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第110話 ~ 逢魔が時の怪異② ~
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「お下がりください、殿下! ぐぅう!!」
咄嗟に聖堂騎士のセルムスが前にいた二人の間へ身を割り込ませ、聖楯の障壁魔法で仕える公子をネコ科獣人の少女ごと庇うが、身体の複数ヶ所に点での貫通力に長けた小鉄球を受けて頽れる。
彼の挺身もあって、軽傷で済んだルベルトとセリアは仲間への心配を捨て置き、狭い路地で次射を撃たせないため、地を這う獣の如き速度で果敢に吶喊していく。
「うぉおおッ!!」「せいぁああッ!」
裂帛の咆哮を響かせ、其々に左右から交差させるような軌道で長剣と連結鉄鎖の一撃を繰り出すも、黒面の怪物が掲げた硬質な両腕に阻まれてしまう。
それにめげず、足癖の悪い少女は惜しげもなく白い太腿を晒して中段蹴りを放ち、余人には想像もつかない猫虎人の脚力に任せて相手を弾き飛ばした。
好機と判断した公子が距離を詰め、彼女も従魔である双頭の猟犬を顕現させた直後、水を差すかのように背後より悲鳴が響き渡る。
ちらりと隙を覚悟で一瞥すれば負傷した聖堂騎士の傍、回復薬の瓶を片手に持った双子の妹が足元から伸びる無数の黒い手に捕まり、きつく全身を締められていた。
「た、助け… むぐッ!? うぅう――ッ、うぅ!!」
いつも都合よく応えてくれる保証はないが、ご先祖の幻獣を呼ぼうとする口元や、視界まで塞がれてマナを強引に吸い取られる。
必死の抵抗も虚しくセリカは意識を失い、掌中の小瓶が落ちて砕けると共に拘束を解かれ、石畳の地面へと倒れた。
「… 私が二人を担いで逃げます、先輩は時間を稼いでください」
「ははっ、凄いな! 王族を捨て駒にする逆転の発想とか!!」
圧縮風弾の魔法で牽制しつつ、猫虎人の有り余る膂力を鑑みたルベルトが妥当な判断かと思い直して、やけくそ気味に腹を括るよりも早く、身を撓めた好戦的な怪物は突撃姿勢となり……
動き出した瞬間、逆方向から飛んできた “聖槍” という名の鈍器を喰らい、その胸郭を貫かれた。
「ッ!? ァ―ゥウ――」
「無刃でも刺さるんですよ、これ」
得物に遅れて蜂蜜色の髪を靡かせながら滑り込み、長柄を握り締めた投擲者の乙女が “力業ですけど” と恥ずかし気に囁いて、体内のマナに意識を向ける。
気合一閃、鈴を転がすような声で、鋭く叫んだ司祭の娘は身体強化の術式を極限まで深め、刺し止めた神敵ごと大きな槍を高天へ振り上げた。
夕空へ放り出された黒面の怪物は翼など広げて体勢を整え、再び周囲に生じさせた大量の小鉄球を撃ち出そうとするも、今度は突発的な爆炎に包まれてしまう。
「ッ――、――ゥ―――」
「爆ぜろよ、幽世の夜鬼、現に貴様の居場所はない」
威圧的な声が聞こえたかと思えば、幾度も空間を越える特異な魔法、“領域爆破” の火焔が咲き乱れて、逢魔が時の怪異を灰燼に変えていく。
思わぬ展開に固まる第一王子らが視線を地上へ戻すと、見かけだけは可憐な半人造の少女を従えて、黒髪緋眼の少年が路地の先に佇んでいた。
咄嗟に聖堂騎士のセルムスが前にいた二人の間へ身を割り込ませ、聖楯の障壁魔法で仕える公子をネコ科獣人の少女ごと庇うが、身体の複数ヶ所に点での貫通力に長けた小鉄球を受けて頽れる。
彼の挺身もあって、軽傷で済んだルベルトとセリアは仲間への心配を捨て置き、狭い路地で次射を撃たせないため、地を這う獣の如き速度で果敢に吶喊していく。
「うぉおおッ!!」「せいぁああッ!」
裂帛の咆哮を響かせ、其々に左右から交差させるような軌道で長剣と連結鉄鎖の一撃を繰り出すも、黒面の怪物が掲げた硬質な両腕に阻まれてしまう。
それにめげず、足癖の悪い少女は惜しげもなく白い太腿を晒して中段蹴りを放ち、余人には想像もつかない猫虎人の脚力に任せて相手を弾き飛ばした。
好機と判断した公子が距離を詰め、彼女も従魔である双頭の猟犬を顕現させた直後、水を差すかのように背後より悲鳴が響き渡る。
ちらりと隙を覚悟で一瞥すれば負傷した聖堂騎士の傍、回復薬の瓶を片手に持った双子の妹が足元から伸びる無数の黒い手に捕まり、きつく全身を締められていた。
「た、助け… むぐッ!? うぅう――ッ、うぅ!!」
いつも都合よく応えてくれる保証はないが、ご先祖の幻獣を呼ぼうとする口元や、視界まで塞がれてマナを強引に吸い取られる。
必死の抵抗も虚しくセリカは意識を失い、掌中の小瓶が落ちて砕けると共に拘束を解かれ、石畳の地面へと倒れた。
「… 私が二人を担いで逃げます、先輩は時間を稼いでください」
「ははっ、凄いな! 王族を捨て駒にする逆転の発想とか!!」
圧縮風弾の魔法で牽制しつつ、猫虎人の有り余る膂力を鑑みたルベルトが妥当な判断かと思い直して、やけくそ気味に腹を括るよりも早く、身を撓めた好戦的な怪物は突撃姿勢となり……
動き出した瞬間、逆方向から飛んできた “聖槍” という名の鈍器を喰らい、その胸郭を貫かれた。
「ッ!? ァ―ゥウ――」
「無刃でも刺さるんですよ、これ」
得物に遅れて蜂蜜色の髪を靡かせながら滑り込み、長柄を握り締めた投擲者の乙女が “力業ですけど” と恥ずかし気に囁いて、体内のマナに意識を向ける。
気合一閃、鈴を転がすような声で、鋭く叫んだ司祭の娘は身体強化の術式を極限まで深め、刺し止めた神敵ごと大きな槍を高天へ振り上げた。
夕空へ放り出された黒面の怪物は翼など広げて体勢を整え、再び周囲に生じさせた大量の小鉄球を撃ち出そうとするも、今度は突発的な爆炎に包まれてしまう。
「ッ――、――ゥ―――」
「爆ぜろよ、幽世の夜鬼、現に貴様の居場所はない」
威圧的な声が聞こえたかと思えば、幾度も空間を越える特異な魔法、“領域爆破” の火焔が咲き乱れて、逢魔が時の怪異を灰燼に変えていく。
思わぬ展開に固まる第一王子らが視線を地上へ戻すと、見かけだけは可憐な半人造の少女を従えて、黒髪緋眼の少年が路地の先に佇んでいた。
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