悪役皇子、ざまぁされたので反省する ～ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ～

第23話

微妙に暑苦しく、食事も取りづらい。一体、何の真似だ？」
「ふふっ、少し玉の輿こしを目指そうかと思ってね」

　人の耳元に桜唇おうしんを寄せて、揶揄からかい混じりに囁いたリィナの身体を引き剥はがし、椅子ごと斜め横に動くことで間合いを取りながら、正気を疑うような視線を向ける。

　それを涼やかに受け流した気侭きままな斥候の娘は得意げな表情となり、短い時間で纏まとめた自らの持論を展開していく。

「ちっとも子供っぽくないけど、ジェオは将来有望そうだし？ 早めに手を付けて首尾よく篭絡ろうらくできたらさ、私も貴婦人になれるじゃない♪」

「まさに “捕らぬ狸の皮算用” だな」
「すまないが、飽きるか、諦めるまで相手してやってくれ」

　微苦笑したクレアが肩を竦すくめ、熱しやすく冷めやすい性格なので少しの我慢だと、幼馴染ならではの助言をくれたものの癇しゃくに障ったらしく、不満そうに唸うなったリィナは大胆不敵な態度で声高らかに宣のたまう。

「打算で動く時のわたしは執念深いから覚悟しなさい、ダーリン！」
「好きにしろ… とは言いづらいし、勘弁してくれ」

　あざとい笑顔を浮かべた少女の背後にある円卓では、先ほどから古参の冒険者らが聞き耳を立てており、生暖かい眼差しで俺達の様子を眺めている。

　さらに変な方向へ話が脱線するのを阻止すべく、改めて最初に尋ねた護衛依頼の可否を質ただせば、僅わずかな逡巡を挟んだ二人は揃そろってこくりと頷うなずいた。

「いいぞ、初心者向けの迷宮遺跡には元々興味があったんだ」
「うん、フィアの都合がつき次第だけどね」

　概おおむね予想していたように教会所属の侍祭が任地から離れるとなれば、やはり教区を管轄する司祭の承認や、幾つかの手続きが必要なのだろう。
 
　こちらも旅の準備に時間を取られるため、似たようなものだと思考を打ち切り、硬いパンに齧かじりついた。

　因ちなみに食事は黙々と味わって食べたい派なのだが、有言実行の腹積もりなのか、やたらとリィナが絡からんでくる。

「…… というわけで、趣味が高じて脱シスターした人、三番街に “女王蜂の巣レジナアプス ニードゥス” っていう焼き菓子と香草茶のお店を開いてるの。今度、一緒に行かない？」

「あぁ、機会があればな」
「うぅ、つれない返事、都合のいい時だけ利用するのに後は放置？」

　何やら露骨な泣きまねをして、人聞きの悪いことまで言ってくるも、護衛の形で旅路への同行を求めている手前てまえ、一概がいには否定できない。

　助け舟を出してくれとクレアに目配せしたら、そっと視線を逸そらされてしまう。

「えっと… 何なの？ この状況は……」

　若干、聞き覚えのある声が耳に届いて振り向くと、困り顔のフィアが錫杖片手に佇たたずんでおり、ひとつだけ空いている椅子に座るのを躊躇ためらっていた。

　丁度良いので遅れてきた兼業冒険者の侍祭にも依頼の件を伝え、すぐには無理でも予定を調整すると約束してもらう。

　少し普段よりも賑にぎやかな朝食の席ではあったが… 偶たまになら騒々しいのも悪くないと思い直して、藪から棒なリィナのお誘いも一応は善処することに決めた。