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念話と世界
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初めてパーティーを組んでから1週間が経過していた。
「ねぇ、ソウはさ。なんで見張りなんてやってるの?」
「その質問、キアカにもされたよ」
いつものように【竜の森】に出た僕たち4人。依頼も受けていないのに危険な森に行くことは馬鹿と思われるだろうが、それだけでも無性に楽しかった。
キアカとイタリカは昼食用の食料を確保しようと森の深くに消えていった。
残された僕は全身鎧のオルキスと川の畔で休息を取る。
「だってさ、普通、見張りってどうしようもない人がやるでしょ?」
「そうかな? プライドさえ捨てれば楽だよ」
「それが出来ないのよ」
人間は承認欲は誰もが持っている。
底辺の底である無能に身を落とすことが出来る人間はそうはいないとオルキスは言う。
そうかな?
壁の上で話したことがあるのは、ベルだけだけど、彼女も普通の人間と変わらない。ちょっと、性格に難があるだけだ。
「だから、なんでソウは捨てれたのかなって」
「捨てたっていうか」
なにもない。
そもそも捨てる物さえ持ってなかった。
ただ、それだけ。
「そうなんだ。でも、そこがいいの」
オルキスが鎧を脱いで傍らに置いていく。鎧の下はインナーしか着こんでいないようで、健康的な身体のラインが露になる。
ハスキーボイスにイタリカのような甘い声を含ませて、オルキスがそっと僕の膝に手を置いた。
「私、何もない男って好きなのよね。簡単に支配出来るっていうかさ。【異能】もないし、プライドもない。なんてたまらないの!!」
頬を赤めて僕に抱きつく。
本来ならば嬉しいはずの行動も言葉のせいで複雑だった。
でも、まあ、誰かに好かれるのは嬉しいことか。
「ねぇ、このまま2人でしない?」
「するって何を……?」
「もう、分かってるくせに! ほら、これ見てもその気にならない?」
オルキスは胸のインナーを前に引っ張り胸元を見せつける。
思わず俺は視線を逸らす。
そして、ポケットに入れている鉱石を叩いた。キアカが俺達に渡した念話石だ。キアカの念話は、同じ物質に体毛など身体の一部を張り付けておくと、こちらからも念話が可能になるらしい。
しかも、念話可能な距離も伸びるし一対一で会話が出来る。こういう時にぴったりだ。僕は直ぐに助けを求めた。
『どうした?』
『非常事態だ、戻ってきてくれ』
『まさか、竜か! どんな竜だ!?』
『竜というか雌豹《めひょう》だな』
『『豹竜《レオパルド・ドラゴン》』か……!! 分かった、すぐ戻る!!』
念話をしている間もオルキスの手は止まらない。
今度は僕の装備を脱がそうとしてくる。
思えばこの鎧をくれたのもオルキス。こうなることを予期していたのか、脱がせやすい鎧を渡されたようだ。
『なるべく、早く頼む! 僕の装備が……!?』
『ああ、任せとけって!』
それから数分後。
鎧を脱いだオルキスに襲われる僕の姿に、竜と戦うつもりでやってきた2人が絶句したのは言うまでもないことだった。
◇
僕が久しぶりに壁の上で見張り業に付いていた。なんだかんだと毎日のようにキアカ達と一緒に行動をしていたからか、実に2週間ぶりの本職だった。
依頼がなくても森で遊んでいたこの2週間は夢のような時間だった。まさか、無能な僕が【竜の森】に入る日がこようとは。
女性から言い寄られたこともいい経験と言えばいい経験だ。
本日はイタリカとオルキスが用事があるらしく、完全自由。キアカも手に入れた素材で武器を作るらしい。
オルキスが「お土産持ってくるから、楽しみにしておいて」と耳打ちして分かれたのが少し心配だけど……。また、襲われたりしないよね?
久しぶりに壁の上から街を眺めていると、人々が慌ただしく走り回っていた。僕のいる場所にまで声が聞こえてきた。
「大変だ! また、【王家街】で女性が切り裂かれたぞ!」
「また、今週に入って3回目よ?」
どうやら、【王家街】の【蜥蜴車《とかげしゃ》】で女性が襲われる被害が多発しているらしい。あ、【蜥蜴車】って言うのは、【王家街】に続く階段を登るため、蜥蜴竜に車を引かせる乗り物だ。
そりゃ、垂直に近い階段を自力で登るのは大変。その分、蜥蜴竜は崖を登ることが得意だから、すぐに到着する。
「何度も【蜥蜴車】を襲うってことは、上流階級に恨みでもあるのかしらね」
「ベル、起きてたんだ」
「毎度毎度、こんな騒がれたら寝れるもんじゃないわよ。ま、でも上流階級様を襲ったら、すぐに犯人は捕まるでしょ」
「そうだよね」
【蜥蜴車】に乗る人間ということは、少なくとも上に行ける人間ということ。国とのパイプを持ってると言っても過言ではない。
ならば、この王国を守っている【王国兵団】が躍起となって探すだろう。戦闘において大陸最強と呼ばれる兵団を相手にするとは、なんという強気な犯人だろう。
そんな暢気に王国の騒ぎを眺めていた俺は、すぐに他人事でないことを知った。
◇
「おい! 大変だ……! オルキスが……」
翌日、僕の元にやってきたのはキアカとイタリカの2人だった。壁を降りた僕を見るなりキアカとイタリカが同時に抱き着いてくる。
「オルキスがどうしたの……?」
「どうしたも、こうしたもねぇんだ。【蜥蜴車襲撃事件】に巻き込まれたんだよ」
「え……?」
じゃあ、昨日の騒ぎの犠牲者はオルキスだったのか? 彼女も【異能】を持っている。【王家街】に用があっても可笑しくはないか。
「ごめん……。いつも私も一緒に行くんだけど、ちょっとキアカくんと武器屋に行ってて。私がもっと強引にオルキス誘ってれば、殺されなかったのに」
「いや、イタリカのせいじゃない。俺がもっと誘ってれば……」
俺に抱き着きながら泣き続ける二人。
イタリカとオルキスは下町に宿を借り、荷物が一杯になったら【王家街】にある自宅にへと帰る生活をしていたらしい。
2人の用事は自宅にへと帰ること。
その前にキアカとイタリカは武器屋によったらしい。
オルキスが1人で荷物を運び――殺された。
「そんなことに……」
壁の上で、どこか他人事に感じていたが――自分の中にある何かが崩れていった。
「ねぇ、ソウはさ。なんで見張りなんてやってるの?」
「その質問、キアカにもされたよ」
いつものように【竜の森】に出た僕たち4人。依頼も受けていないのに危険な森に行くことは馬鹿と思われるだろうが、それだけでも無性に楽しかった。
キアカとイタリカは昼食用の食料を確保しようと森の深くに消えていった。
残された僕は全身鎧のオルキスと川の畔で休息を取る。
「だってさ、普通、見張りってどうしようもない人がやるでしょ?」
「そうかな? プライドさえ捨てれば楽だよ」
「それが出来ないのよ」
人間は承認欲は誰もが持っている。
底辺の底である無能に身を落とすことが出来る人間はそうはいないとオルキスは言う。
そうかな?
壁の上で話したことがあるのは、ベルだけだけど、彼女も普通の人間と変わらない。ちょっと、性格に難があるだけだ。
「だから、なんでソウは捨てれたのかなって」
「捨てたっていうか」
なにもない。
そもそも捨てる物さえ持ってなかった。
ただ、それだけ。
「そうなんだ。でも、そこがいいの」
オルキスが鎧を脱いで傍らに置いていく。鎧の下はインナーしか着こんでいないようで、健康的な身体のラインが露になる。
ハスキーボイスにイタリカのような甘い声を含ませて、オルキスがそっと僕の膝に手を置いた。
「私、何もない男って好きなのよね。簡単に支配出来るっていうかさ。【異能】もないし、プライドもない。なんてたまらないの!!」
頬を赤めて僕に抱きつく。
本来ならば嬉しいはずの行動も言葉のせいで複雑だった。
でも、まあ、誰かに好かれるのは嬉しいことか。
「ねぇ、このまま2人でしない?」
「するって何を……?」
「もう、分かってるくせに! ほら、これ見てもその気にならない?」
オルキスは胸のインナーを前に引っ張り胸元を見せつける。
思わず俺は視線を逸らす。
そして、ポケットに入れている鉱石を叩いた。キアカが俺達に渡した念話石だ。キアカの念話は、同じ物質に体毛など身体の一部を張り付けておくと、こちらからも念話が可能になるらしい。
しかも、念話可能な距離も伸びるし一対一で会話が出来る。こういう時にぴったりだ。僕は直ぐに助けを求めた。
『どうした?』
『非常事態だ、戻ってきてくれ』
『まさか、竜か! どんな竜だ!?』
『竜というか雌豹《めひょう》だな』
『『豹竜《レオパルド・ドラゴン》』か……!! 分かった、すぐ戻る!!』
念話をしている間もオルキスの手は止まらない。
今度は僕の装備を脱がそうとしてくる。
思えばこの鎧をくれたのもオルキス。こうなることを予期していたのか、脱がせやすい鎧を渡されたようだ。
『なるべく、早く頼む! 僕の装備が……!?』
『ああ、任せとけって!』
それから数分後。
鎧を脱いだオルキスに襲われる僕の姿に、竜と戦うつもりでやってきた2人が絶句したのは言うまでもないことだった。
◇
僕が久しぶりに壁の上で見張り業に付いていた。なんだかんだと毎日のようにキアカ達と一緒に行動をしていたからか、実に2週間ぶりの本職だった。
依頼がなくても森で遊んでいたこの2週間は夢のような時間だった。まさか、無能な僕が【竜の森】に入る日がこようとは。
女性から言い寄られたこともいい経験と言えばいい経験だ。
本日はイタリカとオルキスが用事があるらしく、完全自由。キアカも手に入れた素材で武器を作るらしい。
オルキスが「お土産持ってくるから、楽しみにしておいて」と耳打ちして分かれたのが少し心配だけど……。また、襲われたりしないよね?
久しぶりに壁の上から街を眺めていると、人々が慌ただしく走り回っていた。僕のいる場所にまで声が聞こえてきた。
「大変だ! また、【王家街】で女性が切り裂かれたぞ!」
「また、今週に入って3回目よ?」
どうやら、【王家街】の【蜥蜴車《とかげしゃ》】で女性が襲われる被害が多発しているらしい。あ、【蜥蜴車】って言うのは、【王家街】に続く階段を登るため、蜥蜴竜に車を引かせる乗り物だ。
そりゃ、垂直に近い階段を自力で登るのは大変。その分、蜥蜴竜は崖を登ることが得意だから、すぐに到着する。
「何度も【蜥蜴車】を襲うってことは、上流階級に恨みでもあるのかしらね」
「ベル、起きてたんだ」
「毎度毎度、こんな騒がれたら寝れるもんじゃないわよ。ま、でも上流階級様を襲ったら、すぐに犯人は捕まるでしょ」
「そうだよね」
【蜥蜴車】に乗る人間ということは、少なくとも上に行ける人間ということ。国とのパイプを持ってると言っても過言ではない。
ならば、この王国を守っている【王国兵団】が躍起となって探すだろう。戦闘において大陸最強と呼ばれる兵団を相手にするとは、なんという強気な犯人だろう。
そんな暢気に王国の騒ぎを眺めていた俺は、すぐに他人事でないことを知った。
◇
「おい! 大変だ……! オルキスが……」
翌日、僕の元にやってきたのはキアカとイタリカの2人だった。壁を降りた僕を見るなりキアカとイタリカが同時に抱き着いてくる。
「オルキスがどうしたの……?」
「どうしたも、こうしたもねぇんだ。【蜥蜴車襲撃事件】に巻き込まれたんだよ」
「え……?」
じゃあ、昨日の騒ぎの犠牲者はオルキスだったのか? 彼女も【異能】を持っている。【王家街】に用があっても可笑しくはないか。
「ごめん……。いつも私も一緒に行くんだけど、ちょっとキアカくんと武器屋に行ってて。私がもっと強引にオルキス誘ってれば、殺されなかったのに」
「いや、イタリカのせいじゃない。俺がもっと誘ってれば……」
俺に抱き着きながら泣き続ける二人。
イタリカとオルキスは下町に宿を借り、荷物が一杯になったら【王家街】にある自宅にへと帰る生活をしていたらしい。
2人の用事は自宅にへと帰ること。
その前にキアカとイタリカは武器屋によったらしい。
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