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念話と世界
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真面目過ぎて効率が悪い人に皆も出会ったことがあると思うんだ。真面目に授業受けているのに、成績が悪い学生やルールは守っているのに成果が出ない社会人。
それでいて、作業スピードが遅いとなるともう最悪。
同僚や仲間から嫌われ始めるなんてことがある。
それは既に自分の身で経験済み。
まあ、誰だって当たり前のことが、人の何倍も掛かる人間の相手なんてしたくないよね。
なにをやっても駄目な僕は、やりたいことも見つけられぬまま、23歳の年を重ねていた。
夢も目的も持たずに、ただ、生きてきた僕は気が付けば【不要な見張り】と呼ばれる職に就いていた。
◇
僕、ハナギリ・ソウが暮らしている国は【シノニム王国】。
領地の中心には、この国を築き上げた王が城に住んでおり、その城を囲むように円状に王家街が作られていた。
王家街の建築物は毎日手入れされピカピカ。遠く離れていても分かるくらいだから、相当手入れされてるんだと思う。
輝く【王家街《まち》】に住めるのはエリートばかりで、その殆んどの人が【異能】を持ってるんだ。
そんな王家街は凡人は入ることすら許されない。上流階級に続く階段は果てしなく遠かった。
「そんなに見たところで、私たちが入れる訳ないでしょう? それともなに? まさか自分が上流階級にでもなれると思ってるわけ?」
僕の隣で横になる少女が毒を吐く。
彼女の名前はオキド・ベル。
同僚だ。
もっとも、僕たちのやっていることを仕事と呼んでも良ければだけど……。
「別にそういうつもりで見てたんじゃないよ。ただ、色んな人がいるんだなと思ってただけ」
「だからって、毎日毎日、真面目に見張りなんてしなくてもいいじゃない。私たちがいるのは【記念の城壁】。攻めてくる敵なんて誰もいやしないわよ」
「それも分かってるって」
僕はそう言って眼下を見下ろす。
僕ががいるのは3階建ての建造物よりも少し高い壁だった。かつてはこの壁が隣国からの侵略を防ぐために役に立っていたそうだが、戦争が終わった今となっては不要の産物。しかし、この大陸の戦争を終わらせた先代の国王が、「平和の象徴として残しておこう」と宣言したために残ったのだが。
それと同時に、門の上で敵が攻めてこないか監視する【見張人《みはりびと》】の職業も同じく残されたらしい。もっとも、この職業は僕のような無能を救済するための処置だと知ったのは去年。ここで働き始めて4年目のことだった。
「いえ、絶対分かってないわ。私たちはこっちよ」
ベルが西側を指差す。
そこには無数の住宅街が並んでいた。
下街《したまち》。
普通の人々が暮らす街だった。
「こうして、ただ、壁の上にいるだけで必要最低限の賃金は貰えるんだから、余計なことは考えないことね。今更、変に誇りを持ったところで、私たちは何にもなれないのよ」
「……」
ベルは言いたいことを吐き出せて満足したのか目を閉じた。
彼女の金髪はロクに手入れされていないのかゴワゴワ。雨で塗れると毛量が半分以下になるんだから驚きだ。
汚れた金髪と共に毒を吐くのがベル。
こんな小言に5年も付き合えば――嫌でも慣れる。
◇
「なぁ、そこの兄《あん》ちゃん。ひとつ聞いてもいいか? なんでこんな仕事をしているんだよ? 恥ずかしくないのか?」
門に向かって失礼な言葉で呼びかける声があった。
その声に僕は顔を出す。
声が聞こえてきたのは【壁】の東側。
ということは【枯挟街《こきょうがい》】の方か。壁と【竜の山】に挟まれた街。その実態は無能者や【異能】によって問題を起こした人々が集まっている場所だった。
でも、僕はこの街はこの街で好きなんだけどな。
「いつ見てもやる気のない顔しやがって」
僕を呼び出したのは、まだ、中学生くらいの子供だった。
夕日のような橙《オレンジ》の髪。【枯挟街《こきょうがい》】に住んでいるとは思えないほど小奇麗な服装だった。
後は猫のような目が特徴。
如何にも生意気そうだ。
「君は――誰?」
顔を見ても僕はこの少年と話した記憶は思い浮かばない。初めての話す大人にこの態度とはお灸を据えた方がいいのだろうか?
相手が【異能】を持ってなければだけど。
「俺か? 俺は、奇跡《きせき》の翼《つばさ》を持つ男――オシビ・キアカだ! よろしくな!」
壁に向かって手を伸ばす。
が、その手は遥か眼下。腕が伸びる【異能】でも無ければ届きはしない。派手な自己紹介を受けた後。どう対応しようかと悩む僕に、キアカは何を勘違いしたのだろう。「あ、お前、俺を見下すんじゃねぇ」と怒鳴った。
【壁】の上にいるのが仕事なので、文句言われてもどうしようもないんだけどな……。
無言の俺に言う。
「いいから、俺の質問に答えろよ!」
「答えろって言われてもな」
なんで、この仕事をしてるかと言えば、叔母に紹介されただけだし……。
そのことを大きな声で伝える。
「なんだよ。は、そんなことも自分で決めてないのかよ。とんだ底辺大人だな。安心したぜ」
「そう思って貰えたなら、僕がこの仕事をしてて良かったのかもね」
「嫌味に決まってんだろ、馬鹿!」
大声で叫び合う。【枯挟街】での騒ぎは日常茶飯事。子供が叫んでいても気に留める人はいない。
だが、【下街】は違う。
【壁】の上で叫ぶ俺を怪訝そうに見つめていた。
だが、何よりも不機嫌になったのは下でも外でも内でもない。
隣にいるベルだった。
「隣でギャンギャン煩いのよ! 話があるなら下に行ってきなさい!」
容赦なく頬を叩かれた。
寝起きの彼女はどんな竜よりも狂暴だった。
それでいて、作業スピードが遅いとなるともう最悪。
同僚や仲間から嫌われ始めるなんてことがある。
それは既に自分の身で経験済み。
まあ、誰だって当たり前のことが、人の何倍も掛かる人間の相手なんてしたくないよね。
なにをやっても駄目な僕は、やりたいことも見つけられぬまま、23歳の年を重ねていた。
夢も目的も持たずに、ただ、生きてきた僕は気が付けば【不要な見張り】と呼ばれる職に就いていた。
◇
僕、ハナギリ・ソウが暮らしている国は【シノニム王国】。
領地の中心には、この国を築き上げた王が城に住んでおり、その城を囲むように円状に王家街が作られていた。
王家街の建築物は毎日手入れされピカピカ。遠く離れていても分かるくらいだから、相当手入れされてるんだと思う。
輝く【王家街《まち》】に住めるのはエリートばかりで、その殆んどの人が【異能】を持ってるんだ。
そんな王家街は凡人は入ることすら許されない。上流階級に続く階段は果てしなく遠かった。
「そんなに見たところで、私たちが入れる訳ないでしょう? それともなに? まさか自分が上流階級にでもなれると思ってるわけ?」
僕の隣で横になる少女が毒を吐く。
彼女の名前はオキド・ベル。
同僚だ。
もっとも、僕たちのやっていることを仕事と呼んでも良ければだけど……。
「別にそういうつもりで見てたんじゃないよ。ただ、色んな人がいるんだなと思ってただけ」
「だからって、毎日毎日、真面目に見張りなんてしなくてもいいじゃない。私たちがいるのは【記念の城壁】。攻めてくる敵なんて誰もいやしないわよ」
「それも分かってるって」
僕はそう言って眼下を見下ろす。
僕ががいるのは3階建ての建造物よりも少し高い壁だった。かつてはこの壁が隣国からの侵略を防ぐために役に立っていたそうだが、戦争が終わった今となっては不要の産物。しかし、この大陸の戦争を終わらせた先代の国王が、「平和の象徴として残しておこう」と宣言したために残ったのだが。
それと同時に、門の上で敵が攻めてこないか監視する【見張人《みはりびと》】の職業も同じく残されたらしい。もっとも、この職業は僕のような無能を救済するための処置だと知ったのは去年。ここで働き始めて4年目のことだった。
「いえ、絶対分かってないわ。私たちはこっちよ」
ベルが西側を指差す。
そこには無数の住宅街が並んでいた。
下街《したまち》。
普通の人々が暮らす街だった。
「こうして、ただ、壁の上にいるだけで必要最低限の賃金は貰えるんだから、余計なことは考えないことね。今更、変に誇りを持ったところで、私たちは何にもなれないのよ」
「……」
ベルは言いたいことを吐き出せて満足したのか目を閉じた。
彼女の金髪はロクに手入れされていないのかゴワゴワ。雨で塗れると毛量が半分以下になるんだから驚きだ。
汚れた金髪と共に毒を吐くのがベル。
こんな小言に5年も付き合えば――嫌でも慣れる。
◇
「なぁ、そこの兄《あん》ちゃん。ひとつ聞いてもいいか? なんでこんな仕事をしているんだよ? 恥ずかしくないのか?」
門に向かって失礼な言葉で呼びかける声があった。
その声に僕は顔を出す。
声が聞こえてきたのは【壁】の東側。
ということは【枯挟街《こきょうがい》】の方か。壁と【竜の山】に挟まれた街。その実態は無能者や【異能】によって問題を起こした人々が集まっている場所だった。
でも、僕はこの街はこの街で好きなんだけどな。
「いつ見てもやる気のない顔しやがって」
僕を呼び出したのは、まだ、中学生くらいの子供だった。
夕日のような橙《オレンジ》の髪。【枯挟街《こきょうがい》】に住んでいるとは思えないほど小奇麗な服装だった。
後は猫のような目が特徴。
如何にも生意気そうだ。
「君は――誰?」
顔を見ても僕はこの少年と話した記憶は思い浮かばない。初めての話す大人にこの態度とはお灸を据えた方がいいのだろうか?
相手が【異能】を持ってなければだけど。
「俺か? 俺は、奇跡《きせき》の翼《つばさ》を持つ男――オシビ・キアカだ! よろしくな!」
壁に向かって手を伸ばす。
が、その手は遥か眼下。腕が伸びる【異能】でも無ければ届きはしない。派手な自己紹介を受けた後。どう対応しようかと悩む僕に、キアカは何を勘違いしたのだろう。「あ、お前、俺を見下すんじゃねぇ」と怒鳴った。
【壁】の上にいるのが仕事なので、文句言われてもどうしようもないんだけどな……。
無言の俺に言う。
「いいから、俺の質問に答えろよ!」
「答えろって言われてもな」
なんで、この仕事をしてるかと言えば、叔母に紹介されただけだし……。
そのことを大きな声で伝える。
「なんだよ。は、そんなことも自分で決めてないのかよ。とんだ底辺大人だな。安心したぜ」
「そう思って貰えたなら、僕がこの仕事をしてて良かったのかもね」
「嫌味に決まってんだろ、馬鹿!」
大声で叫び合う。【枯挟街】での騒ぎは日常茶飯事。子供が叫んでいても気に留める人はいない。
だが、【下街】は違う。
【壁】の上で叫ぶ俺を怪訝そうに見つめていた。
だが、何よりも不機嫌になったのは下でも外でも内でもない。
隣にいるベルだった。
「隣でギャンギャン煩いのよ! 話があるなら下に行ってきなさい!」
容赦なく頬を叩かれた。
寝起きの彼女はどんな竜よりも狂暴だった。
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