悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~

shiba

文字の大きさ
110 / 155

第110話 ~ 逢魔が時の怪異② ~

しおりを挟む
「お下がりください、殿下! ぐぅう!!」

 咄嗟とっさに聖堂騎士のセルムスが前にいた二人の間へ身を割り込ませ、聖楯の障壁魔法で仕える公子をネコ科獣人の少女ごとかばうが、身体の複数ヶ所に点での貫通力にけた小鉄球を受けてくずおれる。

 彼の挺身ていしんもあって、軽傷で済んだルベルトとセリアは仲間への心配を捨て置き、狭い路地で次射を撃たせないため、地をう獣のごとき速度で果敢に吶喊とっかんしていく。

「うぉおおッ!!」「せいぁああッ!」

 裂帛の咆哮ほうこうを響かせ、其々それぞれに左右から交差させるような軌道で長剣と連結鉄鎖アイアンチェーンの一撃を繰り出すも、黒面の怪物がかかげた硬質な両腕にはばまれてしまう。
 
 それにめげず、足癖の悪い少女は惜しげもなく白い太腿をさらして中段蹴りを放ち、余人には想像もつかない猫虎人の脚力に任せて相手を弾き飛ばした。

 好機と判断した公子が距離をめ、彼女も従魔である双頭の猟犬オルトロス顕現けんげんさせた直後、水を差すかのように背後より悲鳴が響き渡る。

 ちらりと隙を覚悟で一瞥いちべつすれば負傷した聖堂騎士のそば回復薬ポーションの瓶を片手に持った双子の妹が足元から伸びる無数の黒い手に捕まり、きつく全身を締められていた。

「た、助け… むぐッ!? うぅう――ッ、うぅ!!」

 いつも都合よく応えてくれる保証はないが、ご先祖の幻獣を呼ぼうとする口元や、視界までふさがれてマナを強引に吸い取られる。

 必死の抵抗もむなしくセリカは意識を失い、掌中の小瓶が落ちて砕けると共に拘束を解かれ、石畳の地面へと倒れた。

「… 私が二人をかついで逃げます、先輩は時間を稼いでください」
「ははっ、凄いな! 王族を捨て駒にする逆転の発想とか!!」

 圧縮風弾の魔法で牽制けんせいしつつ、猫虎人の有り余る膂力りょりょくかんがみたルベルトが妥当だとうな判断かと思い直して、やけくそ気味に腹をくくるよりも早く、身をたわめた好戦的な怪物は突撃姿勢となり……

 動き出した瞬間、逆方向から飛んできた “聖槍” という名の鈍器を喰らい、その胸郭きょうかくを貫かれた。


「ッ!? ァ―ゥウ――」
無刃むじんでも刺さるんですよ、これ」

 得物に遅れて蜂蜜色の髪をなびかせながら滑り込み、長柄を握り締めた投擲とうてき者の乙女が “力業ですけど” と恥ずかし気に囁いて、体内のマナに意識を向ける。

 気合一閃、鈴を転がすような声で、鋭く叫んだ司祭の娘は身体強化の術式を極限まで深め、刺し止めた神敵ごと大きな槍を高天こうてんへ振り上げた。

 夕空へ放り出された黒面の怪物は翼など広げて体勢をととのえ、再び周囲に生じさせた大量の小鉄球を撃ち出そうとするも、今度は突発的な爆炎に包まれてしまう。

「ッ――、――ゥ―――」
ぜろよ、幽世の夜鬼ナイトゴーントうつつに貴様の居場所はない」

 威圧的な声が聞こえたかと思えば、幾度も空間を越える特異な魔法、“領域爆破” の火焔が咲き乱れて、逢魔が時の怪異を灰燼かいじんに変えていく。

 思わぬ展開に固まる第一王子らが視線を地上へ戻すと、見かけだけは可憐な半人造の少女ハーフホムンクルスを従えて、黒髪緋眼の少年が路地の先にたたずんでいた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた

ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで先行投稿中。 遊戯遊太(25)は会社帰りにふらっとゲームセンターに入った。昔遊んだユーフォーキャッチャーを見つめながらつぶやく。 「遊んで暮らしたい」その瞬間に頭に声が響き時間が止まる。 「異世界転生に興味はありますか?」 こうして遊太は異世界転生を選択する。 異世界に転生すると最弱と言われるジョブ、遊び人に転生していた。 「最弱なんだから努力は必要だよな!」 こうして雄太は修行を開始するのだが……

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

たとえば勇者パーティを追放された少年が宿屋の未亡人達に恋するような物語

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。 ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。 だから、ただ見せつけられても困るだけだった。 何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。 1~2話は何時もの使いまわし。 リクエスト作品です。 今回は他作品もありますので亀更新になるかも知れません。 ※ つい調子にのって4作同時に書き始めてしまいました。   

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...