異世界に逃れた王女、心優しき青年と出会う

たくみ

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王女と青年

異世界の買い物

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 シューへーに促されて、彼と共に家を出る。
 一体何処へ連れて行かれるのか。
 焦土と化した大地でかろうじて、瓦礫を退けた簡素な道路を歩いて行くが、目印も何も無い場所をひたすら歩いてしまえば、帰り道が分からなくなってしまうのでは無いかと不安になる。
 当然異世界の地理など全く分からないが、ここまで歩いてきても、シューヘーと初めて会ったあの大きな橋は見えてこないのでどうやらそちらの方面では無さそうだ。

 どれ程歩いたか距離はよく分からないが、時間でいえば一時間は歩いただろうか、最もこちらの時間の単位と私の知っている単位は違うのかもしれない。
 そんな事よりも、これだけ歩いてようやく目的地らしき所に到着する。
 
 「ここは……市場ね」

 あの焼け野原の何処にいたのだろうと思うほどの人だかりに、地面に食料や衣類を置いて、道行く人達に声を掛ける店員と思われる人物。
 市場といえば、かつて社会見学の為にお忍びで都にある一番大きな市場を見に行った事がある。
 大勢の人々で賑わい様々な食料や衣類に生活用品、装飾品が露店に並べられており、その盛況ぶりに圧倒された。
 連日のように賑わっているのだと聞いて、民の暮らしが豊かである事はひとえに父の治世の賜物だと従者は言っていたが、実際に店主と買い物客の会話を聞いていると税金が安いから助かると言っていたのが思い出される。
 しかし、ここはまるで雰囲気が違う。
 盛況しているのは間違い無いのだが、市場に居る人々は皆やや殺気立っていて、ギスギスしているように感じる。
 このような状況なのだから、皆日々の糧を得るのに精一杯なのだろう。
 おそらく彼も食料を求めてここに来たのだ。
 しかし、目に留まるのは葉の付いたままの根菜類ばかりで、穀物や果物、精肉や魚介類等は何処にも見当たらない。
 ダメだ、比べてはいけない。
 状況が違うのだ、状況が……。
 そうこう考えていると、彼は店員と思われる人物と話し出した。
 どうやらここで買い物をするようだが、この濃い緑色の根菜は見たことがある。
 こちらに転移してきてから、主食になっているスープのメインの具材だ。
 とは言っても、まともな具材はこれだけなのだが。
 またこれなのかと呆気に取られていると、彼は手に持っていた荷物を取り出す。
 今度は何なのかと思っていると、彼の持っているものを見て私は首を傾げてしまった。
 衣類、シューヘーは何故か買い物をするのに服を取り出した。
 衣類は店員に渡され、広げられるがまるで品定めを行っているかのようだ。
 少しすると店員は服を受け取り、この食料は彼のものになった。

 (これは……物々交換ね。 初めて見たわ)

 歴史の勉強で習ったのだが、先史時代。 まだ通貨など何も無かった時代は、物と物を交換して自分の欲しいものを入手していたのだ。
 最も原始的な買い物の方法なのだか、通貨が発達した今、この国では見る事は無いだろうと歴史の先生は言っていた。
 この世界には通貨が存在しない……訳では無くおそらくなのだが、戦争によって国が混乱し通貨の信用が著しく低下、もしくは無価値になってしまった。
 故にやむなく物々交換を行っているのだろう。
 他にも何か袋のようなものを買っていたが、中身は見えないので何かはサッパリで分からない。
 
 買い物を一通り済ませたであろうシューへーは帰るようで、ついて来るように促される。
 私を連れてきたのは、それこそ社会見学の為なのかもしれない、奇しくも二つの世界の市場を経験する事になったのだが、その天と地程の差に私は、ただ驚く事しか出来なかった。
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