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17 根っこは同じなんです
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どれだけ絶望しても、どれだけ自己嫌悪に陥っても、変わらず朝というのはくる。そして真面目なニコは、学校へ行かなければ、と重い身体を起こすのだ。
「ニコ」
出がけに声を掛けられ振り向くと、そこにはリュートがいた。
「父上……」
「元気がありませんね、どうしました?」
ニコは俯く。何から話せばいいのか、と思っていると、背中をそっと押された。二人はゆっくり歩き出す。
「僕は、……何も見ていませんでした」
「……どういうことです?」
ニコはバーヤーンに聞かされたことを話した。学校では『洗礼』を止めているけれど、どちらが悪いのか見た目では判断できないということ。今までの自分の判断が間違っていたこと。慕っていてくれたと思った子が、実は自分に取り入ろうとしていたらしいこと。何を信じればいいのか分からなくなったことを、全部話す。
「……昨日【侵入者】がいましたね。それと関係はありますか?」
ニコはドキリとしながらも、こくんと頷いた。リュートのこの様子じゃ、ニコとの関係もバレているだろう。
そうですか、と呟いたリュートは拳を握った。どうしたのかとニコは思ったけれど、リュートは続ける。
「貴方は魔王候補です。ショウ様は、……いずれニコが魔王に相応しい器になった時、王位継承を辞退されるでしょう」
「え……?」
寝耳に水だった。王になることを辞退するなんて、魔界の歴史を見てもそんな事例は聞いたことがない。
確かに、ショウはいささか……いやかなり優しい性格だ。それでは王など務まらないと言われたら納得してしまう。だからと言って、ニコにその座を渡そうと思っているなんて。
「護りたいのは何か、それが分かれば大丈夫です。貴方は時期魔王なのですから」
「で、でもっ……。現代魔王様は、『洗礼』を見て見ぬふりしていらっしゃる……僕はそんな世界、耐えられませんっ」
ニコは思わずそう言ってしまった。これが外で、誰かに聞かれていたなら、即刻不敬だと袋叩きに遭うだろう。
するとリュートは静かに微笑んだ。
「ええ、魔王様もお気付きですよ。ですから学校に視察に行った」
魔王様が護りたいものが分かるでしょう、と彼は言う。
リュートの言葉をそのまま受け取るなら、魔王はニコの為に動いた、ということだろう。ではなぜ、今まで何もしなかったのか?
答えは単純だ。ショウは学校には行かなかった。だから護る必要がなかった。ニコが通い始めてやっと、重い腰を上げたのではないか、と。
「でも……『洗礼』がないと、弱い者は虐げられるしか……」
「そうですね。……今まではそうでした」
リュートは顔を上げて遠くを見つめた。ニコは屋敷の門をくぐると、閑静な住宅街と穏やかな風景が広がっている。風に揺れる草木に、魔界全土もこんな風に穏やかでいられないものかな、なんて思う。
「この魔界も、魔王様も、完璧ではありません。ニコはニコらしく、自分の護りたいものを見つけて貫けばいいのですよ」
魔王様と同じように、とリュートはニコの頭を撫でた。慰められたと感じたと同時に、この両親には敵わないな、と思う。
「答えを急ぐ必要はありません。ニコは十分、考えて、悩んでいますから」
ニコはこくんと頷くと、学校に向かって走り出した。
(護りたいもの……)
それが分かれば、何かが変わるのだろうか。
本当は、誰も殺したくない。なのに、自分で手を下してしまった身では、なんの説得力もない。
何もかもを持っているくせに、と言ったバーヤーンの言葉が蘇る。
確かに力も、権力も、安全に暮らせる環境も持っている。けれどはっきり言って、今のニコはそれを持て余していた。そういうところが、バーヤーンは許せないのだろう。
(バーヤーン……きみは僕がそばにいてくれと言ったら、いてくれるだろうか)
ニコが殺さずにいられた貴重な存在。それだけで彼をそばに置くのに十分な理由になる。けれど、彼の今までの言動を見るに、疎まれていることは確実だ。
(力を制するには……力しかないのかな)
そう思っても、ニコの力はまだコントロールしきれていない。けれどもう身近な魔族を失うのは嫌だ。
それはバーヤーンも同じだと思う。双子の弟を守るために、積極的に『洗礼』をしているのなら。
身近な魔族を護りたい。その思いは同じなのに、行動は正反対。この対立は、いつか解消する日が来るのだろうか。
「……分からないな……」
考えても答えは出ない。それならばできることをやるしかない。
そう思って、ニコは学校への道を全力で走った。
「ニコ」
出がけに声を掛けられ振り向くと、そこにはリュートがいた。
「父上……」
「元気がありませんね、どうしました?」
ニコは俯く。何から話せばいいのか、と思っていると、背中をそっと押された。二人はゆっくり歩き出す。
「僕は、……何も見ていませんでした」
「……どういうことです?」
ニコはバーヤーンに聞かされたことを話した。学校では『洗礼』を止めているけれど、どちらが悪いのか見た目では判断できないということ。今までの自分の判断が間違っていたこと。慕っていてくれたと思った子が、実は自分に取り入ろうとしていたらしいこと。何を信じればいいのか分からなくなったことを、全部話す。
「……昨日【侵入者】がいましたね。それと関係はありますか?」
ニコはドキリとしながらも、こくんと頷いた。リュートのこの様子じゃ、ニコとの関係もバレているだろう。
そうですか、と呟いたリュートは拳を握った。どうしたのかとニコは思ったけれど、リュートは続ける。
「貴方は魔王候補です。ショウ様は、……いずれニコが魔王に相応しい器になった時、王位継承を辞退されるでしょう」
「え……?」
寝耳に水だった。王になることを辞退するなんて、魔界の歴史を見てもそんな事例は聞いたことがない。
確かに、ショウはいささか……いやかなり優しい性格だ。それでは王など務まらないと言われたら納得してしまう。だからと言って、ニコにその座を渡そうと思っているなんて。
「護りたいのは何か、それが分かれば大丈夫です。貴方は時期魔王なのですから」
「で、でもっ……。現代魔王様は、『洗礼』を見て見ぬふりしていらっしゃる……僕はそんな世界、耐えられませんっ」
ニコは思わずそう言ってしまった。これが外で、誰かに聞かれていたなら、即刻不敬だと袋叩きに遭うだろう。
するとリュートは静かに微笑んだ。
「ええ、魔王様もお気付きですよ。ですから学校に視察に行った」
魔王様が護りたいものが分かるでしょう、と彼は言う。
リュートの言葉をそのまま受け取るなら、魔王はニコの為に動いた、ということだろう。ではなぜ、今まで何もしなかったのか?
答えは単純だ。ショウは学校には行かなかった。だから護る必要がなかった。ニコが通い始めてやっと、重い腰を上げたのではないか、と。
「でも……『洗礼』がないと、弱い者は虐げられるしか……」
「そうですね。……今まではそうでした」
リュートは顔を上げて遠くを見つめた。ニコは屋敷の門をくぐると、閑静な住宅街と穏やかな風景が広がっている。風に揺れる草木に、魔界全土もこんな風に穏やかでいられないものかな、なんて思う。
「この魔界も、魔王様も、完璧ではありません。ニコはニコらしく、自分の護りたいものを見つけて貫けばいいのですよ」
魔王様と同じように、とリュートはニコの頭を撫でた。慰められたと感じたと同時に、この両親には敵わないな、と思う。
「答えを急ぐ必要はありません。ニコは十分、考えて、悩んでいますから」
ニコはこくんと頷くと、学校に向かって走り出した。
(護りたいもの……)
それが分かれば、何かが変わるのだろうか。
本当は、誰も殺したくない。なのに、自分で手を下してしまった身では、なんの説得力もない。
何もかもを持っているくせに、と言ったバーヤーンの言葉が蘇る。
確かに力も、権力も、安全に暮らせる環境も持っている。けれどはっきり言って、今のニコはそれを持て余していた。そういうところが、バーヤーンは許せないのだろう。
(バーヤーン……きみは僕がそばにいてくれと言ったら、いてくれるだろうか)
ニコが殺さずにいられた貴重な存在。それだけで彼をそばに置くのに十分な理由になる。けれど、彼の今までの言動を見るに、疎まれていることは確実だ。
(力を制するには……力しかないのかな)
そう思っても、ニコの力はまだコントロールしきれていない。けれどもう身近な魔族を失うのは嫌だ。
それはバーヤーンも同じだと思う。双子の弟を守るために、積極的に『洗礼』をしているのなら。
身近な魔族を護りたい。その思いは同じなのに、行動は正反対。この対立は、いつか解消する日が来るのだろうか。
「……分からないな……」
考えても答えは出ない。それならばできることをやるしかない。
そう思って、ニコは学校への道を全力で走った。
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