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第104話
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先史文明から受け継いだユークリッド幾何学は図形と空間に係るものであり、主な方面だと土地の測量及び製図等で活用されている。
河川の氾濫により、農地の境界が崩れて区画を改める時とか、正確な土地面積を踏まえて租税の分量を決める時に役立つので、官吏を束ねる領主が嗜むべき学問とも言えた。
(奇しくも自領の中心地は港湾都市だからな、航海や荷役に関わる公式も押さえて、理解の範疇に収めておかないと)
頻繁に扱うのは三角関数、三平方の定理、正弦定理、余弦定理くらいな気もするが、それ故に不備があれば船乗りの連中や、貿易商らに愚者と軽んじられそうだ。
輪廻の狭間、“邯鄲の夢” で得た数学の知識は多々あれど… 複雑かつ難解なものが過半を占めており、どう現実に落とし込めるのか、いまいち不明なのがもどかしい。
生涯を捧げた碩学は “実益に拘るのなど愚の骨頂、人類の叡智がここに在る” と断言していたものの、使い道があるに越したことはないはずだ。
「まぁ、精々利用させてもらうさ、自身と名も知らない誰かの為に」
日々、生きていく過程で重ねた個々人の労働的な行為が無数の商品と税収を生み、廻りまわって誰かの暮らし振りを豊かにさせたり、様々な社会基盤を強固なものに仕上げたりする。
一応は需要と供給を結びつける商人の端くれであり、ウェルゼリア領主の後継でもある身として、疲れない程度に緩く尽力させてもらう次第だ。
“自分が最優先、自分すら愛せない馬鹿に他人を愛することはできない” とは、お気に入りの桃酒で酔ったリィナの世迷言だが、真理の一つとも思える。
(…… ほろ酔いのフィアが無償の愛を説いた折、反駁で吐かれた台詞だったな)
それは神が自己愛を持っているか否か、元孤児らが語るには分不相応な宗教哲学の分野であるも… 護民救済に極振りしている以外、細かいことに固執しない地母神派の女子修道院で培われた土壌が成せる言葉だろう。
場末の酒場で喧々諤々と論じる姿が思い出されて、少しばかりの苦笑を浮かべつつ、午後の講義を受け終えた俺は探索許可証の仮交付書を携え、学院にある冒険者組合の支部へ足を運ぶ。
件の二人は組合所属なので無報酬の事例を除き、受付窓口を通さない荒事稼業の依頼は規約違反になるのに加えて、学院の関係者は当該支部を使う必要があった。
教会勢力が捻じ込んだ寄進という抜け道のある司祭の娘はさておき、半人造の娘に護衛などの報酬を支払うには、いつもながらの手続きが避けられない。
「慕ってくれる者の善意に縋るとか、性に合わないからな」
そう独白すれば、探索調査に赴く生徒と教職員の動向を把握して、安全管理に資するのが主目的とは謂え、内部に出先機関があるのは悪い話でもないと思えてきた。
河川の氾濫により、農地の境界が崩れて区画を改める時とか、正確な土地面積を踏まえて租税の分量を決める時に役立つので、官吏を束ねる領主が嗜むべき学問とも言えた。
(奇しくも自領の中心地は港湾都市だからな、航海や荷役に関わる公式も押さえて、理解の範疇に収めておかないと)
頻繁に扱うのは三角関数、三平方の定理、正弦定理、余弦定理くらいな気もするが、それ故に不備があれば船乗りの連中や、貿易商らに愚者と軽んじられそうだ。
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生涯を捧げた碩学は “実益に拘るのなど愚の骨頂、人類の叡智がここに在る” と断言していたものの、使い道があるに越したことはないはずだ。
「まぁ、精々利用させてもらうさ、自身と名も知らない誰かの為に」
日々、生きていく過程で重ねた個々人の労働的な行為が無数の商品と税収を生み、廻りまわって誰かの暮らし振りを豊かにさせたり、様々な社会基盤を強固なものに仕上げたりする。
一応は需要と供給を結びつける商人の端くれであり、ウェルゼリア領主の後継でもある身として、疲れない程度に緩く尽力させてもらう次第だ。
“自分が最優先、自分すら愛せない馬鹿に他人を愛することはできない” とは、お気に入りの桃酒で酔ったリィナの世迷言だが、真理の一つとも思える。
(…… ほろ酔いのフィアが無償の愛を説いた折、反駁で吐かれた台詞だったな)
それは神が自己愛を持っているか否か、元孤児らが語るには分不相応な宗教哲学の分野であるも… 護民救済に極振りしている以外、細かいことに固執しない地母神派の女子修道院で培われた土壌が成せる言葉だろう。
場末の酒場で喧々諤々と論じる姿が思い出されて、少しばかりの苦笑を浮かべつつ、午後の講義を受け終えた俺は探索許可証の仮交付書を携え、学院にある冒険者組合の支部へ足を運ぶ。
件の二人は組合所属なので無報酬の事例を除き、受付窓口を通さない荒事稼業の依頼は規約違反になるのに加えて、学院の関係者は当該支部を使う必要があった。
教会勢力が捻じ込んだ寄進という抜け道のある司祭の娘はさておき、半人造の娘に護衛などの報酬を支払うには、いつもながらの手続きが避けられない。
「慕ってくれる者の善意に縋るとか、性に合わないからな」
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