《戦》いの《鳥》と《少女》たちは二つの世界を舞う

たくみ

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08. 変わり行く日常と変わらぬ世界

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    休み明けの学校は例の話題で持ちきりだった。
    幸いな事に、クラスメイトに襲撃の現場に居合わせた人はおらず、全校生徒単位でも怪我をした人はいなかった。
    私が助ける事が出来なかった襲撃を受けた人達も、重軽傷者は多数いたものの、死者はいなかった。
だが、ひいばあが言っていた通り厄災に傷を負わされた人の治療には時間が掛かり、社会復帰が難しい状態だという。

    「……ちゃん   羽音ちゃん」

    「え?    何?    ごめん、考え事してて……」

    「ううん、良いんだけどね。 羽音ちゃん休みに駅に出るって言ってたじゃない? 大丈夫だったの?」

 「ああ、うん。 もう駅を離れた後だったから」

 何ともやりにくい。
 実際にはあの場に居合わせたばかりか、身内にあれらを撃退した人物がいるなどとは口が裂けても言えない。
 友達との会話も何処かよそよそしくなってしまう。

 (それにしてもあの人大丈夫だったかな?)

 ふと正拳突きを喰らわせた男の子のことを思い出した。

 「あー、いた! やっぱり一年だった。 どっかで見たことあると思ったんだよなー」

 聞き覚えのある声のほうを向くと、あの時の男の子と目が合った。

 (あの時の! ヤバい、同じ学校、しかも一個上!)

 「ねえねえ君、あの黒いパワードスーツの人と知り合いでしょ? 何者なの?」

 クラスの皆がこちらを注目している。
 非常に不味い、映像は残っていないが目撃者が多数いる為、黒鳥の事も大分話題になっているのだが、やはりひいばあと連れ立っているのを見られていたのだ。

 「知りません……。 人違いじゃないですか?」

 「えーっ、そんな訳無いじゃん。 ほら、あの時さぁ……」

 「おい! そこの二年生。 チャイムは鳴ってるぞ!」

 野太い大きな声が教室中に木霊する。
 私達の担任の九条先生だ。

 「はい! すいませんでした!」

 逃げる用にして教室を去っていく、何にせよ助かった。

 「全く……。 皆も不安なのは分かるが冷静に行動するように、授業を始める前に今後の事を幾つか説明するのでよく聞くように」

 先生の話によると今日の所は午前中で学校は終わりで、明日から通常に戻るとの事で、他には通学路には警察官が配置されるので何かあれば直ぐに報告する事、居住民以外は保護者の付き添い無く駅周辺に出ない事等が伝えられた。

    今日はもう午前中で終わりだから、さぼり気味だった道場に行こうと思う。
    因みにホームルームが終わると私は脱兎の如く駆け出し、学校を後にした。
    友達には彼の言っていた事を全力で否定したので、これ以上付きまとわれる訳にはいかない。

    「ただいま」

    誰の返事も無いが、ひいばあは出かけてしまったのだろうか。
    近所の目もあるので、余り出歩かないで欲しいと思うが家に閉じ込めておく訳にもいかない。
    部屋に居るかもと思い向かったのだが、縁側を通る際に裏庭に黒い物体を発見する。
    それは……

    「うわっ!    黒い鳥」

    ひいばあの戦鳥、黒き死の翼が裏庭に佇んでいる。

    「お帰りなさい」

    ひいばあは縁側に腰かけていたのだが、死の翼に気を取られて気付かなかった。

    「……何してるの?」

    ひいばあの手元には色々な図形や数字のようなものが光で描かれている。
    それをタッチパネルのように指で送ったりなぞったりしているのだが、パネルは空中に浮いているので明らかにこの世界の技術では無い事が分かる。
    これはもしかして魔法なのだろうか。

    「久しぶりの戦闘だったから、翼に異常が無いか調べているのよ」

    ひいばあが前回死の翼を纏ったのは実に半世紀以上前の事だ。
    その間ずっとほったらかしたままで大丈夫なのか気になって聞いてみた。

    「戦鳥は多少の傷であれば自分で治癒出来るのよ。   人間のようにね」

    凄い、これが異世界のオーバーテクノロジーというものだろうか。

    「あの厄災をやっつけた青い光は何?」

    あの時の上級生男子はビームだのレールだのと言っていたがそうなのだろうか。

    「私達は光の矢と呼んでいたわ。    厄災を切り裂いたのは光の刃。    魔法の一種ね」

    魔法か、私は近づいて死の翼を見る。
    メタリックなボディには繋ぎ目など見当たらないが、何処がどうなって鎧もといパワードスーツになるのだろうか。

    (うーん……    分からない)

    見ただけでは構造が分からないので、思わず手を伸ばしてみる。

    「触っては駄目よ」

    ひいばあの言葉に手を引っ込める。

    「どうして?」

    「戦鳥は契約者以外に触れられる事を嫌うわ。   迂闊に触ると攻撃されるわよ」

    そんな危ない事は早く言って欲しかったのだが、良く見ると鳥の形態でも光を放つ棒が飛び出ており、こちらを向いている。
    私はゆっくりと避けるのだが、死の翼も避けた方へ棒を向ける。

    「ちょっと何でこっち向くの?    ひいばあ何とかしてよ!」

    「全く、私のひ孫をからかわないで頂戴。   ……そうね。   私以外の人を近くで見るのは久々よね」

    「ひいばあ、もしかして戦鳥としゃべっているの?」

    「そう、戦鳥の声が聞こえるのは契約者のみよ」

    つくづく不思議なものだと思うが、戦鳥の状態は問題無いのだろうか。

    (……永らく放置していたせいか、回復が滞っている箇所がいくつかあるわね。    このままの状態で何処までもつか……)

    「さ、取り敢えずは問題無さそうね」

    確認を終え戦鳥は光の絵の中へ消えて行く。
    ひいばあはこれから夕飯の支度、私は道場に行く準備をする。

    (あー、今日も一日疲れたー)

    道場も終わり、一日の疲れを癒す為に湯船に浮かぶ。
    そう、私は浸かるのでは無く身を投げ出して、ぷかぷか浮いているのだ。
    何故こんな事が出来るのかというと我が家の男性陣は背が高く軒並み百八十センチオーバーなので、浴槽を特別に大きく作ってある為、私くらいの背丈ならこのような事が出来るのだ。
    もちろんこの入浴方法は家族には秘密にしている。
    いい年してと言われるだろうからだが、こんな事が出来るのは今だけだと思う。
    いや、むしろ今だけであって欲しい。
    私は身を百八十度捻りうつぶせの状態になる。
    湯面ゆおもてから覗く二つの膨らみが視界に入り、道場での事を思い出したからだ。
    そう、それは稽古が終わり着替えていた時の事。

    「ねー、はおちん。    ちょっと聞いていい?」

    (みーちゃん、はおちんは止めて欲しいなぁ……)

    「どしたの?」

    彼女の名は三堂楓みどうかえで
    小学校からの仲の良い友達なのだが、彼女は私立に進学した為、道場以外で合う機会が減ってしまった。
    私も中学で新しく出来た友達との関係が構築されているので、益々疎遠になってしまうかもしれない。

    「私さ、学校遠いから早く家を出るでしょ?    はおちん家の前通った時に玄関を掃除してる女の人にあいさつされたから、返したんだけどあれって誰?    凄い美人だよね」

    ひいばあの事だ。
    朝弱いのだが、たまに早起きして玄関を掃除していた所を見られてしまったのだろう。

    「えーと、従姉妹がホームステイに来てるんだ。    お父さんの妹さんの娘さんなの」

    「へー、そーなのかー」

    取り敢えずマニュアル通りの返答だが、怪しまれてはいないようだ。

   (……それにしても、みーちゃん可愛いブラしてるな。    私なんか道場ってのもあってスポブラなのに。    しかも、何か成長してない!    あぁ、みーちゃんまで私を置いていってしまうのか……)

    背格好や体型が似た者同士、最後の仲間だと思っていた。
    まぁ、私が勝手にそう思っていただけなのだが……。
    回想を終えると、連続して体を捻り回転する。
    何となく体を引き締める効果があるような気がするからなのだが、突然「ガラッ」と浴室の戸が空く音がするので、回転を止める。
    年頃の女の子が入浴中だというのに堂々と入ってきた人物はこれまた年頃の女の子だ。

    「ひいばあ!    ちょっと、何で入ってくるの?」

    但し、中身は後期高齢者なのだが……。

    「良いじゃない。    小さい頃は貴女をお風呂に入れていたのよ。    それより何?    その入り方は」

    不味い、見られてしまった。
    私は浮かぶのを止めたが、ひいばあは言いはしたものの大して気にしていないようだ。
    「キュ」と蛇口を捻りシャワーを浴び始める。
    ひいばあの体を伝う水流が描く曲線は私では不可能だが、それより背中の絵に目が向く。
    刺青の様だが、ひいばあは刻印と呼んでいた。
    戦鳥との契約の証なのだが、こちらではこの年頃の女子の背に決してあってはならないものだ。
    きっと大問題になるに違い無い。
    最もこの価値観は最近になってのもので、昔はもっと寛容だったからひいばあはこれまで何とかやってこれたのだろう。
    
    ひいばあが頭を洗い出したタイミングを見計らって私は湯船を出て浴室を後にする。

    「ちゃんと洗ったの?」

    「洗ったよ。   もう、小さい子どもじゃないんだから」

    全く、ひいばあの中で私は何歳止まりなのだろうか。

    リビングで入浴後の一杯を堪能していると、茶の間でじいじがテレビを見ているのが見えた。

    「じいじも牛乳飲む?」

    「ああ、頂こうか」

    ニュースでは既に厄災関連の扱いは小さいものになっている。
    録な映像が無く、取り上げづらいからだそうだが、結局そんなもので優先順位が決まってしまうのだろう。
    そんな中、政府の見解が述べられる。

    「やはり、自衛隊は出せないか」

     災害とは言いがたいことや、戦闘となると近隣諸国の反応もあり難しいとの事だ。
    もし、また厄災が現れたらひいばあが戦う事になるのだろか。
    そうならないように今の私には祈る事しか出来ない。   
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