悪役皇子、ざまぁされたので反省する ～ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ～

第15話

　その後、丸一日ほど水に浸け込んで煮汁を取り除き、さらに天日で乾燥させた繊維から不純物を除のぞいて、また水を張った大鍋に戻す。

　再度、水分を含んだ繊維が綿状となるように棍棒で叩きほぐし、漸ようやく麻紙の原料液ができたわけだが…… 製紙に係かかる作業は鍛錬等を間に挟んで、もう四日目に入っていた。

「思い付きでやるものではなかったようだ、相応に難易度が高い」
「…… それ、巻き込まれている私の前で言わないでくださいよ」

「文句を言うな、これが成功すれば領内の特産品にもなるんだぞ」
「坊ちゃん、うちの倅せがれと似た年齢なのに、ちっとも子供らしくないですね……」

　胡乱うろんな庭師の視線を受け流して、大鍋の原料液に小麦製のでんぷん糊のりを加えながら、棍棒で攪拌かくはんしていくと牛乳に浸ひたしたオートミールのような質感になってくる。

　丁度よい具合だと判断して、麦藁で細こまかく編あんだ網底付きの木枠を大鍋に浸け込み、掬すくい上げた植物繊維含みの混合液を平面状に均ならしていく。

「は～、この状態からパピルス… じゃなかった、紙になるんですね」

「今日は数枚ほどの試製に留とどめるが、効率的なやり方を確立すれば生産性と品質は向上するし、市井しせいでの売り物にもなるだろう」

　庭師の疑問に答える傍かたわら、手にした次の木枠で紙漉すきを続けて、済んだものから順に麻布を挟んで木台へ積み重ねた。

　そこに重し代わりの岩を載せて一晩放置すると湿紙しとがみの水分が抜け、書籍サイズの紙が出来上がる。

「ん… 専用の圧搾機もあった方が良いな」

「普通の梃子てこを使うやつですか？」
「あぁ、木板の形を設しつらえて段組みさせるだけで十分だ」

　ざっくりとした形状を庭師に伝え、他にも一枚当たりの面積を増やすための大きな木枠や、付随ずいして必要になる原料液の容器に関して意見を交わす。

　羊皮紙に代わる自家製の紙は是非にとも欲しいので、真剣に話を詰つめていけば俺の本気度を理解した庭師は段々と遠い目になり、やや肩を落として帰路に就いた。

　そうして二晩ふたばん挟んだ翌々日、苦労して完成させた試製品を披露ひろうすべく、夕食後に仲睦むつまじい姿で歓談していた両親の会話が途切れ、少しの間があいた隙に本題を捻ねじ込ませてもらう。

「母様、先日に購入して頂いた麻ですが、このような物に加工してみました」
「ふふっ、さっそく試してみたのですね」

　ささっと持参していた数枚の麻紙を母に手渡せば、矯ためつ眇すがめつ品定めしてから、父に目配くばせして引き渡した。

「これは中東や極東で用いられている華国の紙か、港に揚あげられた交易品の中で見たことはあるな、確かに原材料は植物だと聞く」

「見聞した事柄ことがらを纏まとめ、自分なりの解釈も重ねて模倣しました。少数で構いません、人手を確保して貰もらえるなら、定量を生産できるかと」

　こちらの誘い掛けるような言葉を受け、目を細めた父は損得勘定を弾き始める。

　些いささか自己利益を優先しがちな性格なので、領民の不信感はあっても強したたかさがあるらしく、善悪が関係しない根底の部分では暗愚と断じきれないようだ。