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134. 決着(後編)

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 二つの世界に居場所は無い…そう断言するノーマに対する私の答えはーー

 「ノーマ…そう思っているのは貴女の方よ!」

 「何?」

 「貴女もこの世界に居場所が無いと思っている…いえ、私は居場所が無いとは思わない!」

 「…!」

 「世界の何処かに私を受け入れてくれる場所がある! それを探すのよノーマ!!」

 「探しても無ければどうする!?」

 「…無いなら創ればいいの! 自分の居場所は自分で創れる、それを証明してみせるわ!!」

 「証明…だと?」

 「勝負よノーマ! 私が勝って、正しさを証明してみせる!!」

 「出来るモノならやってみろ!!」

 手加減などしない、砲の魔力が尽きる前に全力で叩きこむまでだ。

 「消えて…無くなれぇ!!」

 
 「お願い翼よ…私を護って!!」


 想いの翼は避ける事無くいかづちの直撃を受ける…全力で放った雷撃は対象の周囲を帯電し、その様子は判然としないが雷を放った刹那、翼は折り重なるようにして想いの翼を包み込んでいたのだが、果たしてその結果は…。

 
 「やった、のか…?」

 『…来る!』

 「なっ!」

 プラズマの中から勢いよく飛び出してきたのは、五色の光に包まれた想いの翼…ハッとして砲をかざしても、魔力が尽きているので最早雷が放たれる事は無い。

 「うおっ!」

 予想以上の速度で勢いよく突っ込んでくると、肩を鷲づかみにして地面に向かって降下して行く。 このままでは地面に打ち付けられてしまうが、抑えられている腕力とは別の何かによって体の自由が利かなくなってしまっている。

 「ええぃ!!」
 
 「かはっ! ぐぅ…」

 碌に抵抗出来ずに地面にしこたま打ち付けられてしまった…全身に衝撃が走り自身が電撃で撃たれたかのうような衝撃が伝わってくると同時に、これ以上の戦闘続行は不可能だという事を理解せざる負えない。

 「私の負けだ……どうした、止めを刺さないのか?」

 「そんな事出来ない」

 「また甘い事を…なんだ、何故顔を晒す? …どうして、泣いているんだ」

 マスクを展開し顔を見せると、幾度と無くその目から零れ落ちて来るものがある。

 「戦っている最中さなかに貴女の記憶が流れ込んできたの…」

 そう…彼女は厄災によって家を、故郷を失い父親も失ってしまった。 何とか母親と逃げ延びたが難民となって各地を流浪し、やがては母親も命を落としてしまい…。
 絶望に打ちひしがれる中、それでも父親代わりになってくれた人がいた、でもその人も戦争で…。

 「ノーマ、貴女は…」

 「私の頭の中を勝手に覗くな…」

 「ごめんなさい……ねえ、お願いノーマ私と一緒に戦って欲しいの」

 「……」

 「お願い、私まだ上手く飛べないのだから…」

 「分かった、分かったからもうどいてくれないか…涙がしょっぱいんだよ」

 「あ…」
 
 こちらがマスクを展開するとノーマも素顔を見せてくれたのだが、馬乗りになったまま泣いてしまったからだ…。

 「全く、人の顔の上でボロボロと…」

 「ごめんなさい」

 「でも、私の為に泣いてくれる者がいるとはな…この世界も捨てたもんじゃ無い」

 「そうよ…簡単に諦めないで」

 
 彼女からはこちらに対する敵意はもう感じられない、上半身を起こしてその目に遠く映るのは怪我人の救助を行う兵士たち…もう戦っている者は誰も居ない。

 「終わったのだな」

 「うん…」

 戦いが終わったと安堵していると、刻印に反応があるのだが複数の翼がここに向かっているようだ。 空を見上げているとやがては大翼と炎の翼が見えて来るのだが、その後方から希望の翼も向かって来るのが視認出来る。

 「まだ…この感じはヒナさんか」

 遅れて護りの翼も静かに地面に着地する。

 「凄い、全ての翼が揃ったんだ…」

 降り立った翼の戦士たちがマスクを展開して行くのは、戦闘の意思が無い事の表明だ。 

 「羽音、貴方は…」

 「ひいばあ…ゴメン、また約束破っちゃって」
 
 
 「様子から察するに羽音に軍配が上がったようね」

 「まさか、蒼い翼に勝利するとは…」

 「いやぁ、勝ったと言うか何というか」

 勝負とは言ったものの、勝ち負けを争う事が目的では無かった…いずれにしても、もう終わったのだからこれからどうするかを考えねばならないのでは無いだろうか。
  
 「ねえ…貴女たちはこれからどうするの?」

 「世良さん…」

 蒼い翼と翠の翼に投げかけられた問いは、私も気になる所だ。 いや、ノーマは共に戦ってくれる筈なのだがもう一人、ヒナさんの答えはとは…。

 「…時は来たれり」

 「時? どういう事です?」

 こちらの問いに対する的外れな答えに、皆頭の上にはてなマークが浮かびあがっている所だろう。 しかし、一人だけ神妙な顔をしている者がいる。

 「時が来た…貴女一体」

 ひいばあが何かを言いかけたその時、突如として「ゴウッ」と大きな音が響き、地面がかすかに震える。

 「え! 地震!?」

 一瞬地震かと思ったが震えているのは寧ろ大気と言った方がよいだろう、この現象に周囲の兵たちも驚いているようだが、その原因は程なくして判明した。

 「あれは! 神山の雲が…」

 「晴れて行く」

 再び雲が晴れて神山がその全容を見せるのだが、かつてと違うのは山頂付近が露出する程度では無く、一切の雲が霧散してしまった事だろう。 天を突く巨大な山は正に神山と呼ぶに相応しいのだろうが、見とれてばかりもいられない。

 「一体どうして?」

 誰もがそのような疑問を持った時、とある変化があるのだが。

 「山頂付近が光ってませんか?」

 きらりと光ったかと思うと、はこちらへと向かって来る。

 「え!? ああっ…!」

 私たちは神山から伸びた光の帯に打たれてしまうのだが、その光に包まれてしまったかと思うと景色が揺らいだ次の瞬間、全てが真っ白な空間に放り出されてしまう。

 「わっ! っと…」

 難なく着地する事が出来たのだが、これは何が起こったのだろうか…白一色の空間かと思ったが、どうやら光で満たされているようだ、恐らく何処かへ転移したのかもしれないがここは何処なのだろう?

 「ここは一体?」

 「…神の住まう家、そう呼ばれているわ」

 「ええっ! ここがそうなんですか?」

 突然の神の住まう家への転移…翼ある者を集めて何をしようというのだろうか…。
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