《戦》いの《鳥》と《少女》たちは二つの世界を舞う

たくみ

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03. 家族の戸惑い

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    (いやー、何とか間に合った)
   
     今朝は凄く慌ただしかったから、朝ちゃんと起きたのに学校に遅刻しそうになってしまった。
 席に着いてひと息つくと、今朝の出来事を思い返す。

    「とにかく、警察に連絡した方が良いと思う」

    家族の皆がひいばあの若返りに半信半疑だったが、父はあくまでも不審者として対応しようとしていた。
    それもそうだ、あり得ないことだし家族を守ることを優先すればこのような結論になる。
    だが、それに対してじぃじの意見はこうだ。

    「警察にどう説明する?    若返りを否定するなら、ばあさんが若い女性と入れ替わったとでも言うのか?    まともに取り合って貰えるとは思えんがな」

    これも正論だろう。
    父も頭を掻きながら困った顔をしている。

  「翔ちゃん、ごめんなさいね。    こんな事になってしまって」
 
 少女は申しわけなさそうな顔で謝る。
    
 「ばあちゃん……」

    「そうよ、あなたのおばあちゃんよ。    信じられないだろうけど」

 「うん、まあその信じる信じないは別として、とりあえず翔ちゃんは止めてもらえないかな? 子供達の前だし」

 「ああ、そうだったわね。 ごめんなさい」

 少女が自分をおばあちゃんと呼ぶ様は、大分違和感があるが、こうい言ったやりとりをしてしまえば警察に突き出す事など到底出来ないだろう。
    父もおあばちゃん子なのだ。
    家族の誰もがこの少女がひいばあだと思い始めた時、じぃじが事態の収集を始める。
    
    「あー、母さん取り敢えずその……。    前を整えて貰えないかな?」

    じぃじは自分の胸をトントンと指差す。
    ひいばあは着物の下に着る肌着で寝ていたのだか、若返ったことによりサイズが小さくなってしまい、前が大きくはだけているのだ。

    「やだ、私ったらこんな格好で」

 ひいばあは、慌ただしく胸を隠す。
    その様子を家族全員が見ている。
    そう、男女問わず全員がだ。

    「おにぃのエッチ!    なに、じーっと見てるの!」

    「えーっ、何で俺だけ?   父さんだって見てるじゃん」

    「何を言い出すんだ!    ばあさんのなんか見たって、別にどうとも思うわけないだろう。    それに親父だって見てるんだぞ」

  「あらあら、どうとも思わないと言う割にはじっくり見てるじゃない?」

    「いや、ちょっと母さん……」
 
    「ハハ、息子だから小さい頃は一緒に風呂に入ったりもしたさ。 しかし、俺の記憶にある母さんより大分若いな。 年の頃は十四、五といった所か」

 どうこう言っている間にひいばあは肌着を整える。
    だが、サイズが小さいのを無理やり着ているので、体のラインが強調されてしまい、先ほどよりもセクシーになってしまっている。

    「ふーむ。    結衣さん申し訳ないが、母さんに服を貸して貰えないかな?」

    「ええ、私も今そう思っていました。    ただ少し小さいかもしれませんが……」

    母の身長は確か百五十七センチだが、若返ったひいばあはもう少し背が高い。
     百六十五センチはあるかもしれない。

    「さ、おばあちゃん行きましょう」

    「ええ、ごめんなさい。    迷惑を掛けてしまうわね」

    「さ、ほら皆は朝飯だ。    早くしないと遅れるぞ」

 「えーっ、こんな時に学校行くの?」

 「当たり前だ。 こんな理由で学校や会社が休める訳無いだろう」

 確かにその通りだ。
 そう、だから私は今学校にいる。
 学校に来たのはよいものの、はっきり言って授業の内容なんか全然頭に入って来ないし、友達との会話も完全に上の空だ。
 
   学校が終わると、家路を急ぐ。
   今日は空手の道場の日だが、どうせ身が入らないだろうからサボリだ。
    ひいばあのことが凄く気になる。

 (ずっと若返ったままなのかな? 帰ったら元に戻ってたりしないのかな?)

 「ただいま!」

    玄関をかけ上がり、リビングに向かうと割烹着を着た少女が台所に立っているのが目に入る。

    「お帰りなさい」

    戻ってはいない、若返ったままだ。

    「夕飯の支度?」

    「ええ、いつも結衣さんに任せきりだからたまにはね。    浩平も好きに作って良いと言っていたから」

    火にかけられた鍋からいい香りが漂ってくる。
    カレーの匂いだ。

    「ばぁば直伝の特性カレー?」

    「そうよ、久々に食べたくなったの」

    「あー、そっか、そうなんだ。    うーん」

 「どうかした?」

    「私、まだ食べたこと無いんだ。    ばぁばの特性激辛カレー」

    ひいばあは「しまった」といった表情になる。
    そう、このカレーはとても辛いのだ。
    元々は、辛いもの好きのひいばあの為に作られたもので、ばぁばが作っていた頃は、子供達の為に別に甘口カレーを作っていた。
    亡くなってからは、わざわざ別に作るのは面倒と、食卓に上る機会がめっきり減っていたのだ。

    「ごめんなさい。    私、全く考え無しに作ってしまって」

    「大丈夫だよ。    私食べる。    挑戦してみるよ」

    おにぃも中学生になった時に、激辛カレーに挑戦していた。
    悶絶しながらも、美味しいと食べていたのが思い出される。

    今日は久々に、家族全員揃って夕飯を食べた。
    仕事の忙しい父も、早めに切り上げてきたという。
    久々の激辛カレーにひいばあ意外の全員が、顔を真っ赤にして、むせながら食べ進めている。
    もの凄い辛さだが、美味しい。
    いや、逆だ。
    食べて直ぐは美味しいのだが、少しすると脳天を突き刺すような辛さが襲ってくる。
    だが、辛さは後を引かないので、何とか食べることが出来るのだ。

     (うーっ、美味しいけど辛い!    それにしても不思議だなぁ、どうやって作るんだろ?    今度、ひいばあかお母さんに習って、作る方にも挑戦してみよう)

    夕飯が終わると家族会議、もといひいばあへの質問を皆で行う。
    家族の名前や生年月日、自身との続柄、思い出等、様々なことを聞く。
    そして、最終的にある結論にたどり着く。
    やはり、この少女はじぃじの母親であり、父のおばあちゃん、私のひいばあ事、山代理音(りね)その人なのだ。

    「ふーむ。    まぁ、母さんで間違い無いとして、やはり問題はその容姿だな。    若返りに関して、何か心当たりはないのかな?」

    「……ごめんなさい。    何もわからないわ」

    ひいばあは今日、謝ってばかりだ。

    「しかし、まぁ……ばあちゃん本当に美人だったんだなぁ」

    若返ったひいばあは目鼻立ちが整っており、特に目はくりっとしていて愛らしい感じだが、灰色がかった青い瞳が神秘的に見える。
    真っ白だった髪も黒々として艶やかさを取り戻しており、緩く綺麗なウェーブがかかったその髪は以前と同じく、首筋を覆うくらいの長さだ。

    「私、こんなに綺麗な人の隣を歩けないわ」

    身内でひいばあと並んで遜色無いのは、今は亡きばぁばか、その娘である美羽みはねおばさんくらいなものだろう。
    母が隣を歩けないなら母似の私だって同じだ。
    
    「ハハハ、母さんは美人だったからなぁ、俺も嫁さん選びには苦労したよ」

    「何言ってるの。    あなたのお嫁さんは幼なじみで、選ぶとかそんな事はなかったでしょう?」

    ひいばあはやや呆れた表情でツッコミを入れるが、じぃじの笑った顔を見てつられて笑顔になる。
    今日若返ってから、始めて見せる笑顔だ。

    「お義父さん、美羽には言わなくて宜しいんですか?」

    「うむ、直ぐに会って話せる所に居る訳では無いからな」

    「親父、今の世の中テレビ電話でも話せたりはするんだが……」

    「いや、いい、あの人間拡声器に言ったが最後、絶対にややこしい事になるに決まってる」

    「皆もわかっていると思うが、この事はくれぐれも内密にな。    さ、とりあえず今日の所はこれでお開きだ」

 家族会議が終わると自室に戻り、ベッドに寝転んで、先ほど決まった内容をおさらいする。
    ご近所にしかり、ひいばあを知っている人は少からずいるので姿を見かけないのは、体調を崩して伏せっている事にして当面の間はしのごうと決まった。
    若返ったひいばあは、美羽おばさんの娘、私のいとこがホームステイに来ている事にしようと決まった。
    ひいばあの事は内緒なのに何だか申し訳ないと思ってしまうが、他に良い言い訳が思いつかないのも確かだ。

    それにしても、若返ったひいばあはまるでお姫様のようだ。
    それに比べて私は、でこっぱちのメガネだし、目も小さいし、鼻も低い。
    血縁にあるはずだが、三親等以内でもひ孫ほど離れてしまえばこんなものなのだろうか。
    ……これ以上考えても仕方がないので思考を切り替える。
    最近見るようになった鳥の夢の事だ。

    (ひいばあの若返りと何か関係があるのかな?)

    特に理由など無い。
    ただ、何となくそう思ってしまうのだった。
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