表立って貴之の味方をしていた。一番狙われそうなのに、と春輝は言うと、貴之は苦笑する。

「あいつは肉体も精神も強い。正面切ってかかって来いと言っては、何度も返り討ちにしてる」

そうだったんだ、と春輝は納得する。そして、そんな宮下の姿に貴之は励まされていたと。

しかし、そんな時氷上の件が起きる。見つけた彼は見た目にも酷い扱いをされたのはすぐに分かった。すぐに救急車と先生を呼び、恐れていた事が起こってしまったと後悔したという。

ゆき……氷上先輩の好意には告白される前から何となく気付いていたんだ。けれど、何度告白をされても、世話はしても、気持ちには応えてやれなくて……」

貴之の声が震えた。悔しかったのだろうと春輝は思う。自分に好意を寄せたばっかりに、酷い目に遭わされて、守れなかった事に。

そして春輝は、互いに名前で呼ぶくらい、仲が良かったんだなと思うと、ギュッと胸が締め付けられた。

それで落ち込んでいたところに、有沢の叔父さんの件が起きる。もうその頃はあまり反発する気力が無くて、有沢のされるがままだったらしい。

けれど、学校を辞めるのだけは思い留まった。宮下の助言と励ましもあり、寮長になったのなら腐った奴らを追い出そう、と心に決めた。

「有沢が卒業すると、有沢の意志を継ぐ生徒が主体になって嫌がらせをしてきた」

けれど有沢ほど完璧に証拠隠滅はできておらず、すぐに尻尾は見えたという。でも、誰が本人と繋がっているのか分からないので、やるなら短スパンで一気に、だと思ったらしい。

「結局、意志を継いでいたのは二年の、春輝を襲った奴だけだったな。あとはみんな脅されていたらしい」

春輝はそういえば、顧問も脅されていたな、と思い返す。有沢に見つかったら最後、逃れられないのだろうか。

「……正直、春輝がターゲットにされた時は、また行と同じようになるんじゃないかと、肝を冷やした」

けれど春輝は有沢本人ほど鬼畜ではない人が主体だったため、治る怪我で済んだのだ。それに、学校も辞めていない。

「貴之……オレからも話していい?」

「ん?」

優しい目で見つめてくる貴之。春輝の役目は、本当の意味で有沢とのしがらみを解くことだ。

「有沢のおじさん、意識が戻って退院してるよ」

「……え……?」

春輝はおじさんのいた病院が、氷上の実家の病院だったと説明した。

「そこに氷上先輩も入院してたんだって。有沢先輩と貴之を見かけて思わず隠れたって」

その後絵を描いていた氷上とおじさんが仲良くなって、有沢のおじさんだって分かったらしいよ、と春輝は言うと、貴之はそうか、とだけ呟く。

春輝が不思議に思って彼を見ようとすると、それは叶わずギュッと抱きしめられた。

「本当に良かった……じゃあ、俺はずっと有沢の嘘に気付けなかったんだな」

「それは仕方がないよっ」

これは有沢本人と、氷上しか知らない情報だ。氷上に会っていればすぐに分かった事だけれど、お互い合わす顔がないと躊躇っていたのならどうしようもない。

「……行は…………元気だったか?」

春輝は貴之が恐る恐るこの言葉を言っていると感じた。恨まれても当然だと、貴之は思っているに違いないと思うと、切なくなる。

「その話なんだけど。オレ、氷上先輩と約束したんだ」

「約束?」

春輝は頷く。

「今、何をしてどう思っているのか、氷上先輩の口から直接貴之に話してくださいって。貴之を先輩の元へ連れて行くからって」

「……っ、それは……」

躊躇う気配がした恋人に、春輝は身体を起こしキスをした。微笑むと、彼は長いため息をつく。

「大丈夫、オレが付いてる」

すると、貴之は破顔した。本当にお前は、と言うので、何だよと口を尖らせると、彼は笑いながら言う。

「見た目によらないなって。ちょっといじめたら折れそうな、繊細な見た目してるのに」

「悪かったなぁ!」

でも、そこが好きなんだと言われたら、春輝は何も言えなくなった。顔が熱くなり、起こしていた身体を再び横にすると、あくびが出る。

「……明日、文化祭中止になっちゃったね」

「まあ、仕方がない」

あれだけの事が起こったんだから、と貴之は春輝の髪を梳いた。その心地良さに、春輝は意識が遠くなっていく。

まだ、聞きたいことたくさんあるのに。

そう思いながら、春輝は心地良い微睡まどろみに身を委ねた。
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