悪役皇子、ざまぁされたので反省する ～ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ～

第149話

　人知れず胃を痛める彼かの人物はさておき、徒歩に於おける長距離移動の疲労等も鑑かんがみて、午後以降の一同は其々それぞれに身体を休め、英気を養う運びとなる。

　今夜は女子修道院に泊まると言って、仕事中なのに幼馴染のメイドを拉致ろうとするリィナとフィアの一悶着が起きたり、寝床へ潜り込んだ人狼娘が主あるじの妹をブチ切れさせたりという幕間も経へた翌日、地元庁舎の会議室に数人の者達が集った。


「これが蒸気機関、何と素晴らしい……」
「中々に革新的ですな、水の状態や気圧変化を活いかしているのは」

「…… でもよ、先生方。水車と違って地形に縛られないが、燃料の問題はあるぞ」
「ミニチュアでなく実用想定のサイズで組むなら、火力の大きさも考えないと」

　某研究室より貸与された模型の稼働を見守り、かつて俺の家庭教師も勤めていた学者のラズロックと、友人である錬金術師が感嘆の吐息を漏らす傍かたわら、港湾都市に住む鍛冶師の親方らが唸る。

　火の扱いに長けた二人の見立てによれば結構な熱量が必要になる他、蒸気漏れを防ぐ手立てや、反復運動するピストンロッドの強度、水平から回転へ動きを変換するクランク軸の摩耗対策など、幾つかの技術的課題もあるようだ。

「この外燃式動力とやらは何に使うんです、ご領主」
「所見しょけんを聞いた後で言いづらいが、ハザルとイルファの港を往復させる市営商船だ」

「その兼ね合いで、我々も御子息に招かれたんだな」
「廻まわる車輪で海の水を掻かいて、船体の推力を得るといった算段ですかい？」

　ひらひらと先日送った手紙を左右に振りつつ、多額の融資によって半なかば公営化されている造船所から、遠慮なく呼びつけた船大工の棟梁と設計部主席が沈黙を破り、こちらの意図を確認してくる。

　それに応えて頷うなずき、澄すまし顔で隣に陣取る専属司祭のフィアを促うながすと、彼女は筒状に丸められた大判紙の麻紐ひもを解き、緩ゆるりと席を立って長机の中央付近へ広げた。

「両舷げんに大車輪と跳ね避けを付けるとか、安直に過ぎませんか？」

「俺も思いはしたが、蒸気機関を設置する空間とメンテナンス性も判断材料にして、妥当だとうであるとの結論に至った」

　取り敢えず、初手から最終的な成果物である商船を目指すのではなく、ある程度の大きさに留とどめた動力部なり、船体なりを技術集積のために制作すること。

　様々な事柄を経験していく過程で生じるであろう、鍛冶師や船大工らの発案は拒こばまないことなど伝えて、一時的に場を締め括くくる。

「坊ちゃ… いえ、若君わかぎみ、我々のような学問の徒とは如何いかがすれば？」
「ラズロック師も存知ぞんじの通り、昨秋より王都在住なので監修をお願いしたい」

「快こころよく引き受けましょう、あなたも構わないですね」
「あぁ、最先端の動力技術に携たずさわれる機会は願ってもない」

　金属素材の錬成なら協力できると息巻き、今は妹に地政学を教えている恩師の友人が二つ返事で同意すれば、頃合いと見た父のディアスは手元のベルを鳴らして、待機室に控ひかえている行政局の役人を呼んだ。