【ヒーロー追放】防衛隊から追放された俺、「ざまぁ」そっちのけで世界を守っていたら、後釜の防衛隊員に復讐を誓われていた

白慨 揶揄

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4話 女子高生と土鬼

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「ちょっと、君!! ここは関係者以外立ち入り禁止だよ?」

 俺の声に少女はビクリと身体を震わせる。
 Mのように癖着いた前髪と青いカチューシャが特徴的な少女。いきなり声を掛けられたことにキョトンとする。

「あれ、そうだったんですか? いやー、知らなかったです」

「知らなかったって。じゃあ、なんでこの中に入ろうとしたの? ここは【ダンジョン】でも特別なんだ」

「知ってるよー! 【門扉クローズダンジョン】だよねー!」

「知ってるじゃん!!」

門扉クローズダンジョン】。
 それは、世界でも二桁しか観測されていない特殊なダンジョンに付けられた名前だ。
 通常の【扉《ダンジョン》】は、そこから現れる【魔物《モンスター》】の進行を防ぐか、ボスを倒すことで扉を閉じることが出来る。
 俺が昨日倒した【大鬼《オーガ》】はボスに当たる。故に倒した時点で洞窟は消え、ただの岩肌が向きだした崖に戻っていた。

 だが、【門扉《クローズダンジョン》】は戻らない。
 進行を防いでもボスを倒しても、開いた扉が閉じることはない。
 だからこそ、こうして【壁】で囲い【魔物《モンスター》】の流出を抑えていた。
 また、【魔物《モンスター》】が湧いてくる性質を利用し、若い防衛隊の訓練場としても活用されている。

 そんな場所に入ろうとしたら、どんな罪に問われるか。
 しかし、少女は若さゆえか自分が犯そうとした危険に気付いておらず、

「はっ。しまった。私としたことが人の良さしか取柄がなさそうな男に図られるとは!!」

「いきなり君失礼だね」

 人の良さしか取柄がないと出会ったばかりの少女に言われるとは。
 声を掛けなければ良かったと後悔する俺に、服の中に隠れたガイが笑う。

「ちげぇねぇな」

「うん? 今、誰かの声がしなかった?」

 ガイの声が聞こえたのだろうか。
 少女は周囲に人がいないか探す。
 流石に失礼な少女でも、声の主がハリネズミの人形だとは思っていないだろうな。

「俺には聞こえなかったけど? そんなことより、君はなんでこの場所にいるんだい?」

「それは勿論、私がダンジョンを攻略するためよ!!」

「攻略って一般の人が出来るわけないじゃないか」

「やってみなきゃ分からないでしょ!!」

 少女が一歩前に出て俺に詰め寄った時――【壁】の一部が崩れると共に、一匹の【魔物《モンスター》】が現れた。




「も、【魔物《モンスター》】!! 初めて見た!! これって私が名を売るためのチャンスだよね!? 神様が私を試してるんだよね!?」

 少女は目を輝かせて【魔物《モンスター》】を見つめる。
 俺は少女がまた暴走しないように注意しつつ、【魔物《モンスター》】の観察をする。

 大きさは小学生程度で瘦せ型。鼻が異様にでかく肌が岩のように突起している。そして何よりも特徴的なのは、手に付いた黒い鉱石のような爪だった。

「【土鬼《グロット》】!!」

「なんだ、リキ! こいつ知ってんのかよ? 俺は初めて見るぜ!」

「ああ。タイプとしては【小鬼《ゴブリン》】、【大鬼《オーガ》】と同じ種族に分類されてる。でも、ここは……!!」

 この【門扉《クローズダンジョン》】で出現するのは、主に【涅《スライム》】のみ。故に訓練所として使用されている。
 なんでそんな場所に【土鬼《グロット》】が?

「いや、今はそれはどうでもいいか。とにかく、こいつを早く倒さないと侵略される。そうなったら、被害はもっと酷くなる。けど――」

 俺の隣には少女がいた。
 カバンから裁縫ハサミを取り出して構える。
 銃弾すら効かない【魔物《モンスター》】がいる中で、頼りなさすぎる武器だ。
 無くてもいい位の武装である
 というか、俺としては、何も持たずに早く逃げてくれと思うのだが。
 しかし、少女は「いやあああ!!」と気合の声と共に飛び出していった。

【土鬼《グロット》】は近づいてくる少女に、ニヤリと笑うとそのコンクリの【壁】すらも破壊した爪で少女をも砕こうとする。

「ヤバい……! ガイ!!」

「あん?」

「あん? じゃないよ! あの子がやられるぞ!」

 俺はそう言って少女たちに向かって飛び出す。

「でもよぉ。ここ、【ダンジョン防衛隊】の近くだぜ? 俺の力使っていいのかよ。それに、あいつと出会ってまだ3分だ」

 ここで俺達が【鎧】を発動すれば、もしかしたら【ダンジョン防衛隊】にバレるかもしれない。
 出会って3分の少女のために危険は犯せないとガイは俺の頭の上で胡座をかいだ。

 ガイの言うことは正しい。
 自分たちの身を守るために俺は【ダンジョン防衛隊】を追い出されたんだ。
 でも――、

「俺は世界を守りたいんだよ。だから、力を貸してくれ!!」

 俺の叫びにガイが応える。

「まったく、しゃーねーな!! 正体バレること恐れて追放されたのに、今度は力を使わないと怒るとか――理不尽極まりないぜ?」

 不満を口にするが、乗り気なのは態度で分かる。
 こういう展開ーー嫌いじゃないだろう?

 一緒に戦うようになって3ヶ月。ようやく好きな物が分かり始めた。

「行くぜぇ!」

 ガイは服から飛び出すと光り輝き粒子となる。そして、宙に散った粒子は俺に集まり身体を覆う鎧となった。

 少女が腹部を貫いてくださいと言わんばかりに、腹部を晒して裁縫ハサミを振り上げる。

【土鬼《グロット》】の爪が少女にへと突き刺さる瞬間に、俺は少女を抱えて回避する。

「う、うわあああ! や、やられた!!こいつ強いよ!!」

 抱えられた衝撃が敵からの攻撃だと思ったのか、腕の中で手足をバタつかせて騒ぐ。

「て、あれ……? え! 今度は鎧の【魔物モンスター】? 一気に二匹と戦うことになるなんて、腕がなるよ!!」

『なあ、こいつちょっと黙らせた方がいいんじゃないか?』

 鎧となったガイが呆れたように言う。
 俺は無言で同意するが、だからと言って少女に手を上げる訳にはいかない。優しく地面に下ろすと、すぐに距離を取って【土鬼グロット】に近づく。

「ガァアアア!!」

【土鬼《グロット》】は両手を広げて俺に向かってくる。

「やっぱり習性は同じだね」

【魔物《モンスター》】は全般的な弱点として知能の低さが上げられる。正面から向かってきた相手の攻撃に合わせるように俺は拳を振るう。

『喰らえ! 【勇者の鎧――右《みぎ》の迎拳《げいげき》!!】』

 攻撃に合わせてガイが叫んだ。
 
 相手の力を利用し何倍にも威力を高める。それは数多の格闘技や競技で用いられる人間の技術。
 当然、カウンターなど受けたことなど無いのだろう。自身の攻撃の勢いをそのまま身に受けた【土鬼グロット】は、【壁】にぶつかると、力なく頭を垂れた。
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