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30話 味方からの逃走
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「残ったのはお前だけだ。こうなりたくなかったら、降参することをオススメする私だ」
右腕に着けた鋏を俺に向ける。
なんと狂気じみた光景だろうか。侍のような女性が巨大な鋏を手に付けて笑う。
俺は立花さんに、自らの正体を伝えようかと悩む。
このまま隠し続けるのも限界があるし、いずれバレるのは確実だ。
だが――。
やはり、まだ、【ダンジョン防衛隊】を完全に信じられるとは思えなかった。
勿論、立花《りっか》さんのこ信頼している。
だが、その彼女の性格を知っているがために、言えなくなることもある。
立花《りっか》さんは本気で話せば誰とでも分かり合えると――本気で思っているのだ。
自らの利益のために部下を犠牲にする組織の権力者達さえも。
「……」
沈黙を貫く俺に立花さんは言う。
「ふむ。やはり、なにも言わないか。しかし、助けて貰ったのも事実だ。そのことに関しては礼を述べさせて貰うとしよう」
姿勢をただし僅かに頭を傾けた。
だが、その視線は完全に地面には向けられていなかった。鋭い視線で俺の動きを観察する。
右腕に着けた鋏も直ぐに対応出来るように構えたままだ。
恐らく――俺が襲ってこないか試したのだろう。
完全に味方だとは考えてくれないらしい。
「そう言えば――恩を仇で返す人間がいるらしいが、そもそもの問題は恩を売ったと考える人間がいることじゃないだろうか? そんなにんげんは仇で返されても仕方ないと思う私だ。だから、助けたからと言って自分も助けてもらえるとは思わないで欲しいな」
チャキ。と拳銃を左手に握る立花《りっか》さん。
完全な戦闘態勢だ。
こっちは【二重武装】の反動でガイに負担が掛かってるのに。
『こいつ無茶苦茶だぜ……。くそ、俺はそろそろ限界だ』
「分かってる。でも、もうちょっとだけ踏ん張ってくれ」
「なにをぼそぼそと言っている!?」
立花《りっか》さんは話す俺達の行動を不審だと判断したのだろう。
迷わず攻撃を仕掛けてくる。
着弾すると凍る弾丸。
厄介ではあるが、避けれない攻撃ではない。
俺は一歩身体をずらして回避する。
だが、俺が身体を逸らした方に二発の弾丸が放たれていた。
「くっ……」
完全に油断した。
【魔物《モンスター》】ならともかく、人間になら負けないとどこかで思ってしまっていた。
俺は馬鹿か。
相手はあの立花《りっか》さんだぞ?
着弾した肩から氷が広がっていく。
ガイが凍った部分だけ【鎧】を収納させた。
『こいつ、こんなに強かったのかよ」
攻撃が避けられるのは前回学習済みって訳だ。
ならば、敢えて避ける方向を誘導し、二の手で倒そうとしたのか。なんて戦闘センスだよ、立花《りっか》さん。
自分で前線出た方がいいって!
「ガイ、素材を出してくれ!」
『ああ。でも、そろそろやばいぜ? これがラストだと思ってくれ!』
ガイはそう言って【口蝸牛《マウスネイル》の渦殻《カカク》】を収納空間から取り出した。
俺はそれを手に取り、【二重武装】するでもなく、素材のまま立花《りっか》さんに向けて投げ付けた。
「なっ!」
唐突に現れ、飛来する素材に立花さんの反応は遅れる。
単純な投擲ではあるが、無から有が生まれる攻撃に立花《りっか》さんの対処は遅れる。
後手に回った立花《りっか》さん。
右手の鋏で【口蝸牛《マウスネイル》の渦殻《かかく》】をはたき落とす。勢い自体はそれほどなく簡単に撃墜されるが、最初から攻撃が目的じゃない。
俺が逃げる時間を付くるのが目的だった。
その隙を利用して屋上から飛び降りる。
落下の途中で木々の枝を掴み入口へと引き返す。
廃病院の玄関にはうろうろと歩き回り、中を覗き込む川津 海未がいた。彼女は俺の姿を見ると捲し立てるように、立花《りっか》さんが中に入っていったことを告げる。
「な、中に立花さんが! それに凄い音もして……!」
「ああ。分かってる。でも、大丈夫だから早くこの場を離れよう!」
俺は【鎧】を解除してバイクに跨つ。
後ろを確認するが、立花《りっか》さんの姿はなかった。
素材を失い、未知の【魔物《モンスター》】と言う不安要素を残して俺は【扉《ダンジョン》】を後に下のだった。
◇
死体の山が転がる厨房。
切り刻まれた肉体を手に取り吟味するように月夜に照らす。
「り~ひっひ、り。そうですねぇー。いい切れ味だ。しかし、次は何を創りましょうか? り~ひっひ、りひひ。笑いが、笑いが止まらないですねぇ。理想ですぅ!」
死体の山の上を転がって笑う男。
その狂気の存在を誰も気付くことは無かった。
右腕に着けた鋏を俺に向ける。
なんと狂気じみた光景だろうか。侍のような女性が巨大な鋏を手に付けて笑う。
俺は立花さんに、自らの正体を伝えようかと悩む。
このまま隠し続けるのも限界があるし、いずれバレるのは確実だ。
だが――。
やはり、まだ、【ダンジョン防衛隊】を完全に信じられるとは思えなかった。
勿論、立花《りっか》さんのこ信頼している。
だが、その彼女の性格を知っているがために、言えなくなることもある。
立花《りっか》さんは本気で話せば誰とでも分かり合えると――本気で思っているのだ。
自らの利益のために部下を犠牲にする組織の権力者達さえも。
「……」
沈黙を貫く俺に立花さんは言う。
「ふむ。やはり、なにも言わないか。しかし、助けて貰ったのも事実だ。そのことに関しては礼を述べさせて貰うとしよう」
姿勢をただし僅かに頭を傾けた。
だが、その視線は完全に地面には向けられていなかった。鋭い視線で俺の動きを観察する。
右腕に着けた鋏も直ぐに対応出来るように構えたままだ。
恐らく――俺が襲ってこないか試したのだろう。
完全に味方だとは考えてくれないらしい。
「そう言えば――恩を仇で返す人間がいるらしいが、そもそもの問題は恩を売ったと考える人間がいることじゃないだろうか? そんなにんげんは仇で返されても仕方ないと思う私だ。だから、助けたからと言って自分も助けてもらえるとは思わないで欲しいな」
チャキ。と拳銃を左手に握る立花《りっか》さん。
完全な戦闘態勢だ。
こっちは【二重武装】の反動でガイに負担が掛かってるのに。
『こいつ無茶苦茶だぜ……。くそ、俺はそろそろ限界だ』
「分かってる。でも、もうちょっとだけ踏ん張ってくれ」
「なにをぼそぼそと言っている!?」
立花《りっか》さんは話す俺達の行動を不審だと判断したのだろう。
迷わず攻撃を仕掛けてくる。
着弾すると凍る弾丸。
厄介ではあるが、避けれない攻撃ではない。
俺は一歩身体をずらして回避する。
だが、俺が身体を逸らした方に二発の弾丸が放たれていた。
「くっ……」
完全に油断した。
【魔物《モンスター》】ならともかく、人間になら負けないとどこかで思ってしまっていた。
俺は馬鹿か。
相手はあの立花《りっか》さんだぞ?
着弾した肩から氷が広がっていく。
ガイが凍った部分だけ【鎧】を収納させた。
『こいつ、こんなに強かったのかよ」
攻撃が避けられるのは前回学習済みって訳だ。
ならば、敢えて避ける方向を誘導し、二の手で倒そうとしたのか。なんて戦闘センスだよ、立花《りっか》さん。
自分で前線出た方がいいって!
「ガイ、素材を出してくれ!」
『ああ。でも、そろそろやばいぜ? これがラストだと思ってくれ!』
ガイはそう言って【口蝸牛《マウスネイル》の渦殻《カカク》】を収納空間から取り出した。
俺はそれを手に取り、【二重武装】するでもなく、素材のまま立花《りっか》さんに向けて投げ付けた。
「なっ!」
唐突に現れ、飛来する素材に立花さんの反応は遅れる。
単純な投擲ではあるが、無から有が生まれる攻撃に立花《りっか》さんの対処は遅れる。
後手に回った立花《りっか》さん。
右手の鋏で【口蝸牛《マウスネイル》の渦殻《かかく》】をはたき落とす。勢い自体はそれほどなく簡単に撃墜されるが、最初から攻撃が目的じゃない。
俺が逃げる時間を付くるのが目的だった。
その隙を利用して屋上から飛び降りる。
落下の途中で木々の枝を掴み入口へと引き返す。
廃病院の玄関にはうろうろと歩き回り、中を覗き込む川津 海未がいた。彼女は俺の姿を見ると捲し立てるように、立花《りっか》さんが中に入っていったことを告げる。
「な、中に立花さんが! それに凄い音もして……!」
「ああ。分かってる。でも、大丈夫だから早くこの場を離れよう!」
俺は【鎧】を解除してバイクに跨つ。
後ろを確認するが、立花《りっか》さんの姿はなかった。
素材を失い、未知の【魔物《モンスター》】と言う不安要素を残して俺は【扉《ダンジョン》】を後に下のだった。
◇
死体の山が転がる厨房。
切り刻まれた肉体を手に取り吟味するように月夜に照らす。
「り~ひっひ、り。そうですねぇー。いい切れ味だ。しかし、次は何を創りましょうか? り~ひっひ、りひひ。笑いが、笑いが止まらないですねぇ。理想ですぅ!」
死体の山の上を転がって笑う男。
その狂気の存在を誰も気付くことは無かった。
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