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第3話
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なお、心機一転とは謂えども、年端のいかない身の上では取れる選択肢など限られているため、今日も今日とて庭園で木剣の素振りである。
人ひとりで成せることなど高が知れていても、立ち止まる時間は何処にもなく、愚直に歩み続けるしかない。
「朝から精が出ますね、坊ちゃん!」
「あぁ、貴様もな」
こちらへ声を掛けてきた庭師に向け、つい皇子と呼ばれていた頃の横柄な言葉を投げると、鳩が豆鉄砲を食ったような表情で固まってしまう。
すぐに年相応の発言ではなかったと気づき、頬を引き攣らせて誤魔化し笑いなど浮かべると、壮年の庭師は訝しげに小首を傾げた。
ただ、彼も仕事があるため、俺から視線を外して香草茶にでも使うのか、商売道具の鋏片手に剪定がてらローズマリーを収穫し始める。
その姿を一瞥して鍛錬(自称)に戻り、輪廻の狭間で垣間見た名もなき英霊達の剣術から、非才の凡人であっても研鑽の末に到達できそうなものを選んで模倣していく。
皆が最初から人外の領域に立つ強者だった訳でなく、何らの才に恵まれないまま努力だけで、ある種の完成形まで到達した人物も皆無ではない。
(…… 攻撃に晒される面積を減らすため、半身で切っ先を斜め下に構え、初動となる肩、上腕、前腕の筋肉を円滑に連動させて刹那の剣戟と成す)
基本的な術理を殊更に強く意識した上で、把持した木剣を逆袈裟に振るうが、傍から見れば児戯に過ぎず、網膜に焼き付いた神域の斬撃には程遠い。
されども一振りごとに内面へ意識を沈め、心象との差異を少しでも埋めようと腐心していたら、ふと脳裏を掠めるものがあった。
(万物に宿るマナ、根源たる力の制御と転用……)
自覚の有無に拠らず、人という種の限界を越えた者達は体裁きの要となる部分で、相応のマナを消費していた気がする。
彼らの人生を “邯鄲の夢” で辿り、刃を交えてきた一廉の猛者らも程度の差こそあれ、同系統の技能を駆使していたように思う。
「つまり、近接戦闘の達人はマナによる “外部干渉が不得手な” だけで、実は全員が筋肉質な魔術師だったと?」
冷静に考えると、斬撃の余波で数十人を吹き飛ばすとか、目にもとまらぬ神速の動きなど、魔法が絡んでないと人の身では不可能だろう。
物は試しという事で体内を循環するマナの流れに傾注し、それと筋肉の動きを一致させて繰り出した渾身の斬撃は… 幾分かはマシになり、豪快な風切り音を鳴らしたが、如何せん虚脱感が凄い。
これは魔術師並みのマナ保有量が必要なのかもしれないと、木剣を杖代わりに疲弊した身体を支えながら考察していれば、楚々と栗毛のメイドが歩み寄ってきた。
「何だ、もう朝餉の時間か?」
「えっと、そうですけど……」
またしても年齢に応じた言動ではなかったらしく、口籠る彼女に愛想笑いを浮かべてから、そそくさと屋敷に戻る。
第二皇子時代も両親には敬語を使っていたので大丈夫だが、他にはいつもぞんざいな態度を取っていたので、無愛想な言葉遣いが止められない。
もはや昨日まで、どのように屋敷の家人達と話していたのか、しっかりと思い出せないほどだ。
仕方なく玄関先の階段室で立ち止まり、自身の性格を省みると口数の少ない子供だった気がする。この先が少し思いやられるなと、溜息してから食堂へ向かった。
人ひとりで成せることなど高が知れていても、立ち止まる時間は何処にもなく、愚直に歩み続けるしかない。
「朝から精が出ますね、坊ちゃん!」
「あぁ、貴様もな」
こちらへ声を掛けてきた庭師に向け、つい皇子と呼ばれていた頃の横柄な言葉を投げると、鳩が豆鉄砲を食ったような表情で固まってしまう。
すぐに年相応の発言ではなかったと気づき、頬を引き攣らせて誤魔化し笑いなど浮かべると、壮年の庭師は訝しげに小首を傾げた。
ただ、彼も仕事があるため、俺から視線を外して香草茶にでも使うのか、商売道具の鋏片手に剪定がてらローズマリーを収穫し始める。
その姿を一瞥して鍛錬(自称)に戻り、輪廻の狭間で垣間見た名もなき英霊達の剣術から、非才の凡人であっても研鑽の末に到達できそうなものを選んで模倣していく。
皆が最初から人外の領域に立つ強者だった訳でなく、何らの才に恵まれないまま努力だけで、ある種の完成形まで到達した人物も皆無ではない。
(…… 攻撃に晒される面積を減らすため、半身で切っ先を斜め下に構え、初動となる肩、上腕、前腕の筋肉を円滑に連動させて刹那の剣戟と成す)
基本的な術理を殊更に強く意識した上で、把持した木剣を逆袈裟に振るうが、傍から見れば児戯に過ぎず、網膜に焼き付いた神域の斬撃には程遠い。
されども一振りごとに内面へ意識を沈め、心象との差異を少しでも埋めようと腐心していたら、ふと脳裏を掠めるものがあった。
(万物に宿るマナ、根源たる力の制御と転用……)
自覚の有無に拠らず、人という種の限界を越えた者達は体裁きの要となる部分で、相応のマナを消費していた気がする。
彼らの人生を “邯鄲の夢” で辿り、刃を交えてきた一廉の猛者らも程度の差こそあれ、同系統の技能を駆使していたように思う。
「つまり、近接戦闘の達人はマナによる “外部干渉が不得手な” だけで、実は全員が筋肉質な魔術師だったと?」
冷静に考えると、斬撃の余波で数十人を吹き飛ばすとか、目にもとまらぬ神速の動きなど、魔法が絡んでないと人の身では不可能だろう。
物は試しという事で体内を循環するマナの流れに傾注し、それと筋肉の動きを一致させて繰り出した渾身の斬撃は… 幾分かはマシになり、豪快な風切り音を鳴らしたが、如何せん虚脱感が凄い。
これは魔術師並みのマナ保有量が必要なのかもしれないと、木剣を杖代わりに疲弊した身体を支えながら考察していれば、楚々と栗毛のメイドが歩み寄ってきた。
「何だ、もう朝餉の時間か?」
「えっと、そうですけど……」
またしても年齢に応じた言動ではなかったらしく、口籠る彼女に愛想笑いを浮かべてから、そそくさと屋敷に戻る。
第二皇子時代も両親には敬語を使っていたので大丈夫だが、他にはいつもぞんざいな態度を取っていたので、無愛想な言葉遣いが止められない。
もはや昨日まで、どのように屋敷の家人達と話していたのか、しっかりと思い出せないほどだ。
仕方なく玄関先の階段室で立ち止まり、自身の性格を省みると口数の少ない子供だった気がする。この先が少し思いやられるなと、溜息してから食堂へ向かった。
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