悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~

shiba

文字の大きさ
4 / 155

第4話

しおりを挟む
 それから一月半ほど…… 丁度良い剣術の師が見つからず、魂だけの存在となっていた頃、“邯鄲かんたんの夢” で知り得た様々な剣技を試していると、機嫌きげんよさげな父が長身瘦躯そうくの男を連れてくる。

「父様、その人は?」

「あぁ、お前に付けてやると言った指南役のサイアスだ」
「初めましてジェオ殿、宜しくお願い致します」

 伸ばし放題の長髪をざっくばらんにまとめた美丈夫は王都に向かう商隊の護衛だったらしく、道すがら梟頭の巨大熊アウルベアを単独で仕留めた腕前など聞きつけ、父が大枚を積んで引き抜いたとの事だ。

 何やら、しれっと結構な金額を口にするので、思わず片頬が引きってしまう。

(…… 領民が納めた血税を無駄にしないよう、しっかりと学ぶべきか)

 そう自戒して握手を交わしたサイアス氏はやんわりと端整な顔で微笑むのだが、 一切の容赦や呵責かしゃくがないだという事はすぐに判明した。

 熟練度を確かめると言って何度か木剣で打ち合った後、満足げに見ていた父が屋敷に戻った途端、あくどい感じで口端を歪ませる。

「良いな、あまりい噂を聞かない悪徳領主の息子、しかもまだ幼いとくれば、児戯に付き合うだけの仕事かと思いきや… 少しは楽しめそうだ」

 呵々かかわらいながら、彼は大上段から切り落とした木剣の刃を返し、下段からの薙ぎ払いでこちらの得物を弾いた直後、軽く右膝を掲げると中段蹴りを放った。

 咄嗟とっさに飛び退すさろうとするも、俺の鳩尾みぞおちに硬い靴底がめり込む。

「うぐぅうッ‼」
「相手の武器だけに意識を取られるなよ、組討ちは近接戦闘の華だぞ!」

 楽しそうにうそぶきつつも体勢の崩れた隙を狙い、遠慮なく袈裟に振るわれた剣撃が迫り、掌中の木剣まで叩き飛ばした。

 徒手空拳になった事で、ひとまずは此処ここまでかと身体の力を抜くも、問答無用な相手はとどまることを知らない。

「ちょッ、おま……」
「ははっ、素手の敵に遠慮する馬鹿など戦場いくさばにはおらんよ!!」

 辛辣な言葉と共に迫る “面打ち” に対して後ろへ倒れ込み、極僅かな時間を稼ぎながら、身体に宿るマナの制御によって知覚と動体視力を高める。

 その状態から、せまる木剣の腹に右拳のフックを叩き付け、なんとか紙一重で剣筋を逸らした。

 さらに追撃を警戒して、地面をゴロゴロと派手に転がり、砂や庭草に塗れて起き上がったのだが、サイアス氏… もう、呼び捨てのサイアスでいいや。

 彼はぴたりと動きを止め、興味深そうに小首をひねっていた。

「お前、身体強化系の技術を扱えるクチなのか?」
「歴戦の猛者は皆、自らのマナを駆使していると思い至ったからな」

「ふむ、最低限の心得はあるようだな、ならば遠慮なく鍛えてやろう!!」
「…… お手柔らかに頼む」

 少し背筋に悪寒を感じたものの、どうやら類稀たぐいまれなる技量を持っていそうなあたり、彼との出会いは望外の幸運なのだろう。

 まだ本格的に痛めつけられておらず、ヘイトを溜め込んでいなかったので、この時はそんなぬるいことを考えていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

伯爵令息は後味の悪いハッピーエンドを回避したい

えながゆうき
ファンタジー
 停戦中の隣国の暗殺者に殺されそうになったフェルナンド・ガジェゴス伯爵令息は、目を覚ますと同時に、前世の記憶の一部を取り戻した。  どうやらこの世界は前世で妹がやっていた恋愛ゲームの世界であり、自分がその中の攻略対象であることを思い出したフェルナンド。  だがしかし、同時にフェルナンドがヒロインとハッピーエンドを迎えると、クーデターエンドを迎えることも思い出した。  もしクーデターが起これば、停戦中の隣国が再び侵攻してくることは間違いない。そうなれば、祖国は簡単に蹂躙されてしまうだろう。  後味の悪いハッピーエンドを回避するため、フェルナンドの戦いが今始まる!

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...