12 / 155
第12話 ~ とある少女の視点② ~
しおりを挟む
「そんな拙い腕前で荒事稼業などやるな、命の無駄遣いでしかない」
「うぐっ、助けられた身ではあるけどさ、言い方ってものがあるだろう」
明け透けな忠告に思わずクレアが抗議を試みるも、黒髪の少年は赫い瞳を閉じて、首を左右に振る。
それから一呼吸分だけ間を置き、冒険者登録の際に覚悟を確認するため、誰もが一度は連れて行かれるギルド支部の地下室に言及してきた。
薄暗い明りの中、運良く回収された “死者の識別票” が幾つも掛けられている壁面を眺め、豊穣の女神に仕える私も幼馴染らと祈りを捧げた記憶はまだ新しい。
「自分だけは大丈夫、と思い込むのが人の常、俺も他人事ではないが… 引き返せる内に止めておけ、残された家族が悲しむ事になる」
「… と言われてもね、フィア」
「えぇ、私達は女子修道院の孤児、所謂 “奉献の子” でしたから」
困り顔で肩を竦めたリィナに続いて、こちらの立つ瀬が理解できるように多少の補足をする。
飢饉の折、口減らしで見知らぬ街に放置されたり、脱輪した馬車の転倒事故に両親が巻き込まれて亡くなったり、天涯孤独となった孤児の未来は明るくない。
成人と見做される15歳になれば、新たな孤児を受け入れるため、修道院から押し出されることは珍しくないものの……
港湾都市での力仕事は女手だと難しいことや、親無しへの偏見もあって職が定まらず、路頭に迷う者が大半を占めてしまう。
「私は治癒魔法の資質があったので、教会の侍祭に取り立てられましたけど、持たざる故に娼婦となる人も多いです」
「それが嫌なら、来るもの拒まずの冒険者ってこと」
「いざとなればギルドの仲介で部屋も借りられるし、衣食住には困らない」
過分な危険がある反面、弱い立場のまま戒律の厳しい修道院でこき使われたり、望まぬ人生を強いられたりする事はないと、私達の考えをクレアが伝えると… 彼の少年は忌憚なく頷いた。
「自らの在り方は他の誰でもなく、自身が決めるものだな。すまない、心情を省みない無粋な諫言だった」
「ん… 分かってくれたのなら、それでいい」
「こっちが未熟なのも事実だから… って、やけに素直ね」
何かと悪評を聞く領主夫妻の子と思えないほど、潔い印象を持つ少年にリィナが再び疑惑の視線を向けたところで、事後の始末を終えた痩身の男が割り込んでくる。
突き出された掌には、土蜘蛛の変異種から抽出したと思われる大振りなマナ結晶体や、喰い殺された暴漢達の識別票が乗っていた。
「くれてやって構わないだろう、ジェオ?」
「………… 装備品や治療薬を買う足しにはなるか」
やや未練がましい様子の少年は呟いて首肯するが、中級以上に相当する魔物の結晶体は資源価値が高く、そう簡単には受け取れない。
死者の識別票にしてもギルド支部へ持ち帰ると、回収分の報奨金が出るので躊躇していたら、満面の笑みでリィナが手を伸ばした。
「ふふっ、お気遣い、ありがとう御座います♪」
斥候の幼馴染が見せた現金な姿にクレアと顔を見合わせ、思わず溜息を吐きながらも苦笑する。
今日は後を付けてきた悪質な冒険者に絡まれ、散々だったけれども禍福は糾える縄の如しと言うべきか、思いがけない収入を得ることができた一日となった。
「うぐっ、助けられた身ではあるけどさ、言い方ってものがあるだろう」
明け透けな忠告に思わずクレアが抗議を試みるも、黒髪の少年は赫い瞳を閉じて、首を左右に振る。
それから一呼吸分だけ間を置き、冒険者登録の際に覚悟を確認するため、誰もが一度は連れて行かれるギルド支部の地下室に言及してきた。
薄暗い明りの中、運良く回収された “死者の識別票” が幾つも掛けられている壁面を眺め、豊穣の女神に仕える私も幼馴染らと祈りを捧げた記憶はまだ新しい。
「自分だけは大丈夫、と思い込むのが人の常、俺も他人事ではないが… 引き返せる内に止めておけ、残された家族が悲しむ事になる」
「… と言われてもね、フィア」
「えぇ、私達は女子修道院の孤児、所謂 “奉献の子” でしたから」
困り顔で肩を竦めたリィナに続いて、こちらの立つ瀬が理解できるように多少の補足をする。
飢饉の折、口減らしで見知らぬ街に放置されたり、脱輪した馬車の転倒事故に両親が巻き込まれて亡くなったり、天涯孤独となった孤児の未来は明るくない。
成人と見做される15歳になれば、新たな孤児を受け入れるため、修道院から押し出されることは珍しくないものの……
港湾都市での力仕事は女手だと難しいことや、親無しへの偏見もあって職が定まらず、路頭に迷う者が大半を占めてしまう。
「私は治癒魔法の資質があったので、教会の侍祭に取り立てられましたけど、持たざる故に娼婦となる人も多いです」
「それが嫌なら、来るもの拒まずの冒険者ってこと」
「いざとなればギルドの仲介で部屋も借りられるし、衣食住には困らない」
過分な危険がある反面、弱い立場のまま戒律の厳しい修道院でこき使われたり、望まぬ人生を強いられたりする事はないと、私達の考えをクレアが伝えると… 彼の少年は忌憚なく頷いた。
「自らの在り方は他の誰でもなく、自身が決めるものだな。すまない、心情を省みない無粋な諫言だった」
「ん… 分かってくれたのなら、それでいい」
「こっちが未熟なのも事実だから… って、やけに素直ね」
何かと悪評を聞く領主夫妻の子と思えないほど、潔い印象を持つ少年にリィナが再び疑惑の視線を向けたところで、事後の始末を終えた痩身の男が割り込んでくる。
突き出された掌には、土蜘蛛の変異種から抽出したと思われる大振りなマナ結晶体や、喰い殺された暴漢達の識別票が乗っていた。
「くれてやって構わないだろう、ジェオ?」
「………… 装備品や治療薬を買う足しにはなるか」
やや未練がましい様子の少年は呟いて首肯するが、中級以上に相当する魔物の結晶体は資源価値が高く、そう簡単には受け取れない。
死者の識別票にしてもギルド支部へ持ち帰ると、回収分の報奨金が出るので躊躇していたら、満面の笑みでリィナが手を伸ばした。
「ふふっ、お気遣い、ありがとう御座います♪」
斥候の幼馴染が見せた現金な姿にクレアと顔を見合わせ、思わず溜息を吐きながらも苦笑する。
今日は後を付けてきた悪質な冒険者に絡まれ、散々だったけれども禍福は糾える縄の如しと言うべきか、思いがけない収入を得ることができた一日となった。
82
あなたにおすすめの小説
ガチャで破滅した男は異世界でもガチャをやめられないようです
一色孝太郎
ファンタジー
前世でとあるソシャゲのガチャに全ツッパして人生が終わった記憶を持つ 13 歳の少年ディーノは、今世でもハズレギフト『ガチャ』を授かる。ガチャなんかもう引くもんか! そう決意するも結局はガチャの誘惑には勝てず……。
これはガチャの妖精と共に運を天に任せて成り上がりを目指す男の物語である。
※作中のガチャは実際のガチャ同様の確率テーブルを作り、一発勝負でランダムに抽選をさせています。そのため、ガチャの結果によって物語の未来は変化します
※本作品は他サイト様でも同時掲載しております
※2020/12/26 タイトルを変更しました(旧題:ガチャに人生全ツッパ)
※2020/12/26 あらすじをシンプルにしました
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
たとえば勇者パーティを追放された少年が宿屋の未亡人達に恋するような物語
石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。
ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。
だから、ただ見せつけられても困るだけだった。
何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。
この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。
勿論ヒロインもチートはありません。
他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。
1~2話は何時もの使いまわし。
リクエスト作品です。
今回は他作品もありますので亀更新になるかも知れません。
※ つい調子にのって4作同時に書き始めてしまいました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる